考えてみよう
「AC100V」のコンセントにテスタを当てると「100V」と表示される。だが交流電圧は、
1秒間に何十回、何百回と大きさが0からピークまで、さらにマイナスのピークまで変化し続けている。
瞬間ごとに値が変わり続けているのに、なぜ「100V」というたった1つの数字で表せるのか。
その「100V」は、波形のどの部分の値なのか——最大値でも、途中の値でもない。
このトピックを読み終えるころには、テスタが示す交流の数値が波形のどの性質を代表した値なのかを、
式から説明できるようになっている。
種明かしは、「実効値」という、直流に置き換えて考える物差しにある。
実効値 — 「同じ発熱をする直流」に置き換えた値
交流電圧・電流を抵抗に加えると、抵抗は熱を出す。瞬間ごとに大きさが変わる交流でも、
1周期を通して見れば一定量の熱を発生させ続ける。「同じ抵抗に加えたとき、直流と同じだけの
発熱(仕事)をする交流の値」として定義されたのが実効値だ。
正弦波交流 v=Vmsinωt(Vmは最大値)の実効値 V は、次の式で求まる。
V=2Vm≒0.707Vm
なぜ2で割るのかは、瞬時値を2乗して平均を取り、その平方根を取る(二乗平均平方根、
Root Mean Square=RMS)という手順から導かれる。電力は電圧・電流の2乗に比例するため、
「発熱の平均」を考えるには2乗の平均をとる必要があり、そこから元の電圧の次元に戻すために
平方根を取る——これがRMSという名前の由来でもある。
例題
正弦波交流の最大値が200Vのとき、実効値は何Vか。
V=2200≒141.4V
平均値 — 単純に「面積」を平均した値
もう1つの代表値が平均値だ。こちらは発熱量ではなく、半周期にわたる瞬時値を単純に平均したもの。
正弦波では次の式になる。
Vave=π2Vm≒0.637Vm
実効値(0.707×最大値)と平均値(0.637×最大値)は数値が近く紛らわしいが、正弦波では
実効値の方が必ず大きい。「実効値0.707 > 平均値0.637」という大小関係を先に覚えておけば、
どちらの数値かを取り違えたときに違和感で気づける。
例題
正弦波交流の実効値が100Vのとき、平均値は何Vか。
まず実効値から最大値を逆算する。
Vm=100×2≒141.4V
Vave=π2×141.4≒90.0V
AC100Vのコンセントの電圧は、実効値では100Vだが、平均値では約90V、そして瞬間の最大値では
約141Vにまで達している——同じ交流電圧を指していても、どの物差しで見るかで数字が変わる。
波形率と波高率 — 波形の「とがり具合」を測る
実効値・平均値・最大値の3つの比をとると、波形の形そのものを特徴づける指標が得られる。
波形率=平均値実効値,波高率=実効値最大値
正弦波では、波形率は約1.11、波高率(クレストファクタ)は約1.414(2)になる。
これらの値は正弦波にだけ成り立つ「指紋」のようなもので、波形が方形波や三角波、あるいは
高調波を含んでひずんだ波形になれば、値も変わる。
波形率・波高率は、正弦波では「最大値>実効値>平均値」という大小関係を反映して、
どちらも1より大きい値になる。「大きい方の値を分子に置く」というルールで統一しておけば、
分子・分母を逆にする間違いを防げる。
なぜ実務でこの区別が問題になるのか
一般的な交流用テスタの多くは、実は実効値を直接測っているわけではない。整流した波形の
平均値を内部で測定し、それに正弦波の波形率(約1.11)を掛けて「実効値相当」として
表示する、平均値応答実効値表示という方式が広く使われている。電力系統の電圧のように
波形がほぼきれいな正弦波であれば、この換算で正確な実効値が得られる。
だが、インバータやスイッチング電源の出力のように高調波を多く含むひずみ波形では、
実際の波形率が正弦波の1.11から外れているため、この換算に誤差が生じる。表示値が実際の
実効値より高くなることも低くなることもあり、波形によって誤差の向きは一定しない。
制御盤の周辺でインバータ出力側の電圧・電流を正確に測りたい場合には、波形によらず
二乗平均平方根を直接計算する実効値型(true RMSとも呼ばれる)のテスタを選ぶ必要がある。
具体例で見る指示値のズレ — 矩形波を測ってみると
数値で確認してみよう。振幅(最大値)50Vの矩形波(常に+50Vと-50Vの間を瞬時に
切り替わる波形)を、平均値応答実効値表示型の電圧計で測定した場合を考える。
矩形波は時間によらず大きさが常に50Vのまま(符号が反転するだけ)なので、真の実効値
(二乗平均平方根)は、瞬時値の2乗が常に502で一定であることから、
Vrms=502=50V
となり、真の実効値が最大値と一致する(波高率=1)。一方、全波整流した波形も
常に大きさ50Vのままなので、平均値も50Vだ。ここで平均値応答実効値表示型の電圧計は、
波形によらず「正弦波なら平均値×1.11=実効値になる」という換算を機械的に適用して
指示値を作るため、
指示値=50V×1.11≒55.5V
真の実効値50Vに対して指示値は約55.5V——約11%も高く表示されることになる。
矩形波は波形率(実効値/平均値=50/50=1)が正弦波の1.11より小さいため、正弦波用の
換算係数をそのまま当てはめると指示値が実際より高く出る側にずれる。これが「整流形計器は
ひずみ波形を正しく測れない」という注意点の、数字で見た中身だ。
波形が変われば波形率も変わり、正弦波用の換算係数(×1.11)による指示値のズレ方も
変わる。矩形波(波形率1)では指示値が真の実効値より高く出るが、波形率が1.11より
大きい波形(尖った波形)では逆に低く出ることもある。「整流形計器のズレは波形次第で
高くも低くもなる」という前提を、数値例と結びつけて覚えておく。
直流と交流が混在する回路の実効値 — 別々に求めて、2乗の和の平方根で合成する
ここまでは交流だけの波形を扱ってきたが、制御盤の中には直流電源と交流電源の両方が
同じ回路につながっている場面もある(例えば、直流のバイアス電源に交流信号を重ねる回路)。
このとき、抵抗を流れる瞬時電流は、直流成分Idcと交流成分iac(t)を足した形になる。
i(t)=Idc+iac(t)
この合成された電流の実効値は、Idcと交流成分の実効値Iacを単純に足し算
したものにはならない。実効値の定義(二乗平均平方根)に立ち返ってi(t)を2乗してみる。
i(t)2=Idc2+2Idciac(t)+iac(t)2
この式を1周期にわたって平均すると、真ん中の項(直流と交流の積)は、交流成分iac(t)
の1周期平均がゼロであることから、平均すると消えてしまう。残るのはIdc2と
iac(t)2の平均(=交流成分の実効値の2乗Iac2)だけだ。ここに平方根を取ると、
I=Idc2+Iac2
という、直流分・交流分それぞれの実効値の2乗の和の平方根で合成された実効値が求まる。
「実効値どうしなら単純に足し算できるはず」という直感は誤りだ。実効値は2乗して平均する
という手順を経て定義されているため、直流と交流のように性質の異なる2つの成分を合成する
ときも、必ず2乗の和の平方根という同じ手順を踏む必要がある。抵抗の消費電力を求めるときも、
この合成した実効値をP=I²Rに代入する方法と、直流分の電力・交流分の電力を別々に求めて
単純に足し合わせる方法(P=Idc²R+Iac²R)のどちらでも同じ結果になる——交流分と直流分の
『積』の項が電力の平均でも消えてしまうためだ。
例題
ある抵抗に、直流電源による3Aの電流と、交流電源による実効値4Aの電流が、重ね合わせの理
によって同時に流れている。この抵抗を流れる電流全体の実効値を求める。
I=Idc2+Iac2=32+42=9+16=25=5A
3・4・5という見慣れた数の組み合わせだが、3+4=7Aという単純な足し算ではなく、
5Aという2乗の和の平方根が正しい合成値になる。
ひずみ波交流の平均電力 — 周波数成分ごとに計算して、あとで足し合わせる
直流と交流が混在する場合、「異なる性質の2つの成分を合成するときは、2乗の和の平方根を
使う」という考え方を見た。同じ発想は、基本波に高調波が混ざったひずみ波交流(インバータ
出力や非線形負荷の電流など)の平均電力を求めるときにも、そのまま応用できる。
抵抗Rに流れるひずみ波電流が、周波数の異なる複数の正弦波の和として表せるとする。
i(t)=I1msinωt+I3msin3ωt+⋯
この瞬時電流を2乗すると、各周波数成分の2乗の項(I1m2sin2ωtなど)に加えて、
異なる周波数どうしの積(2I1mI3msinωtsin3ωtなど)という交差項も
現れる。ここで、直流と交流の合成のときに直流×交流の積の項が1周期平均でゼロになったのと
まったく同じ理屈で、周波数の異なる2つの正弦波の積も、基本波の1周期にわたって平均すると
ゼロになる(三角関数の直交性)。
その結果、ひずみ波の平均電力は、各周波数成分ごとの実効値から個別に電力を計算し、単純に
足し合わせるだけで求まる。
P=I12R+I32R+⋯(I1,I3,…は各成分の実効値)
例題
R=8Ωの抵抗に、ひずみ波交流電流 i=10sinωt+4sin3ωt [A] が流れた。
この抵抗で消費される平均電力Pを求める。
基本波・3次高調波それぞれの実効値は、
I1=210A,I3=24A
これらを使って、各成分の電力を個別に求めてから合計する。
P=I12R+I32R=(210)2×8+(24)2×8=50×8+8×8=400+64=464W
ひずみ波の平均電力を求めるとき、「まず瞬時値どうしを足してから、全体をまとめて2乗して
実効値を求める」という遠回りは必要ない。周波数が異なる成分どうしの交差項は必ず消える、と
先に見切ってしまえば、基本波・高調波それぞれの実効値と電力を別々に計算し、最後に足し算する
だけでよい——直流+交流の合成のときと同じ「異なる性質の成分は2乗の和(電力なら単純な和)で
合成する」という発想が、ここでも一貫して使えることを確認しておきたい。
冒頭のコンセントの「100V」という数字の正体——答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。