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電力 ・ 6 / 16

送電線路の電気的特性(R・L・C)

読み終えると、こうなる

電力ケーブルのカタログに載っている抵抗値・インダクタンス・静電容量の数字が、電圧降下計算やフェランチ効果とどうつながっているかを理解して読めるようになる

  • 送電線路のR・L・Cそれぞれが、線間距離や導体の太さ、架空か地中かでどう変化するかを説明できる
  • 電圧降下の概算式 ΔV≈√3 I(Rcosθ+Xsinθ) を使って、条件から電圧降下を計算できる。あわせて、送電線路のリアクタンスを基準容量・基準電圧で百分率表示した%リアクタンスに変換でき、送電端・受電端の相差角から送電電力を計算する式 Ps=(Vs・Vr/X)sinδ も使える。線路に直列コンデンサを挿入してリアクタンスを補償したときの合成%リアクタンス・送電電力への影響も計算できる
  • フェランチ効果が起きる条件(無負荷・軽負荷・長距離)と、電圧が上昇する理由を説明できる。あわせて、送電線をπ形等価回路(直列リアクタンスと送受電端のアドミタンス)で表したとき、受電端が無負荷の場合の受電端電圧・送電端電流を計算できる
  • 送電損失(3I²R)と受電端電力に対する損失率の条件から、電線の最小断面積を計算できる
考えてみよう

電力ケーブルのカタログには、抵抗値だけでなく、インダクタンスや静電容量といった見慣れない 数字も載っている。ケーブルは電気を通すだけの導線のはずなのに、なぜ抵抗以外の性質まで 気にする必要があるのか。

そして、電力会社の送電線では、深夜など電気をあまり使わない時間帯に、送った電圧より 受け取る側の電圧の方が高くなるという、直感に反する現象が起きることがある。電圧は流れる うちに下がるものだと思っていると、この現象はうまく説明できない。

このトピックを読み終えるころには、送電線路やケーブルが持つ3つの電気的な性質から、電圧降下と この不思議な電圧上昇の両方を、仕組みから説明できるようになっている。

種明かしは、送電線路が単なる「抵抗のある導線」ではなく、抵抗・インダクタンス・静電容量 という3つの性質を同時に持つ回路素子だという点にある。

送電線路を表す3要素 — R・L・C

送電線路(電力ケーブルも含む)は、電気的には次の3つのパラメータで表される。

  • R(抵抗):導体そのものが持つ電気抵抗
  • L(インダクタンス):電流が作る磁束による自己インダクタンス・相互インダクタンス
  • C(静電容量):導体間・大地との間に生じる静電容量

大地への漏れ電流を表すコンダクタンスGも理論上は存在するが、通常は非常に小さいため無視して 扱う。試験で問われるのは主にこのR・L・Cの3つと、それぞれが線路の長さ・太さ・線間距離で どう変わるかという点だ。

R(抵抗)— 材質・太さ・温度で決まり、交流ではわずかに増える

抵抗Rは、導体の材質(銅かアルミか)、断面積、こう長(線路の長さ)で決まる。断面積が大きい ほど、また長さが短いほど抵抗は小さくなる。加えて、温度が上がると導体の抵抗も増加する (導体の温度係数)。

さらに交流特有の現象として、表皮効果がある。交流電流は導体の表面付近に集中して流れる 性質があり、実効的な電流の通り道(断面積)が直流のときより狭くなる。そのため、同じ導体でも 交流抵抗は直流抵抗よりわずかに大きくなる。

L(インダクタンス)— 線間距離が離れるほど、導体が細いほど大きい

インダクタンスLは、電流が作る磁束によって生じる。3線間の幾何学的な位置関係(線間距離)と 導体の太さで決まり、線間距離が離れるほど、導体が細いほど大きくなる

Lは電圧降下の主要因の一つになる。送電線に流れる電流のうち、電圧に対して位相が遅れる成分 (遅れ電流、力率の悪い負荷ほど大きい)は、このLによるリアクタンス降下(XsinθX\sin\thetaの項) を通じて電圧降下を大きくする。

C(静電容量)— 線間距離が近いほど、導体が太いほど大きい

静電容量Cは、導体間・大地との間に生じる。平行平板コンデンサと同じ考え方で、線間距離が 近いほど、導体が太いほど大きくなる——Lとは増減の向きが逆になる点に注意がいる。

LとCの増減の向きは、迷ったら「距離が近いほどコンデンサの容量は大きい」という基本に戻って 考える。線間距離を離すと、磁束の鎖交量が増えてLは大きくなり、逆に電極(導体)間の距離が 開くのでCは小さくなる。線間距離を離せば両方とも下がる、と思い込むと計算を誤る。

Cは、電圧に対して位相が進む電流(進み電流、充電電流)を生む。この充電電流は、線路に負荷が つながっていなくても、線間・対地間の静電容量を通じて常に流れ続ける。

架空送電線路と地中送電線路の線路定数比較

ここまで見てきたR・L・Cの性質は、鉄塔に張られた架空送電線路を念頭に置いた説明だったが、 都市部などでよく使われる地中送電線路(ケーブル)では、R・L・Cの数値の出方が架空送電線路と 大きく変わる。理由は単純で、地中送電線路は導体間の距離(線間距離)が架空送電線路よりも はるかに近いためだ。

  • 静電容量Cは、架空送電線路よりかなり大きい:線間距離が近いほど大きくなるというCの 性質(平行平板コンデンサと同じ考え方)がそのまま働く。地中送電線路は導体同士やケーブルの 遮蔽層との距離が近いため、架空送電線路よりCがかなり大きくなる。
  • インダクタンスLは、架空送電線路より小さい:Lは線間距離が離れるほど大きくなる性質を 持つため、線間距離が近い地中送電線路ではLは架空送電線路より小さくなる——Cとは逆方向の 変化になる。
  • 導体抵抗R自体の性質(表皮効果による交流抵抗の増加など)は、架空・地中どちらの線路にも 共通して当てはまる
「地中送電線路は距離が近いから、R・L・Cすべてが架空送電線路より大きくなる」と一括りに 覚えるのは誤り。線間距離が近いことは、CとLに**逆方向**に効く。距離が近いほどCは大きく、 Lは小さくなる——これはこの章の冒頭で見た「線間距離を離すとLは大きくCは小さくなる」という 関係を、地中送電線路という具体的な場面に当てはめただけだと考えれば、丸暗記せずに導ける。

地中送電線路のCが大きいという性質は、次に見るフェランチ効果とも直結する。無負荷・軽負荷の 条件がそろったとき、Cが大きい地中送電線路ほど進み電流(充電電流)の影響が強く出やすく、 フェランチ効果による電圧上昇が問題になりやすい。

電圧降下の概算式と、逆に電圧が上がるフェランチ効果

送電線路の電圧降下は、次の概算式で見積もれる。

ΔV3I(Rcosθ+Xsinθ)\Delta V \approx \sqrt{3}\, I (R\cos\theta + X\sin\theta)

RRは抵抗、XXはLによるリアクタンス(X=2πfLX=2\pi f L)、cosθ\cos\thetaは力率、IIは電流だ。 負荷が重いほど電流IIが大きくなり、電圧降下も大きくなる——というのが基本の挙動だ。

ところが、負荷がほとんどない(無負荷・軽負荷)長距離の送電線路では、事情が変わる。負荷電流が 小さくなる一方で、Cによる進み電流(充電電流)は負荷の大小に関係なく流れ続ける。この進み電流 がLによる電圧降下分を打ち消し、さらに上回ると、受電端電圧が送電端電圧よりも高くなる。 これがフェランチ効果だ。深夜などの軽負荷時間帯や、こう長の長い送電線・地中ケーブル (Cが大きい)で特に問題になりやすい。

フェランチ効果は「電圧が下がる」現象ではなく「電圧が上がる」現象だという点を、原因からセットで 覚える。無負荷・軽負荷+長距離という条件がそろうと、Cによる進み電流がLによる降下を上回り、 受電端の方が送電端より電圧が高くなる。

π形等価回路で、フェランチ効果を数値で計算する

前節までのフェランチ効果は「無負荷・軽負荷・長距離の条件で受電端電圧が送電端電圧より 高くなる」という定性的な説明だった。ここでは、送電線をπ形等価回路という回路モデルで 表し、実際にどれだけ電圧が上昇するのかを数値で計算する方法を見ていく。

π形等価回路は、送電線1相分を、送電端と受電端の間に置いた直列リアクタンス jX(線路の インダクタンスLに由来)と、送電端・受電端それぞれに半分ずつ振り分けた並列アドミタンス jB/2(線路の静電容量Cに由来)で表したモデルだ。回路の見た目がギリシャ文字のπに似ている ことからこの名がある。

受電端が無負荷(電流を消費する負荷がつながっていない)とき、受電端に流れ込む電流は、 受電端側のアドミタンス jB/2 を通る充電電流だけになる。この電流が直列リアクタンス jX を 流れることで、送電端相電圧 EsE_s と受電端相電圧 ErE_r の間には次の関係が成り立つ。

Er=Es1XB2E_r = \frac{E_s}{1 - \dfrac{XB}{2}}

XB/2XB/2 は正の小さな値になるため、分母が1より小さくなり、ErE_rEsE_s より大きくなる—— これがフェランチ効果を式の形で表したものだ。このときの送電端電流(1線あたり)は、送電端側と 受電端側、両方のアドミタンスを流れる充電電流の合計になる。

Is=B2(Es+Er)I_s = \frac{B}{2}(E_s + E_r)

例題

三相3線式1回線の送電線路の一相がπ形等価回路(jX=j100Ω、jB=j1.0mS)で表され、送電端の 線間電圧が77.0kVであり、受電端が無負荷であるとする。

まず送電端の相電圧に直す(π形等価回路は1相分のモデルなので、線間電圧のまま代入しない)。

Es=77000344,455VE_s = \frac{77000}{\sqrt{3}} \approx 44{,}455\text{V}

XB/2XB/2を計算すると、

XB2=100×0.0012=0.05\frac{XB}{2} = \frac{100 \times 0.001}{2} = 0.05

受電端相電圧は、

Er=44,45510.05=44,4550.9546,795VE_r = \frac{44{,}455}{1 - 0.05} = \frac{44{,}455}{0.95} \approx 46{,}795\text{V}

線間電圧に戻すと、

Er(線間)46,795×381,043V81.0kVE_r(\text{線間}) \approx 46{,}795 \times \sqrt{3} \approx 81{,}043\text{V} \approx 81.0\text{kV}

送電端の線間電圧77.0kVに対し、受電端では約81.0kVまで電圧が上昇している。送電端電流は、

Is=0.0012×(44,455+46,795)45.6AI_s = \frac{0.001}{2} \times (44{,}455 + 46{,}795) \approx 45.6\text{A}
π形等価回路の計算でつまずくとしたら、ほぼ確実に「線間電圧のまま代入してしまう」ミスだ。 π形等価回路は1相分(相電圧基準)のモデルなので、与えられた線間電圧は必ず$\sqrt{3}$で 割ってから代入し、最後に求めた相電圧は$\sqrt{3}$を掛けて線間電圧に戻す。この往復を 忘れなければ、$E_r=E_s/(1-XB/2)$という式自体は「フェランチ効果を分母1未満の割り算で 表しただけ」とシンプルに理解できる。

T形等価回路 — 負荷電流がある送電線路の電圧降下を、ベクトルで正確に計算する

π形等価回路は「受電端が無負荷」という特殊な条件のもとで、静電容量による充電電流だけを 主役にしたモデルだった。これに対し、実際の送電線路の多くは負荷電流が流れている状態にある。 負荷電流がある一般的な送電線路の電圧降下を扱うには、T形等価回路(線路のインピーダンス Z=R+jXZ=R+jXを送受電端の間に直列に置いた簡略モデル)を使う。線路の静電容量は、負荷電流に比べて 影響が小さいとみなせる短距離〜中距離の線路では無視して考えることが多い。

冒頭の電圧降下の概算式ΔV3I(Rcosθ+Xsinθ)\Delta V\approx\sqrt{3}I(R\cos\theta+X\sin\theta)も、実はこのT形 (直列インピーダンス)モデルを土台にした近似式だった。ここでは、その近似の中身をベクトル (フェーザ)計算で確認する。

受電端相電圧ErE_rを基準(位相角0)にとり、そこに遅れ力率cosθ\cos\thetaの負荷電流IIが流れて いるとする。送電端相電圧EsE_sは、ErE_rに電流IIがインピーダンスZ=R+jXZ=R+jXを通過することで 生じる電圧降下ベクトルを足し合わせたものになる。この電圧降下ベクトルは、ErE_rと同じ向きの 同相成分と、ErE_rに対して90度ずれた直角成分に分解できる。

Es=(Er+I(Rcosθ+Xsinθ))2+(I(XcosθRsinθ))2E_s = \sqrt{\left(E_r + I(R\cos\theta+X\sin\theta)\right)^2 + \left(I(X\cos\theta-R\sin\theta)\right)^2}

このうちI(Rcosθ+Xsinθ)I(R\cos\theta+X\sin\theta)の項が、電圧降下の概算式に出てくる項そのものだ。概算式は、 直角成分I(XcosθRsinθ)I(X\cos\theta-R\sin\theta)を「ErE_rに対して十分小さい」とみなして無視し、同相成分 だけを足し合わせた近似になっている。

例題

受電端相電圧ErE_r=6000V、受電端電流II=100A(力率0.8、遅れ、cosθ\cos\theta=0.8、 sinθ\sin\theta=0.6)、線路インピーダンスを1相あたりRR=2Ω、XX=3Ωとする送電線路がある。

まず同相成分を求める。

I(Rcosθ+Xsinθ)=100×(2×0.8+3×0.6)=100×3.4=340VI(R\cos\theta+X\sin\theta) = 100\times(2\times0.8+3\times0.6) = 100\times3.4 = 340\text{V}

次に直角成分を求める。

I(XcosθRsinθ)=100×(3×0.82×0.6)=100×1.2=120VI(X\cos\theta-R\sin\theta) = 100\times(3\times0.8-2\times0.6) = 100\times1.2 = 120\text{V}

この2つの成分から、送電端相電圧をベクトル(フェーザ)計算で求める。

Es=(6000+340)2+1202=63402+1202=40,195,600+14,4006341VE_s = \sqrt{(6000+340)^2+120^2} = \sqrt{6340^2+120^2} = \sqrt{40{,}195{,}600+14{,}400} \approx 6341\text{V}

一方、電圧降下の概算式(直角成分を無視した近似)で求めると、

EsEr+I(Rcosθ+Xsinθ)=6000+340=6340VE_s \approx E_r + I(R\cos\theta+X\sin\theta) = 6000+340 = 6340\text{V}

正確なベクトル計算(約6341V)と概算式(6340V)の差はわずか1V程度しかない。直角成分 (120V)は、同相成分(340V)やErE_r(6000V)に比べて小さく、しかも2乗されたうえで 足し合わされるため、結果への影響がさらに小さくなる。この「直角成分の影響は小さい」という 性質が、実務で概算式が広く使われている理由になっている。

π形等価回路とT形等価回路は、どちらも「送電線路を回路素子に置き換えたモデル」という共通点は あるが、扱う状況がまったく違う。π形は**無負荷**時の充電電流とフェランチ効果(電圧の **上昇**)を扱うモデルで、線路の静電容量(アドミタンスB)が主役になる。T形(直列インピーダンス モデル)は**負荷あり**の一般的な状況での電圧**降下**を扱うモデルで、線路のインピーダンス (R・X)が主役になり、静電容量は多くの場合無視できる。「無負荷か、負荷ありか」「電圧が上がる 現象か、下がる現象か」という対で2つのモデルを区別しておくと混同しない。

%リアクタンス法と送電電力の式 — 送電線路がどれだけの電力を送れるかを見積もる

π形等価回路では「無負荷のときにどれだけ電圧が上がるか」を見たが、ここでは逆に、送電線路が 実際にどれだけの電力を送り出せるかを、2つの道具を使って見積もる。

%リアクタンス(パーセント法)— 線路のリアクタンスを「比率」で表す

送電線路のリアクタンスXX[Ω]は、そのままでは電圧階級の異なる線路同士を比較しにくい。そこで、 基準として決めた容量(基準容量PbaseP_{\text{base}}[MV・A])と電圧(基準電圧 VbaseV_{\text{base}}[kV])を使い、リアクタンスを百分率で表した%リアクタンス(%X)に 変換することがある。

%X=X×PbaseVbase2×100[%]\%X = \frac{X \times P_{\text{base}}}{V_{\text{base}}^2} \times 100 \quad [\%]

この式のポイントは、%Xの値が線路のリアクタンスXXだけでなく、どの基準容量・基準電圧を 選んだかによっても変わる、という点だ。%リアクタンスは線路固有の絶対値ではなく、基準の 取り方次第で数値が変わる相対的な指標であることを、まず押さえておく。

例題

抵抗を無視できる送電線路のリアクタンスが8Ωである。基準容量50MV・A、基準電圧66kVとして %リアクタンスを求める。

%X=8×50662×100=4004356×1009.2%\%X = \frac{8 \times 50}{66^2} \times 100 = \frac{400}{4356} \times 100 \approx 9.2\%
%リアクタンスの計算でつまずくとしたら、ほぼ確実に「どちらの電圧を基準電圧として使うか」だ。 送電端電圧・受電端電圧のどちらを基準にするかで結果が変わりうるため、問題文にある「基準電圧は 〇〇とする」という指定を必ず確認してから代入する。

送電電力の式 — 相差角が送電できる電力を決める

抵抗を無視できる短距離送電線路(直列リアクタンスXXだけで表せる線路)では、送電端電圧と 受電端電圧の位相差(相差角、記号δ\delta)が、送電できる電力の大きさを左右する。

Ps=Vs×VrX×sinδ[MW]P_s = \frac{V_s \times V_r}{X} \times \sin\delta \quad [\text{MW}]

VsV_sVrV_rは送電端・受電端の線間電圧[kV]、XXは1相分のリアクタンス[Ω]だ。δ\deltaが 大きいほどsinδ\sin\deltaも大きくなり送電電力は増えるが、sinδ\sin\deltaδ=90°\delta=90°で 最大値1をとり、それを超えるとむしろ減少に転じる。実務では、δ\deltaが90°に近づく手前の 段階で系統の同期を保てなくなる(安定度の限界)ため、送電電力を無制限に増やせるわけではない。

例題

送電端・受電端とも線間電圧66kVで一定の送電線路(X=8Ω)で、相差角δを20°としたときの 送電電力を求める(sin20°≒0.342)。

Ps=66×668×0.342=43568×0.342186.2MWP_s = \frac{66 \times 66}{8} \times 0.342 = \frac{4356}{8} \times 0.342 \approx 186.2\text{MW}
送電電力の式は、電圧降下の式($\sqrt{3}I(R\cos\theta+X\sin\theta)$)とは別物であることを 意識しておく。電圧降下の式は「電流」を主役に電圧の落ち幅を求める式、送電電力の式は 「相差角」を主役に送電端・受電端の間でやり取りできる電力そのものを求める式——扱っている 量が違う、と区別しておくと混同しない。

直列コンデンサによるリアクタンス補償 — 線路を「軽く」して送電できる電力を増やす

送電電力の式Ps=(Vs・Vr/X)sinδから分かるとおり、送電線路が送れる電力は、リアクタンスXXが 小さいほど大きくなる。この関係を逆手にとり、線路にコンデンサを直列に挿入して、線路自体が 持つリアクタンスを相殺・低減する設備が直列コンデンサだ。

送電線路のインダクタンスによる誘導性リアクタンスXLX_Lと、コンデンサの容量性リアクタンス XCX_Cは符号が逆になる。両者を直列に接続すると、線路全体の合成リアクタンスは差し引きで 求まる。

Xnet=XLXCX_{net} = X_L - X_C

XCX_Cの分だけ実効的なリアクタンスが小さくなるため、送電電力の式の分母XXが小さくなり、 同じ相差角δ\delta・同じ電圧でも、より大きな電力を送れるようになる。安定度の限界(δ\deltaの 実質的な上限)にも余裕が生まれるため、直列コンデンサは長距離送電線路の送電容量拡大・ 安定度向上策として使われる。

直列コンデンサは、力率改善に使う**進相コンデンサ**(負荷と並列に接続し、無効電力を供給して 力率を改善する設備)とは、接続の仕方も狙いもまったく別物だ。進相コンデンサは負荷と**並列**に 入れて無効電力の需給バランスを整えるのに対し、直列コンデンサは線路に**直列**に入れて線路 自体のリアクタンスを打ち消す。「コンデンサ=力率改善」という連想だけで考えると、直列 コンデンサの役割(送電容量・安定度の向上)を見落とす。

複数回線が並列に構成された系統で、一方の回線にだけ直列コンデンサが入っている場合、系統 全体の合成リアクタンス(合成%インピーダンス)を求めるには、まず各回線の%Xを個別に確定 させ(直列コンデンサがある回線は%XLから%XCを差し引く)、そのうえで並列回路の合成公式 (%X1×%X2/(%X1+%X2))を使う、という2段階の手順を踏む。

例題

リアクタンスの異なるA・B、2回線が並列に構成された系統がある。A回線は%XL=12%に対し、 直列コンデンサによる%XC=4%が挿入されており、B回線は%X=8%(コンデンサなし)である。

まずA回線の合成%Xを求める。

%XA=124=8%\%X_A = 12 - 4 = 8\%

A・B回線を並列に合成すると、

%Xtotal=%XA×%XB%XA+%XB=8×88+8=4%\%X_{total} = \frac{\%X_A \times \%X_B}{\%X_A + \%X_B} = \frac{8 \times 8}{8+8} = 4\%

直列コンデンサがなければA回線の%Xは12%のままなので、合成%Xは12×8/(12+8)=4.8%12\times8/(12+8)=4.8\%に とどまる。直列コンデンサによって回線Aのリアクタンスが下がった分、系統全体の合成 リアクタンスも小さくなり、送れる電力が増えることが数値でも確認できる。

直列コンデンサが入った回線の合成%Xを求めるときは、必ず先に「その回線単独の%XLから%XCを 差し引く」計算を済ませてから、他の回線との並列合成に進む。この順序を逆にする(先に並列合成 してからコンデンサ分を引こうとする)と、コンデンサが特定の1回線にしか効いていないという 前提を壊してしまい、計算を誤る。

送電損失と電線の太さ — 損失率の条件から断面積を逆算する

電圧降下が「電線を流れる間に電圧がどれだけ落ちるか」を表す量だったのに対し、送電損失は 「電線を流れる間にどれだけの電力が熱として失われるか」を表す量だ。三相3線式の送電損失は 次の式で求まる。

P=3I2RP_\ell = 3 I^2 R

IIは線電流、RRは電線1条あたりの抵抗だ。係数が3なのは、電流IIが流れる3条の電線それぞれで I2RI^2Rの熱損失が生じ、それを単純に3条分足し合わせているためで、電圧降下の式に出てくる 3\sqrt{3}(線間電圧を基準にした換算)とは根拠が別物である点に注意したい。

電線の抵抗RRは、単位長さ・単位断面積あたりの抵抗(材質で決まる値)に、こう長を掛けて 断面積で割ったものになる。送電損失を受電端電力に対してある割合以下に抑えたいという条件が 与えられれば、この関係を使って必要な電線の最小断面積を逆算できる。

例題

こう長15km、三相3線式1回線の送電線路で、受電端において22kV、4400kW、力率0.85(遅れ)の 三相負荷に供給する。送電損失を受電端電力の4%以下にするために必要な電線の最小断面積を求める。 使用電線は断面積1mm²、長さ1mあたりの抵抗を1/35Ωとする。

まず線電流を求める。

I=P3Vcosθ=4,400,0001.732×22000×0.85135.9AI = \frac{P}{\sqrt{3} V \cos\theta} = \frac{4{,}400{,}000}{1.732 \times 22000 \times 0.85} \approx 135.9\text{A}

許容される送電損失は、受電端電力の4%だから、

P,max=0.04×4,400,000=176,000WP_{\ell,\max} = 0.04 \times 4{,}400{,}000 = 176{,}000\text{W}

電線の抵抗はR=L/(35A)R = L / (35A)LL:こう長[m]、AA:断面積[mm²])と表せるので、 P=3I2R=3I2L/(35A)P_\ell = 3I^2R = 3I^2L/(35A) をAについて解くと、

A=3I2L35P,max=3×135.92×1500035×176000134.9mm2A = \frac{3 I^2 L}{35 P_{\ell,\max}} = \frac{3 \times 135.9^2 \times 15000}{35 \times 176000} \approx 134.9\text{mm}^2
この計算の骨格は「許容損失[W]を先に数値として確定させ、そこから断面積を逆算する」という順序にある。損失率の指定が『送電端電力に対して』なのか『受電端電力に対して』なのかは問題文ごとに変わりうるので、計算前にどちらを基準にした割合かを必ず確認してから許容損失を計算する。

同じ損失率の条件でも、受電端電圧が低い線路ほど同じ電力を送るのに必要な電流が大きくなるため、 必要な電線の断面積も太くなる。電圧を高くして送電する(高い電圧階級を選ぶ)ことが、電線を 細く・軽くできるという経済性にも直結している、という点は、送電電圧の設計を考えるうえでの 基本的な視点になる。

交流送電と直流送電(HVDC)の対比 — なぜあえて直流に変換して送る場面があるのか

ここまで見てきたR・L・Cやフェランチ効果は、いずれも「交流」の送電線路だから起きる現象 だった。Lによるリアクタンス降下も、Cによる進み電流も、電流・電圧が周期的に向きを変える 交流だからこそ生じる。では、送電線路をあえて直流で運用する直流送電(HVDC)には、 交流と比べてどのような特徴があるのだろうか。

直流には周波数がなく、電流・電圧の向きが変わらないため、交流送電にはある制約が存在しない。

  • リアクタンスの影響がなく、安定度による送電容量の制約を受けない:交流送電では、 線路のリアクタンス(インダクタンス由来)と送受電端の位相差によって決まる「安定度」が 送電容量の上限を左右する。直流にはこの制約がないため、電線が熱的に耐えられる 許容電流限度まで送電容量を使い切ることができる。この特性から、大電力を長距離で 送る送電線や、交流では損失・充電電流の問題が大きくなりやすい海底ケーブル送電に 直流送電が向いている。
  • 非同期連系ができる:交流の系統同士を直接つなぐには、周波数と位相を一致させる必要が ある。直流送電を介せば、周波数の異なる系統(例:50Hzの系統と60Hzの系統)同士を 非同期連系として直接結ぶことができる。
  • 同等の電圧条件でも絶縁レベルを低く抑えられる:交流の瞬時電圧は、正弦波の山(波高値) で実効値の2\sqrt{2}倍に達する。この山と谷を繰り返す比率を波高率(波高値÷実効値)と 呼び、正弦波交流の波高率は2\sqrt{2}(≒1.414)になる。がいしや機器の絶縁は、この一瞬の 波高値に耐えられるように設計しなければならない。ところが直流には周期的な瞬時値の変動が なく、実効値と波高値がほぼ一致する(波高率が実質的に1に近い)ため、対応する電圧条件が 同等でも、交流のように波高値分の余裕を絶縁に持たせる必要がなく、絶縁レベルを低く抑えて 設計できる。
「直流は絶縁レベルが低い=直流は電圧が低い」と早合点しないこと。直流送電の運転電圧そのものは 超高圧まで使われている。ここでの比較は「同じ電圧条件のもとで、絶縁がどこまでの瞬時値に 耐える必要があるか」という設計上の余裕(マージン)の話であり、交流は波高率$\sqrt{2}$倍の分 だけ余分に絶縁強度を持たせる必要があるのに対し、直流にはその割増しが要らない、という違いだ。

一方で、直流送電には交流にはない技術的な難しさもある。

  • 大電流の遮断が難しい:交流電流は周期的に零点(ゼロクロス)を通過するため、遮断器は その瞬間を狙ってアークを消弧しやすい。ところが直流電流は零点を通過しないため、大電流を 強制的に遮断する直流遮断器の実現は、交流用の遮断器よりも技術的なハードルが高い。
  • 交直変換装置が必要:送電端では交流を直流に変換(順変換)し、受電端では直流を交流に 戻す(逆変換)ための変換装置が必要になる。特に他励式の変換装置は、動作原理上どうしても 電流波形にひずみを生じさせ、高調波を発生させるため、フィルタなどによる高調波対策が 欠かせない。
交流送電の弱点(リアクタンス降下・安定度制約・充電電流)は、そのまま直流送電の強みの 裏返しになっている。ただし直流送電は「変換装置が必要」「大電流の遮断が難しい」という 交流にはない課題を抱えるため、どんな送電線路でも直流の方が優れているわけではない。 大電力・長距離・海底ケーブル・異周波数系統の連系といった、交流の制約が特に効いてくる 場面で直流送電が選ばれる、という順序で理解しておくとよい。

実務との接点 — ケーブル選定は電圧降下計算そのもの

電力ケーブルのカタログに載っている抵抗値・インダクタンス・静電容量は、まさにここで見た R・L・Cそのものだ。制御盤や受変電設備からの配線を検討する際、こう長が長い・負荷電流が 大きいケースでは、この概算式を使って電圧降下が許容範囲に収まるかを確認し、必要であれば ケーブルサイズ(断面積)を太くしてRを下げる、という判断を行う。電圧降下計算は、電材選定の 現場で日常的に使われている実務そのものだ。

冒頭の「電力ケーブルのカタログになぜ抵抗以外の数字が載っているのか」「なぜ受電端電圧が 送電端電圧より高くなることがあるのか」——答え合わせは、理解度チェックの最後の問題で してみよう。

出題者のワナ — ここで受験者を転ばせにくる

この論点は、知っているだけでは足をすくわれる。試験でよく仕掛けられる崩し方を、先に知っておこう。

  1. フェランチ効果を「電圧降下がひどくなる現象」と誤解する

    なぜ引っかかる送電線路といえば電圧降下の話が中心になりやすく、線路にまつわる異常=電圧が下がる現象、という思い込みが働きやすい。

    見破り方フェランチ効果は逆に電圧が「上昇」する現象であることを、原因から確認する。無負荷・軽負荷かつ長距離の線路では、線路の静電容量による進み電流(充電電流)がインダクタンスによる電圧降下を打ち消し、受電端電圧が送電端電圧を上回る。特に深夜など軽負荷の時間帯に注意が必要な現象だと覚える。

  2. 線間距離を離すと、インダクタンスも静電容量も両方大きくなる(あるいは両方小さくなる)と考える

    なぜ引っかかる「線間距離が影響する」という点だけを覚えていて、L・Cそれぞれの増減の向きを混同しやすい。

    見破り方L(インダクタンス)は線間距離が離れるほど大きく、C(静電容量)は線間距離が離れるほど小さくなる——向きが逆であることを、平行平板コンデンサの容量が電極間距離に反比例するという基本の式から思い出す。

  3. 送電線の交流抵抗と直流抵抗を同じ値として計算してしまう

    なぜ引っかかる「抵抗は抵抗、周波数とは無関係」という直流回路の感覚をそのまま引きずってしまう。

    見破り方表皮効果により、交流では電流が導体表面付近に集中し、実効的に電流が流れる断面積が減るため、交流抵抗は直流抵抗よりわずかに大きくなる。現象名(表皮効果)とセットで、交流と直流で抵抗値が違いうることを覚え直す。

  4. 送電損失の許容条件を「送電端電力に対する割合」で計算してしまい、「受電端電力に対する割合」との違いを見落とす

    なぜ引っかかる損失率は分母に送電端・受電端どちらの電力を使うかで定義が変わりうる用語だが、問題文の指定を確認せずに、慣れている方をそのまま分母に使ってしまいやすい。

    見破り方損失率の定義を毎回『送電損失÷何の電力か』まで問題文で確認してから式を立てる。『受電端電力に対して〇%以下』と指定されている場合は、受電端電力を基準に許容損失[W]を先に計算し、そこから3I²R≦許容損失という不等式を作る、という順序で解く。

  5. 送電損失の式Pℓ=3I²Rで、係数の3を掛け忘れる、または電圧降下の式に出てくる√3と混同する

    なぜ引っかかる電圧降下の近似式では線間電圧を基準にした√3という係数が登場するため、送電損失の式にも同じ√3が出てくると思い込みやすい。だが損失は各線に生じるI²Rの熱をそのまま3条分足し合わせるだけなので、根拠がまったく別の『3倍』になる。

    見破り方送電損失は『電力』であって『電圧』ではない、という点に立ち返る。三相3線式は電流Iが流れる線が3条あり、各線でI²Rの熱損失が生じるので、単純にその3条分を足し算してPℓ=3I²Rになる。電圧降下の式の√3とは根拠が別物だと区別しておく。

  6. 地中送電線路は架空送電線路より導体間が近いから、静電容量だけでなくインダクタンスも大きくなると考えてしまう

    なぜ引っかかる「距離が近い」という1つの条件から、CもLも同じ方向(両方大きくなる、または両方小さくなる)に変化すると考えてしまいやすい。だがLとCは、線間距離に対して逆方向に反応する量だ。

    見破り方線間距離とL・Cの関係(距離が離れるほどLは大きくCは小さい)に立ち返る。地中送電線路は導体間が近いのでCが大きく、Lは逆に架空送電線路より小さくなる、という向きを確認する。

  7. π形等価回路とT形等価回路を同じ「送電線路のモデル」として一括りにし、それぞれがどんな条件(無負荷か、負荷ありか)を扱うためのモデルかを区別せずに使ってしまう

    なぜ引っかかるどちらも送電線路を回路素子(インピーダンス・アドミタンス)に置き換えた等価回路という共通点があるため、名前と図の形(πかTか)だけで覚えてしまい、どちらが無負荷時の電圧上昇(フェランチ効果)を、どちらが負荷時の電圧降下を扱うモデルかが曖昧になりやすい。

    見破り方「何が流れているときの計算か」で区別する。π形等価回路は、受電端が無負荷で充電電流だけが流れている状況(フェランチ効果)を扱うために、線路の静電容量(アドミタンスB)を明示的に組み込んだモデル。T形等価回路(簡略にはR+jXの直列インピーダンスモデル)は、受電端に負荷電流が流れている一般的な状況の電圧降下を扱うモデルで、静電容量は基本的に無視して考える。無負荷か負荷ありかで使うモデルを使い分ける。

  8. π形等価回路でフェランチ効果を計算するとき、送電端電圧に線間電圧の数値をそのまま代入してしまい、相電圧に直す手順を省略する

    なぜ引っかかるカタログや問題文には線間電圧(例:66kV、77kV)がそのまま示されることが多く、π形等価回路の1相分の計算にそのまま代入してしまいやすい。

    見破り方π形等価回路は三相のうち1相分(相電圧基準)を表した回路であることを思い出し、与えられた線間電圧を必ず√3で割って相電圧に直してから、Er=Es/(1−XB/2)などの式に代入する。最後に求めた相電圧を√3倍して、線間電圧に戻すことも忘れない。

  9. %リアクタンスへの変換で、基準容量・基準電圧を問題文で指定された値ではなく、送電端電圧や別の容量の数値をそのまま使ってしまう

    なぜ引っかかる『%リアクタンス』という言葉から、線路固有の値がそのまま1つに決まると思い込みやすいが、実際には%X=(X×P_base/V_base²)×100という式の中に基準容量P_base・基準電圧V_baseが含まれており、どの基準を採用するかで数値そのものが変わる相対的な指標である。

    見破り方%リアクタンスの問題では、必ず『基準容量は何MV・Aか』『基準電圧はどちらの端の電圧か(送電端か受電端か)』を先に問題文で確認してから式に代入する。基準が変われば%Xの値も変わる、という前提を毎回思い出す。

  10. 送電電力の式Ps=(Vs・Vr/X)sinδで、相差角δが大きいほど無条件に送電電力を増やせると考えてしまう

    なぜ引っかかるsinδが0°から90°まではδの増加とともに単調に大きくなるため、『δを大きくすればするほど送電電力が増える』と際限なく捉えてしまいやすい。

    見破り方sinδは90°で最大値1をとり、それを超えるとむしろ減少に転じる関数だという性質に立ち返る。実務ではsinδが1に近づく手前の段階で系統の安定運転(安定度)が保てなくなるため、δには実質的な上限があり、送電電力を無制限に増やせるわけではない。

  11. 直列コンデンサを、力率改善のために使う進相コンデンサと同じ働きをする設備だと誤解する

    なぜ引っかかる『コンデンサ』という共通の名前から、無効電力を供給して力率を改善する進相コンデンサのイメージをそのまま当てはめてしまいやすい。だが直列コンデンサは線路に直列に入り、線路自体のリアクタンスを打ち消すための設備で、狙いも接続の仕方も進相コンデンサとは別物だ。

    見破り方『どこに、何のために接続されているか』をまず確認する。進相コンデンサは負荷と並列に接続され無効電力の需給バランス(力率)を整える設備、直列コンデンサは線路に直列に接続され線路自体の誘導性リアクタンスXLを打ち消して合成リアクタンスを下げ、送電電力・安定度を高める設備——接続形態(並列か直列か)の違いから役割の違いを思い出す。

  12. 直流送電の絶縁レベルが交流より低く抑えられる理由を、単に『直流は電圧が低いから』のように誤解する

    なぜ引っかかる直流送電の電圧そのものは超高圧まで使われており、絶縁レベルが低い理由を電圧の大小の話だと勘違いしやすい。実際には、同等の電圧条件を基準にしたときに、交流は瞬時値が実効値の√2倍まで跳ね上がる(波高率)のに対し、直流にはこの変動がないため、絶縁設計上の余裕(マージン)が交流より小さくて済む、という比較の話である。

    見破り方『絶縁レベルは何を基準に耐える必要があるか』を先に確認する。交流機器の絶縁は実効値ではなく瞬時最大値(波高値=実効値×√2)に耐えるよう設計する必要があるが、直流にはこの√2倍の割増しが不要なため、同等の電圧条件下でも絶縁レベルを低く抑えられる、という理由に立ち返る。

参考文献・出典

理解度チェック(21問)

このトピックの内容がどれくらい身についたか、21問で確認しよう。 内訳は基本7問・応用10問・ひっかけ4問。基本が解けたら、条件を足した応用と、本番で足をすくいにくるひっかけまで踏み込む。

/ 21 問正解

覚えておきたいポイント

  1. 送電線路はR(抵抗)・L(インダクタンス)・C(静電容量)の3要素で電気的特性が決まる(大地への漏れを表すコンダクタンスは通常無視できるほど小さい)
  2. Rは導体の材質・断面積・温度で決まり、表皮効果により交流抵抗は直流抵抗よりわずかに大きくなる
  3. Lは線間距離が離れるほど、導体が細いほど大きくなり、遅れ電流とあわせて電圧降下の主要因になる
  4. Cは線間距離が近いほど、導体が太いほど大きくなり、進み電流(充電電流)を生む。無負荷・軽負荷の長距離線路では、この進み電流が受電端電圧を送電端電圧より高くするフェランチ効果を引き起こす
  5. 電圧降下は概算式 ΔV≈√3 I(Rcosθ+Xsinθ) で見積もれ、ケーブルサイズ選定に直結する
  6. 送電線をπ形等価回路(直列リアクタンスjX、送受電端にそれぞれjB/2ずつ振り分けたアドミタンス)で表すと、受電端が無負荷のときの受電端相電圧Erは、送電端相電圧Esに対しEr=Es/(1−XB/2)となり、送電端より高くなる(フェランチ効果を定量的に表した式)。このときの送電端電流(1線あたり)は、送受電端それぞれの充電電流の合計Is=(B/2)(Es+Er)で求まる
  7. π形等価回路が「無負荷」時のフェランチ効果(受電端電圧の上昇)を扱うモデルであるのに対し、負荷電流が流れている一般的な送電線路の電圧降下を扱うにはT形等価回路(線路のインピーダンスZ=R+jXを直列に置いた簡略モデル)を使う。受電端相電圧Er・受電端電流I(力率cosθ、遅れ)が分かっているとき、送電端相電圧Esはベクトル計算でEs=√{(Er+I(Rcosθ+Xsinθ))²+(I(Xcosθ−Rsinθ))²}となり、電圧降下の概算式ΔV≈√3I(Rcosθ+Xsinθ)は、この式の第2項(Xcosθ−Rsinθの部分)を無視した近似にあたる
  8. 直流送電(HVDC)は交流のようなリアクタンス・安定度による送電容量の制約を受けず、電線の許容電流限度まで送電できるため大電力の長距離送電・海底ケーブル送電に向く。一方、直流は電流が零点を通過しないため大電流の遮断が難しく、送受電端に交直変換装置が必要になる
  9. 交流は瞬時値の波高値(ピーク値)が実効値の√2倍(波高率√2)になるため、がいしや機器の絶縁はこの波高値に耐えるよう設計する必要がある。直流にはこの周期的な波高率がなく実効値と波高値がほぼ一致するため、同等の電圧条件でも交流より絶縁レベルを低く抑えて設計でき、これが直流送電の絶縁コスト低減にもつながっている
  10. 三相3線式の送電損失は Pℓ=3I²R(Iは線電流、Rは電線1条あたりの抵抗)で求まる。抵抗R=(単位長さ・単位断面積あたりの抵抗)×こう長÷断面積なので、損失率(Pℓ÷受電端電力)の上限が決まれば、そこから電線の最小断面積を逆算できる
  11. 送電線路のリアクタンスX[Ω]は、基準容量P_base[MV・A]・基準電圧V_base[kV]を決めれば、%X[%]=(X×P_base/V_base²)×100という式で百分率(パーセント法)表示に変換できる。基準容量・基準電圧の取り方で同じ線路でも%Xの値は変わるため、必ず問題文で指定された基準を使う
  12. 抵抗を無視できる短距離送電線路で、送電端相差角(送電端電圧と受電端電圧の位相差)をδとすると、送電電力はPs=(Vs×Vr/X)×sinδで求まる(Vs・Vrは線間電圧[kV]、Xは1相分のリアクタンス[Ω]、Psの単位はMW)。δが大きいほど送電電力は大きくなるが、δがある限度を超えると送電電力はむしろ減少に転じ、系統の安定運転を保てなくなる(安定度の限界)
  13. 地中送電線路(ケーブル)は、架空送電線路に比べて導体間の距離がはるかに近いため、静電容量Cは架空送電線路よりかなり大きくなる。線間距離が近いことはインダクタンスLにとっては逆方向に働き、地中送電線路のLは架空送電線路より小さくなる。導体抵抗Rや、交流特有の表皮効果・近接効果による交流抵抗の増加という基本的な性質は、架空・地中どちらの線路にも共通して当てはまる
  14. 送電線路に直列に接続する直列コンデンサは、線路のインダクタンスによる誘導性リアクタンスXLとは符号が逆の容量性リアクタンスXCを持つため、線路の合成リアクタンスをXnet=XL−XCまで小さくできる。送電電力Ps=(Vs・Vr/X)sinδの分母Xが小さくなる分、同じ電圧・相差角でもより大きな電力を送れるようになり、安定度の限界にも余裕が生まれる。負荷と並列に接続して無効電力の需給バランスを整える進相コンデンサとは、接続の仕方(直列か並列か)も狙い(線路のリアクタンス低減か、力率改善か)もまったく別の設備
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