非常用発電機の制御盤には、シンクロスコープと呼ばれる、針や複数のランプが並んだ計器が 組み込まれていることがある。発電機を系統や他の発電機に接続する(並行運転を始める)前に、 このシンクロスコープを見ながら投入のタイミングを慎重に合わせる。
なぜ、ただスイッチを入れるだけではいけないのか。何を、どこまで一致させないと、 発電機をつなぐことができないのか。
このトピックを読み終えるころには、同期発電機がなぜ「同期」という名前を持つのか、 そして並行運転の投入がなぜ慎重な作業になるのかを、原理から説明できるようになっている。
種明かしは、同期発電機の起電力が回転する界磁の磁束によって生まれているという発電原理と、 その起電力どうしをつなぐときに要求される「4つの一致」にある。
同期発電機の原理 — 回転する界磁が、固定された巻線に起電力を作る
同期発電機の多くは、回転子側にDC(直流)で励磁された界磁(電磁石)を持ち、固定子側に 交流を取り出す電機子巻線を持つ回転界磁形の構造をしている。原動機(タービンやエンジン)で 界磁を回転させると、その磁束を固定された電機子巻線が電磁誘導によって拾い、交流の起電力が 発生する。
発生する交流の周波数は、界磁の回転速度と極数だけで決まる。
は極数、 は原動機の回転速度[rpm]。系統の周波数(50Hzまたは60Hz)に合わせて 発電するためには、この式から逆算した速度で原動機を回す必要がある。
例題
6極の同期発電機で、周波数50Hzの系統に電力を送るには、原動機の回転速度を rpm にする必要がある。
同期発電機の構造 — 回転界磁形が主流な理由と、水車発電機・タービン発電機の違い
同期発電機の原理そのものは「回転する界磁の磁束を、固定された電機子巻線が拾う」という ものだったが、実際にどちらを回転させるかには選択の余地がある。回転子側に電機子を置く 回転電機子形も原理上は可能だが、中〜大容量の発電機では、電機子巻線を固定子側、 界磁巻線を回転子側に置く回転界磁形が主流だ。
電機子巻線は大電流・高電圧を扱う。これを固定側に置けば、絶縁の設計がしやすいうえ、 スリップリングやブラシという機械的接触部品を介さずに、外部へ直接電力を取り出せる。 回転側には、直流の励磁電流だけを流せばよい界磁巻線を置けば済むため、スリップリングを 通す電流も小さく済む——大電流を固定側に、小さな励磁電流だけを回転側に、という 役割分担が回転界磁形の合理性だ。
回転界磁形の中でも、原動機の種類によって回転子の形状が大きく変わる。
- 水車発電機:水車は比較的低速でしか回せない原動機のため、の関係から、 商用周波数(50Hzや60Hz)を発生させるには極数を多くする必要がある。多くの磁極を 回転子の外周に配置するため、回転子の直径は軸方向の長さに比べて大きくなる——この形状を 突極形という。
- タービン発電機:蒸気タービンなどは高速で運転されるため、少ない極数(2極や4極)で 済む。ただし高速回転に耐えるには、回転子の直径を小さく絞り、遠心力を抑える必要がある。 そのぶん軸方向に長くした、円筒形(横軸形)の回転子として作られる。磁極は回転軸と 一体の鍛鋼または特殊鋼で作られ、そこに刻んだスロットに巻線が施される。
電機子反作用 — 負荷の力率が、端子電圧を動かす
発電機に電流が流れると、その電機子電流自体も磁束を作り、界磁が作る本来の磁束に影響を与える。 これを電機子反作用という。この影響の向きは、負荷の力率によって変わる。
- 遅れ力率(誘導性)の負荷:電機子電流が界磁の磁束を弱める方向に働く(減磁作用)。 界磁電流を変えなければ、端子電圧は低下しやすい。
- 進み力率(容量性)の負荷:電機子電流が界磁の磁束を強める方向に働く(増磁作用)。 端子電圧はむしろ上昇しやすい。
無負荷時の端子電圧と、定格負荷をかけたときの端子電圧の差を表す指標が電圧変動率であり、 負荷の力率が悪いほど、この電圧変動率は大きくなりやすい。
同期インピーダンスの求め方 — 無負荷飽和試験と短絡試験
同期発電機の内部には、電機子巻線の抵抗やリアクタンス、電機子反作用の影響をまとめて表す 同期インピーダンス(1相あたり)という量がある。電圧変動率や短絡時の電流を計算する うえで欠かせない値だが、これは設計値としてではなく、実際に発電機を試験して求める。
試験は次の2つを組み合わせる。
- 無負荷飽和試験:発電機を無負荷(端子開放)のまま定格回転速度で回しながら、界磁電流 を0から徐々に増やし、そのときの端子電圧(無負荷誘導起電力)を測定してグラフにする。 鉄心の磁気飽和のため、が大きくなるにつれてグラフは直線から外れて頭打ちになる (無負荷飽和曲線)。飽和が始まる前の直線部分を延長した線をエアギャップ線という。
- 短絡試験:電機子の端子を短絡した状態で、同じように界磁電流を徐々に増やし、 そのとき流れる短絡電流を測定してグラフにする(短絡特性)。短絡時は端子電圧がほぼ ゼロで、電流を制限しているのは主に発電機内部のインピーダンスだけなので、このグラフは ほぼ直線になる。
この2つの特性を同じ界磁電流の値で比較する。エアギャップ線から求めた誘導起電力 (相電圧)と、短絡特性から求めた短絡電流を使うと、同期インピーダンス(1相あたり)は 次の式で求められる。
例題(自作の簡略化した数値例)
ある同期発電機で、界磁電流をある値に設定したとき、エアギャップ線から読み取った相電圧が 230V、同じ界磁電流での短絡特性から読み取った短絡電流が50Aだった。
同期発電機の出力 — 負荷角が生み出す力
同期発電機が実際に外部へ送り出す出力(電機子抵抗を無視できる場合の近似式)は、 内部起電力・端子電圧・同期インピーダンス(ここではリアクタンスとみなす)と、 負荷角(内部起電力と端子電圧の間の位相差)を使って次の式で表される。
負荷(送り出す電力)が増えるほど、この負荷角は広がっていく。ここで注意したいのが、 出力はに比例して増え続けるわけではなく、という周期関数に従う点だ。 のときは最大値1を取り、出力もここで最大になる。がこれを 超えてさらに広がるとはむしろ小さくなっていき、出力は減少に転じる。
例題(自作の簡略化した数値例)
ある同期発電機(1相あたり)で、内部起電力V、端子電圧V、同期リアクタンス 、負荷角()で運転している。このときの出力(1相分)は いくらか。
ベクトル図で負荷角δを求める — E=V+jXsIa
さきほどの出力の式は、内部起電力と負荷角が あらかじめ分かっている前提の式だった。だが実際の問題では、やが直接 与えられるのではなく、電機子電流と力率から、この2つを自分で求めなければ ならない場面がある。ここで使うのが、電機子抵抗を無視できるときに成り立つ ベクトル関係式だ。
端子電圧を基準(角度0°)にとり、電機子電流を力率角だけ 遅らせて(遅れ力率の場合)描く。そこに——電機子電流のベクトルに をかけ、さらに90°進めたベクトル——を足し合わせると、内部起電力が ベクトルとして求まる。の位相角が、そのまま負荷角になる。
例題(自作の数値例)
定格電圧を基準(p.u.)とする同期発電機に、電機子電流p.u.、力率0.8 (遅れ、、)の負荷が接続されている。同期リアクタンス p.u.、電機子抵抗は無視できるとき、負荷角を求める。
無負荷誘導起電力 — 極数・磁束・巻数から起電力そのものを計算する
ここまでは「発電機が作り出した電気をどう送り出すか」を見てきたが、そもそも発電機が どれだけの起電力を作り出すかは、界磁の磁束・回転子の巻数・回転速度(周波数)から 計算できる。1相あたりの無負荷誘導起電力(実効値)は、次の式で求まる。
- :周波数[Hz]
- :1相あたりの直列巻数
- :巻線係数(分布巻・短節巻によって、集中巻の場合より起電力がわずかに低くなることを表す1未満の係数)
- :1極あたりの磁束[Wb]
Y結線の発電機であれば、この式で求まるは「相電圧」であり、実際に外部で使う 線間電圧はこの倍になる。
巻線係数は、分布巻と短節巻という2つの巻き方の工夫によって生まれる係数だ。
- 分布巻:1つの磁極・1つの相あたりに割り当てるスロット(コイルを収める溝)の数を 複数に分散させる巻き方。毎極毎相スロット数(1極・1相あたりのスロット数)が2以上 であれば分布巻、1であれば集中巻と判定する。
- 短節巻:コイルのピッチ(コイルの両辺の間隔)を、全節(1磁極ピッチぶん)よりも 意図的に短くする巻き方。
どちらも、集中巻・全節巻に比べると起電力の大きさそのものはわずかに低くなる(これが が1未満になる理由)。だが、その代わりに実務上の利点がある。短節巻はコイル端 (コイルエンド、鉄心の外に飛び出す部分)の長さを短くできるため銅の使用量を減らせる。 さらに、分布巻・短節巻のどちらも、起電力の波形に含まれる高調波成分を打ち消す方向に 働くため、より正弦波に近い、歪みの少ない電圧波形が得られる。
例題(自作の数値例)
1極あたりの磁束0.1Wb、1相の直列巻数100、巻線係数0.9、周波数50Hzの三相同期発電機 (Y結線)がある。
線間電圧は、
短絡比 — 発電機の「頑丈さ」を表す指標
同期発電機のカタログや仕様には、短絡比という値が載っていることがある。これは、
という比で表される、発電機の設計上の性格を示す指標だ。
例題(自作の簡略化した数値例)
無負荷時に定格電圧を発生させるのに必要な界磁電流が8A、三相短絡試験で定格電流と同じ 大きさの短絡電流を流すのに必要な界磁電流が10Aの発電機がある。
短絡比は、同期インピーダンス(%インピーダンス)とほぼ裏返しの関係にあり、発電機の 性格を大きく2つのタイプに分ける目安になる。
- 短絡比が大きい発電機(鉄機械と呼ばれる):同期インピーダンスが小さく、 電圧変動率が小さい(負荷をかけても電圧が下がりにくい)ため安定度が高い。ただし 鉄心・巻線を多く使う設計になるため、外形寸法が大きくコストも高くなりやすい。
- 短絡比が小さい発電機(銅機械と呼ばれる):同期インピーダンスが大きく、 電圧変動率が大きいため安定度は劣るが、外形寸法をコンパクトに、コストを抑えて 作りやすい。
%同期インピーダンスと短絡電流 — 定格値を基準にした換算
同期インピーダンスは「1相あたり何Ω」という実際の値(オーム値)で表すこともできるが、 発電機の容量や電圧が違うもの同士を比べにくいという欠点がある。そこで実務では、定格電流 を流したときの同期インピーダンスによる電圧降下を、定格相電圧に対する割合で表した %同期インピーダンス(%Z)がよく使われる。
%Zを使うと、定格電圧に等しい無負荷端子電圧を発生させる界磁電流のまま三相を短絡させたときに 流れる短絡電流を、定格電流から次の式で求められる。
さらに、短絡試験で得られる短絡特性(界磁電流と短絡電流の関係)は、 短絡時には鉄心がほとんど磁気飽和しないため、ほぼ原点を通る直線(比例関係)になる。 この比例関係を使えば、ある界磁電流での短絡電流が分かっている場合に、別の目標の短絡電流 (たとえば)に対応する界磁電流を、比例計算だけで逆算できる。
例題(自作の数値例)
%同期インピーダンス50%、定格電流1000Aの三相同期発電機がある。定格電圧に等しい無負荷 端子電圧を発生させる界磁電流のまま三相を短絡すると、
この発電機で、三相短絡電流800Aを流すのに必要な界磁電流が30Aだったとする。短絡特性が 界磁電流にほぼ比例することを使うと、Aに対応する界磁電流は、
並行運転の条件 — 4つを一致させて初めてつながる
複数の同期発電機を1つの母線につなぐ(あるいは発電機を系統につなぐ)並行運転では、 つなぐ前に次の4つを一致させる必要がある。
- 起電力の大きさが等しいこと
- 周波数が等しいこと
- 位相が一致していること
- 相回転(相順)が一致していること
出力容量(定格kVA)は、この条件には含まれない。容量の異なる発電機どうしでも、 上の4条件さえ満たしていれば並行運転自体は可能である(実際の負荷分担をどう配分するかは 別の設計の話になる)。
条件が崩れた状態で投入すると、2つの起電力の差分がほぼそのまま循環電流(横流)として流れ、 発電機の軸や巻線に大きな衝撃的な力がかかる恐れがある。非常用発電機の投入操作が 自動同期装置や慎重な手順で行われているのは、この事故を防ぐためである。
冒頭のシンクロスコープが何を監視し、何を防いでいたのか——答え合わせは理解度チェックの 最後の問題でしてみよう。