電気ヒーターは、電源コードを通じて流れてきた電流が発熱体を熱くし、その熱が空気や 被加熱物に伝わって温める。一方、IH調理器や誘導加熱炉は、被加熱物に電極もコードも 接触させないまま、被加熱物そのものを内側から発熱させる。
同じ「電気で熱を作る」仕組みなのに、片方は電極を接触させ、もう片方は接触させない。 電流が一切流れ込んでいないはずの金属が、なぜひとりでに発熱するのか。
このトピックを読み終えるころには、電気ヒーターや誘導加熱の仕組みを見て、電気がどんな 経路をたどって熱に変わっているかを言い当てられるようになっている。
種明かしは、電気を熱に変える経路が1つではないという点にある。電流が被加熱物自身を 流れるか、別の発熱体を流れるか、それとも磁界だけで誘導されるか——この違いが、 抵抗加熱と誘導加熱を分けている。
ジュール熱 — 電気エネルギーが、そのまま熱エネルギーになる
電流が抵抗を流れると、電気エネルギーの一部(あるいは全部)が熱に変わる。この熱量は、 電流・抵抗・通電時間から次の式で求まる。
例題
5Aの電流を20Ωの抵抗に2分間(120秒)流したとき発生する熱量は何Jか。
温度上昇に必要な熱量 — Q = mcΔT との組み合わせ
被加熱物の温度を上げるのに必要な熱量は、質量・比熱・温度上昇幅から求まる。
このQ=mcΔTと、電気エネルギーの式Q=VItを効率ηでつなげば、「目標の温度上昇に必要な 電力・時間」を逆算できる。
例題
消費電力2kW、変換効率90%の電気ヒーターで、5kgの水(比熱4.2kJ/(kg・K))を20℃から 80℃(ΔT=60℃)まで温める。必要な通電時間は何秒か。
潜熱 — 温度を上げずに、状態だけを変える熱もある
ここまで見たQ=mcΔTは、物質の温度を変化させる熱量(顕熱)だった。だが熱が 必ず温度上昇に使われるとは限らない。氷が0℃のまま水に変わる(融解)、水が100℃のまま 水蒸気に変わる(蒸発)——こうした状態変化(相変化)の間、物質の温度は一定に 保たれたまま、状態を変えるためだけに熱が使われる。この熱を潜熱と呼び、単位質量 あたりの潜熱量を融解熱・気化熱という。
は質量[kg]、は単位質量あたりの融解熱(または気化熱)[J/kg]。
例題(自作の数値例)
0℃の氷2kgを、融解熱334kJ/kgとしてすべて0℃の水に変えるのに必要な熱量は、
これを効率ηの電熱装置で作るのに必要な電力・時間も、これまでと同じように の関係で逆算できる。熱効率80%の電熱装置で、消費電力1.4kWを 使う場合の通電時間は、
抵抗加熱 — 電流が流れる先で、直接と間接に分かれる
抵抗加熱は、抵抗によるジュール熱を利用する加熱方式だが、電流がどこを流れるかで2つに 分かれる。
- 直接抵抗加熱:被加熱物自体を回路の一部として電流を直接流し、被加熱物自身の抵抗損失で 発熱させる方式
- 間接抵抗加熱:ニクロム線などの専用の発熱体に電流を流し、その熱を放射・伝導によって 被加熱物に伝える方式(家庭用・業務用の電気ヒーターの多くはこちら)
誘導加熱 — 電極を使わず、磁界だけで発熱させる
誘導加熱は、コイルに交流電流を流して作る交番磁界によって、被加熱物(導電性の材料)の 内部に渦電流を誘導し、その渦電流が流れることで生じる抵抗損失(ジュール熱)で被加熱物 自身を発熱させる方式だ。直接抵抗加熱・間接抵抗加熱のどちらとも違い、被加熱物に電極を 接触させる必要が一切ない非接触方式である点が最大の特徴になる。
誘導加熱の「加熱されやすさ」— 透磁率・周波数・材質の効き方
誘導加熱がどれだけ効率よく被加熱物を発熱させられるかは、被加熱物の性質と、交番磁界の周波数の組み合わせで決まる。
- 透磁率:被加熱物の透磁率が高いほど(鉄などの強磁性体)、磁束が被加熱物に集中しやすく、加熱されやすい。銅・アルミのような非磁性体(透磁率が真空とほぼ同じ)は、この点で加熱されにくい。
- 電気抵抗率:被加熱物の電気抵抗率が大きいほど、同じ誘導電流でもジュール熱()が大きくなりやすく、加熱に有利に働く。
- 周波数(表皮効果):交番磁界の周波数が高いほど、誘導電流は被加熱物の表面近くに集中する(表皮効果)。周波数を上げても、内部まで加熱されやすくなるわけではなく、むしろ表面だけが集中的に加熱される方向に働く。
鉄は、銅・アルミに比べて透磁率が高く電気抵抗率も大きいため、この両方の点で加熱されやすい。鍋やフライパンの底に鉄やステンレスが使われることが多いIH調理器も、この性質を利用している。
誘電加熱 — 電界で「絶縁物」を発熱させる、もう1つの非接触加熱
誘導加熱が交番磁界を使って導体(金属)を発熱させる方式だったのに対し、 誘電加熱は交番電界を使って誘電体(絶縁物)を発熱させる、まったく別の 非接触加熱方式だ。名前が1文字しか違わないため混同しやすいが、対象物も物理現象も 別物である。
被加熱物を2枚の電極(または、電子レンジのようにマイクロ波を放射するアンテナ)の 間に置き、高周波の交番電界をかけると、被加熱物を構成する分子——特に水分子のような 極性分子——は、電界の向きが変わるたびに向きを変えようとする。この向きを変える 動きが、隣り合う分子どうしの摩擦を生み、その摩擦熱(誘電体損失)によって 被加熱物自身が発熱する。
誘電加熱の代表例が、電子レンジによるマイクロ波加熱だ。食品に含まれる水分子が 交番電界(マイクロ波の電界成分)に追従して振動し、その摩擦熱で食品自体が内部から 温まる。金属を電子レンジに入れてはいけないのは、電子レンジの加熱原理が誘電加熱 (絶縁物の分子振動)であり、金属という導体を入れると、本来の誘電加熱とは別の 現象(放電・スパークや、電磁波の反射による機器故障)を引き起こすためだ。このほか 木材や樹脂の乾燥、高周波ウェルダーによる樹脂の溶着など、水分や極性分子を含む 絶縁材料の加熱・乾燥・接合に、誘電加熱は広く使われている。
例題(自作の数値例)
木材の乾燥炉で、絶縁物である木材チップに交番電界をかけて内部の水分を効率よく 蒸発させたい。この加熱方式に適しているのは誘導加熱か、誘電加熱か——答えは 「誘電加熱」だ。誘導加熱は交番磁界で金属(導体)を発熱させる方式のため、木材の ような絶縁物にはそもそも磁界による渦電流が誘導されず、加熱効果がほとんど得られない。
熱回路のアナロジー — 熱の伝わり方を電気回路として捉える
ここまでの式は「発熱」そのものの計算だったが、発生した熱がどれだけ伝わりやすいかを 考えるときは、電気回路とのアナロジーで捉えると理解しやすい。電気系と熱系には、 次のような対応関係がある。
| 電気系の量 | 熱系の量 |
|---|---|
| 電圧V [V] | 温度差θ [K] |
| 電気量Q [C] | 熱量Q [J] |
| 電流I [A] | 熱流Φ [W] |
| 導電率σ [S/m] | 熱伝導率λ [W/(m・K)] |
| 電気抵抗R [Ω] | 熱抵抗R_T [K/W] |
| 静電容量C [F] | 熱容量C [J/K] |
温度差があるところには熱が流れる。定常状態(温度分布が時間的に変化しなくなった状態) では、熱流Φと温度差θ、熱抵抗R_Tの関係は、オームの法則I=V/Rとそのまま同じ形で表せる。
平板を熱が伝わる場合の熱抵抗R_Tは、電気抵抗R=L/(σA)(L:長さ、σ:導電率、A:断面積)と 同じ形で、厚さL・熱伝導率λ・断面積Aから求まる。
例題(自作の数値例)
厚さ4mm、断面積0.05m²の平板があり、熱伝導率が0.2W/(m・K)である。この平板の両面に 30Kの温度差を与えたときの定常熱流Φを求める。
電気回路のオームの法則がそのまま使えるので、電気系の感覚で熱の伝わりやすさを 見積もれるようになる。
熱放射 — 熱媒体を介さず、真空中でも熱を伝える
ここまで見てきた熱伝導・熱伝達(対流)は、どちらも熱を運ぶ媒体(固体や流体)が 必要な伝わり方だった。これに対し熱放射は、電磁波の形で熱エネルギーが直接飛んでいく 現象であり、熱媒体をまったく必要とせず、真空中でも熱を伝達できる。太陽光が 何もない宇宙空間を越えて地球を温めているのは、この熱放射によるものだ。
高温側の温度[K]・面積[m²]の面と、低温側の温度[K]・面積[m²]の面が 向かい合っている場合、その間を熱放射で伝わる熱流[W]は、次の式で表される。
- :形態係数。2つの面がどれだけ向かい合っているか(幾何学的な位置関係)を表す係数
- :ステファン・ボルツマン定数[W/(m²・K⁴)]。物理定数として与えられる
例題(自作の数値例)
高温側の温度300K・面積0.02m²の面と、低温側の温度200Kの面が向かい合っている (形態係数とする)。ステファン・ボルツマン定数をW/(m²・K⁴) として、熱放射による熱流を求める。
ヒートポンプと成績係数(COP)— 消費電力より多くの熱を運ぶからくり
ここまで見てきたジュール熱による加熱は、投入した電気エネルギーをそのまま熱に変える 方式だった。だがヒートポンプは違う発想で動く。エアコンやヒートポンプ式給湯器は、 消費した電力を熱に変えているのではなく、その電力を使って大気などの外部から熱を 汲み上げ、移動させている——冷蔵庫が庫内の熱を外へ汲み出しているのと同じ原理を、 逆向き(外の熱を汲み入れる向き)に使っている。
このため、ヒートポンプが実際に生み出す(移動させる)熱量は、投入した電力量 (=消費電力×時間)そのものより大きくなりうる。その比を成績係数 (COP:Coefficient Of Performance)と呼ぶ。
COPは1を超えるのが普通で、同じ消費電力の電気ヒーター(電気エネルギーをそのまま熱に 変えるだけなので、実質COP=1に相当する)よりも、はるかに多くの熱を作り出せる。 これが、給湯やエアコンの分野でヒートポンプ方式が省エネルギーとされる理由だ。
例題(自作の数値例)
消費電力1.5kWのヒートポンプ式電気給湯器を5時間運転し、温度18℃、体積0.4m³の水を 加熱する。COPは4.2、水の比熱はJ/(kg・K)、密度はkg/m³ とする。
まず消費電力量を求める。
COPを掛けて、実際に水の加熱に使われた熱エネルギーを求める。
このQを使って、これまでと同じQ=mcΔTの逆算で温度上昇を求める。水の質量は kg。
加熱後の水温は、初期温度18℃にこの上昇分を足して、
なぜ電材業界の実務でこれが効いてくるのか
業務用の電気ヒーターや電気炉を選定する場面では、カタログに載っている消費電力だけでは 「目標の温度までどのくらいの時間で上がるか」は分からない。変換効率と比熱を組み合わせた Q=mcΔTの逆算ができれば、消費電力・通電時間・被加熱物の質量のどれかが決まっていれば 残りを見積もれるようになる。また、誘導加熱設備の問い合わせで「電極はどこに接続するのか」 と聞かれたとき、誘導加熱がそもそも非接触の方式であることを説明できるかどうかも、 専門商社としての信頼に関わってくる。
冒頭で出した「電気がどんな経路をたどって熱に変わっているか」——答え合わせは理解度チェックの 最後の問題でしてみよう。