考えてみよう
センサーが出す信号は、多くの場合ミリボルト単位のごくわずかな電圧変化にすぎない。
そのままでは制御盤の中のリレーもPLCの入力回路も、指一本動かせない。
なぜ増幅回路を1つ挟むだけで、そのわずかな信号が機器を動かせるほどの強さに変わるのか。
拡大するとき、回路の中では何が何倍にされているのか。
このトピックを読み終えるころには、制御盤やセンサー回路の中にある小さなアンプ回路を見て、
「何を、どれだけ拡大しているか」を数値で言い当てられるようになっている。
種明かしは、トランジスタが電流を増幅する部品であるという事実と、その増幅度を測る
「デシベル」という物差し、そして負帰還という仕組みを組み合わせた、増幅回路の設計思想にある。
トランジスタの増幅作用 — 小さな電流の変化を、大きな電流の変化に拡大する
トランジスタには3つの端子(ベース・コレクタ・エミッタ)があり、ベースに流す電流 Ib を
少し変化させると、コレクタに流れる電流 Ic がそれよりずっと大きく変化する。この比率を
電流増幅率(hFE)と呼ぶ。
Ic=hFE×Ib
hFE は数十から数百程度の値を取ることが多い。つまりベース側でμA(マイクロアンペア)
オーダーのわずかな電流変化を作ってやるだけで、コレクタ側にはmA(ミリアンペア)オーダーの
大きな電流変化が現れる——これが「小さな信号で大きな電流を制御する」増幅の正体だ。
例題
hFE=100 のトランジスタに、ベース電流 Ib=20μA を流した。コレクタ電流 Ic はいくらか。
Ic=100×20μA=2000μA=2mA
単位のケタで検算できる。$I_b$ はμA(100万分の1アンペア)オーダー、$I_c$ はmA(1000分の1アンペア)
オーダーになっているはずだ。もし計算結果が逆($I_b$ の方が大きい)になったら、
$I_c = h_{FE} \times I_b$ の掛ける相手を取り違えている。
増幅度の物差し — 「倍」とデシベル(dB)
増幅度は「入力の何倍か」という倍率でそのまま表せるが、実務ではデシベル(dB)という
対数の物差しで表されることも多い。電圧の増幅度 Av(=出力電圧÷入力電圧)をdBで表すと、
GdB=20log10Av
電力の増幅度 Ap の場合は、
GdB=10log10Ap
電圧の式にだけ係数2が余分に付くのは、電力が電圧の2乗に比例するからだ
(P∝V2 なので、10log10(V2)=20log10V となる)。
例題
電圧増幅度が10倍の増幅回路がある。この利得をデシベルで表すと何dBか。
GdB=20log1010=20×1=20dB
10倍の電圧増幅度はちょうど20dBに相当する、という対応はよく使うので覚えておくと計算が速い。
エミッタ接地増幅回路の電圧利得 — hパラメータ(hie・hfe)で計算する
ここまでの hFE=IC/IB は、直流の動作点(バイアス)を決めるための電流増幅率だった。
交流の小さな信号(センサーの出力信号など)をどれだけ増幅するかを計算するときは、
交流の小信号等価回路という別の見方を使う。ここで登場するのが、hie(ベースから
見た交流の入力インピーダンス)と hfe(交流の小信号電流増幅率、hFEとほぼ同じ値を
使うことが多い)という2つのhパラメータだ。
エミッタ接地増幅回路で、コレクタ抵抗RCと負荷抵抗RLの合成抵抗をRL′とすると、
電圧利得Avは次の式で求まる。
Av=hiehfe×RL′
この式は、実は目新しいものではない。ベースに小さな交流電圧viを加えると、ib=vi/hie
という交流のベース電流が流れ、それがhfe倍された交流のコレクタ電流ic=hfeibが
合成抵抗RL′を流れることで出力電圧vo=ic×RL′が生まれる——この一連の流れを
Av=vo/viの形に整理しただけのものだ。
式の分子・分母を迷ったら単位で検算する。$A_v$は電圧÷電圧の比で単位を持たない。$h_{fe}$も
単位のない比(電流÷電流)、$h_{ie}$・$R_L'$はどちらも抵抗[Ω]なので、$h_{fe}\times R_L'/h_{ie}$
は[Ω]/[Ω]で無次元になり、$A_v$の単位(無次元)とつじつまが合う。もし$h_{ie}$を分子に
置いてしまうと、結果に[Ω]が残ってしまい、電圧の比であるはずの$A_v$の単位と矛盾する。
例題
エミッタ接地トランジスタ増幅回路で、コレクタ抵抗と負荷抵抗の合成抵抗RL′=2kΩ
のとき、電圧利得は40dBであった。小信号電流増幅率hfe=200として、入力電圧
vi=8mVを加えたときにベース(B)に流れる入力電流ibを求める。
まずdBからAv(倍率)を求める。
40dB=20log10Av⟹Av=1040/20=102=100倍
Av=hfe×RL′/hieの式をhieについて解く。
hie=Avhfe×RL′=100200×2000=4000Ω=4kΩ
ib=vi/hieより、
ib=4kΩ8mV=2×10−6A=2μA
この手の問題は「利得(dB)→倍率」「利得の式→hie」「オームの法則→ib」という3段階の手順に
分けて考えると迷わない。dBのまま式に代入してしまう、あるいはhieを求める式変形の途中で
分子・分母を取り違えるのがよくあるつまずきどころなので、各段階でいったん単位・桁数が
妥当か(hieなら数百Ω〜数kΩ程度が現実的、ibならμA〜mAオーダーが現実的)を確認する
習慣をつけたい。
オペアンプの基本 — 「仮想短絡」という近似で回路を解く
オペアンプ(演算増幅器)は、開ループ利得が非常に大きい増幅ICで、通常は出力の一部を
入力に戻す負帰還をかけて使う。負帰還をかけると、理想的なオペアンプは次の2つの
性質で近似できる。
- 2つの入力端子(+端子と-端子)には電流がほとんど流れ込まない(入力インピーダンスが非常に高い)
- 2つの入力端子の電位は、常にほぼ等しくなる(仮想短絡)
これと対になる性質として、理想オペアンプの出力インピーダンスは非常に低い(ゼロに
近い)。負荷(次段の回路や測定器など)をどれだけ接続しても、出力電圧がほとんど
下がらない、理想的な電圧源に近いふるまいをする。「信号を受け取る入力側は高インピーダンス、
信号を送り出す出力側は低インピーダンス」という向きの違いを押さえておきたい。
この2つの性質を使うと、抵抗の比だけで増幅度を求められる。反転増幅回路(-端子側に
入力抵抗 Rin、出力との間に帰還抵抗 Rf を接続する構成)の電圧増幅度は、
Av=−RinRf
マイナス符号は、出力の位相が入力に対して180度反転していることを表す。
例題
入力抵抗 Rin=1kΩ、帰還抵抗 Rf=10kΩ の反転増幅回路の
電圧増幅度の大きさはいくらか。
∣Av∣=1kΩ10kΩ=10倍
「+端子を接地すると-端子も見かけ上0Vになる」という仮想短絡は、直感に反して感じやすい。
+端子と-端子は電気的に直接つながっていないのに、なぜ同じ電位になるのか——理由は、
オペアンプの開ループ利得がきわめて大きいため、2つの入力端子にわずかでも電位差が生じると
出力が瞬時に振り切れてしまい、それを防ぐように負帰還がかかって電位差をほぼゼロに保つからだ。
この「ほぼゼロに保たれた状態」が仮想短絡であり、反転増幅回路の利得の式はここから導かれる。
非反転増幅回路 — 位相を反転させずに増幅する
反転増幅回路は入力信号を-端子に入れていたが、+端子に入力信号を入れる構成もある。
これが非反転増幅回路で、-端子とグラウンドの間に抵抗R1、-端子と出力の間に
帰還抵抗Rfを接続する。
+端子には入力電圧Vinがそのまま加わる。仮想短絡により-端子の電位もVinに
等しくなり、-端子には電流が流れ込まないので、R1とRfは出力からグラウンドへ向かう
1本の直列回路(分圧回路)とみなせる。Vinは、この分圧回路がR1の両端に作る
電圧そのものだから、
Vin=Vout×R1+RfR1⟹Av=VinVout=1+R1Rf
反転増幅回路の式(Av=−Rf/Rin)と違い、非反転増幅回路の利得には必ず「+1」が
付き、符号もマイナスにならない。出力の位相は入力と同じ(反転しない)。
例題
R1=4kΩ、Rf=36kΩの非反転増幅回路に、入力電圧
Vin=0.2Vを+端子に加えた。出力電圧Voutはいくらか。
Av=1+436=10,Vout=10×0.2=2V
反転増幅(Av=-Rf/Rin)と非反転増幅(Av=1+Rf/R1)は、同じ抵抗値を使っても利得の大きさ
そのものが違う(非反転の方が必ず1だけ大きい)。信号がオペアンプの+端子と-端子の
どちらに入っているかをまず確認し、それぞれ専用の式を使い分ける習慣をつけたい。
負帰還 — 利得を犠牲にして、安定性を手に入れる
負帰還(NFB)とは、出力の一部を逆位相で入力側に戻す仕組みだ。入力を弱める方向に働くため、
利得は必ず下がる。その代わりに、次のような「質」の向上が得られる。
- 温度変化やトランジスタ・IC個体ごとのばらつきによる特性変化が打ち消され、動作が安定する
- 入力と出力の比例関係が崩れにくくなり、波形の歪みが小さくなる(直線性の向上)
オペアンプ回路のほぼすべてが負帰還を前提に設計されているのは、素子1個ごとの利得の
ばらつきに頼らず、外付けの抵抗比だけで増幅度を正確に決められるという実務上の利点が
大きいからだ。制御盤の中でセンサーのmV単位の信号をPLCが読める電圧まで持ち上げる
アンプ回路にも、この負帰還付きのオペアンプ増幅回路がよく使われている。
シュミットトリガ回路 — 帰還先を+端子に変えると、増幅回路は「2値」の回路に化ける
ここまでのオペアンプ回路は、すべて帰還抵抗を-端子(反転入力)に戻す負帰還だった。
帰還先を+端子(非反転入力)に変えると、回路の性格はまったく別物になる。これが
正帰還であり、代表的な応用がシュミットトリガ回路(コンパレータの一種)だ。
負帰還の反転増幅回路・非反転増幅回路は、入力電圧に比例した連続的な出力を返す
「線形」動作をする。一方、正帰還をかけたシュミットトリガ回路の出力は、入力電圧が
あるしきい値を超えた瞬間に一気に反転し、0V付近とVcc付近の2つの状態のどちらかに
張り付く(2値動作)。しかも、入力電圧が上昇していくときに出力が反転するしきい値と、
下降していくときに反転するしきい値は異なる値になる。この性質をヒステリシスと呼ぶ。
ヒステリシスは一見ややこしい性質に思えるが、目的はシンプルだ。しきい値が1つしかない
単純な比較回路(コンパレータ)では、入力信号にわずかなノイズが乗っただけで、しきい値
付近を出力がパタパタと何度も往復してしまう(チャタリング)。上昇時と下降時でしきい値を
意図的にずらしておけば、一度反転した出力は、ノイズ程度の変動では逆方向のしきい値まで
戻らず安定する。制御盤のセンサー信号をON/OFFのデジタル信号に変換する回路に
シュミットトリガがよく使われるのは、このノイズ耐性の高さが理由だ。
シュミットトリガ回路と負帰還の増幅回路を見分けるには、帰還抵抗がオペアンプの
どちらの端子に戻っているかを確認すればよい。-端子への帰還なら負帰還(線形な
増幅回路)、+端子への帰還なら正帰還(2値的なシュミットトリガ回路)と、接続先の
端子だけで判別できる。
エミッタホロワ — 電圧は増幅しないが、入力インピーダンスを跳ね上げる回路
トランジスタ増幅回路には、出力をどの端子から取り出すかによっていくつかの構成がある。
ここまで扱ってきたのは出力をコレクタから取り出す構成だったが、もう1つ実務でよく使われるのが、
出力をエミッタから取り出すエミッタホロワ(コレクタ接地回路)だ。
エミッタホロワは電圧をほとんど増幅しない(電圧利得はほぼ1倍)代わりに、入力インピーダンスが
非常に高く、出力インピーダンスが非常に低いという特徴を持つ。この性質を使って、センサーなどの
弱い信号源に負荷をかけずに受け渡す「緩衝(バッファ)」の役割で使われる。
バイアス設計 — 抵抗R1・R2でベース電位を決め、REでエミッタ電流を決める
エミッタホロワの直流動作点(バイアス)は、電源電圧VCCを抵抗R1(電源側)と
R2(接地側)で分圧してベース電位VBを作り、そこからベース-エミッタ間電圧
VBE(通常0.7V程度)を差し引いた電位がエミッタにかかる、という考え方で求める。
VB=VCC×R1+R2R2,VE=VB−VBE,RE=IEVE
(ベース電流はR2を流れる電流に比べて十分小さいものとして無視した近似)
例題
VCC=12V、R1=8kΩ(電源側)、R2=4kΩ(接地側)
とする。動作点のエミッタ電流を1mAとしたい。抵抗REの値はいくらか。
VB=12×8+44=4V,VE=4−0.7=3.3V,RE=1mA3.3V=3.3kΩ
交流等価回路 — 入力インピーダンスがhieよりはるかに大きくなる理由
エミッタホロワを交流信号の視点(hパラメータによる等価回路)で見ると、ベースから見た
入力インピーダンスは、単純なhieだけではなく、次の式になる。
Zin=hie+(1+hfe)RE
hfeは数十〜数百程度の値を取るため、(1+hfe)REの項はhieよりはるかに大きくなる。
これは、エミッタホロワの出力(エミッタ電圧)がほぼそのままベース電圧に追従する(電圧利得≒1)
ため、REを流れる電流(≒(1+hfe)ib)による電圧降下が、ベース側から見ると
小さなベース電流ibの変化に対して(1+hfe)倍に拡大されて働く——電流帰還の効果による。
「エミッタホロワは電圧を増幅しないから、あまり役に立たない回路」と考えるのは早計だ。
むしろこの回路の価値は、$h_{ie}$を$(1+h_{fe})R_E$倍近くまで押し上げる、入力インピーダンスの
変換にある。センサー回路のように「信号源から電流をほとんど奪わずに、次の回路へ受け渡したい」
場面で、エミッタホロワが緩衝段としてよく使われるのはこのためだ。
FET増幅回路 — 電流ではなく「電圧」から出力電流への変換で増幅する
トランジスタ(BJT)の増幅は、ベース電流IbをhFE倍してコレクタ電流Icを作る「電流の増幅」だった。FET(電界効果トランジスタ)を使った増幅回路は、これとは違う量で増幅の大きさを表す。ゲート電圧の変化がドレイン電流の変化にどれだけつながるかを表す相互コンダクタンスgm(単位はS、ジーメンス)だ。
id=gmvgs
FETを使ったソース接地増幅回路(ゲートに信号を入れ、ドレインから出力を取り出す構成)の簡易小信号等価回路では、ドレイン側の内部抵抗rdと負荷抵抗RLが並列に見える。rdがRLに比べて十分大きいとき、電圧増幅度Av=∣vo/vi∣は次の式で近似できる。
Av≒gmRL
rdを無視できないほど小さい(あるいはRLと同程度)場合は、rdとRLの並列合成抵抗を使い、次のように表す。
Av=rd+RLgmrdRL
例題
相互コンダクタンスgm=4mSのFETを使ったソース接地増幅回路がある。負荷抵抗RL=2kΩとし、ドレイン側の内部抵抗rdはRLに比べて十分大きく無視できるとする。電圧増幅度Avはいくらか。
Av≒gmRL=4×10−3×2×103=8倍
BJTの増幅はhFE(電流÷電流、単位なしの比)で表すのに対し、FETの増幅はgm(電流÷電圧、単位はS)で表す——この単位の違いが、そのまま「BJTは電流制御、FETは電圧制御」という素子の性質の違いを表している。電圧増幅度Av=gmRLの式は、電流Id=gmVgsという定義に、オームの法則Vo=Id×RL(rdを無視した場合)を組み合わせただけのものと理解しておくと、rdが無視できない場合の式(gmrdRL/(rd+RL))にも自力で拡張できる。
バイアス回路の温度安定性 — 固定・電流帰還・電圧帰還の3方式
エミッタホロワのR1・R2による分圧は、バイアス(直流動作点)を決める設計の一例に
すぎない。一般のトランジスタ増幅回路には、バイアスの決め方によっていくつかの方式があり、
周囲温度が変わってhFEがばらついたときに、コレクタ電流Icがどれだけ変動しにくいか
(安定度)が方式ごとに大きく違う。
- 固定バイアス:ベースに抵抗Rを1本つなぎ、電源電圧VCCから一定のベース電流
IB=(VCC−VBE)/Rを流し込むだけの、最も単純な方式。IBはhFEの値と無関係に
ほぼ一定のまま決まってしまうため、温度上昇でhFEが増加すると、IC=hFE×IBが
そのまま増加してしまう。hFEの変化を打ち消す帰還経路がなく、安定度は最も低い。
- 電流帰還(自己)バイアス:エミッタに抵抗REを追加する方式。hFEの増加で
IC(≒IE)が増えようとすると、REの電圧降下が増えてベース-エミッタ間電圧
VBEを押し下げ、結果としてIBの増加を抑える向きに働く。この「ICの増加が
IBを減らす」という負帰還のループが、hFEが変化してもICを安定させる。
- 電圧帰還バイアス:コレクタ-ベース間に抵抗を接続する方式。hFEの増加でICが
増えようとすると、コレクタ抵抗での電圧降下が増えてコレクタ-エミッタ間電圧VCEが
低下し、これがベース抵抗にかかる電圧を減らしてIBを減少させる。こちらも
負帰還によってICの変化が抑えられる。
3つの方式を見分けるコツは、回路図の抵抗の本数や配置そのものではなく、「hFEが増加して
ICが増えようとしたとき、それを打ち消す方向に電圧・電流が変化する経路が回路の中にあるか」
をたどることだ。エミッタ抵抗REを経由する経路があれば電流帰還バイアス、コレクタ-ベース間の
抵抗を経由する経路があれば電圧帰還バイアス、そのどちらの帰還経路もなければ固定バイアスと
判断すればよい。安定度の順位は「固定バイアス<電圧帰還バイアス・電流帰還バイアス」で、
実務の増幅回路では帰還のかからない固定バイアスは温度変化の大きい環境では避けられる
ことが多い。
直流負荷線とグラフによるバイアス設計 — 動作点を「線を引いて」求める
ここまでのバイアス設計は、IC=hFE×IBや分圧の式を使った計算だけで
動作点を求めてきた。実際の設計・試験では、トランジスタのメーカー資料に載っている
特性曲線(ベース電流IBごとのVCE-ICの関係を示す曲線群)をグラフの上で
読み取りながら動作点を決める、グラフによる方法もよく使われる。
エミッタ接地増幅回路で、コレクタに抵抗RLを接続し、電源電圧VCCを加えた場合を
考える。コレクタ側の回路にキルヒホッフの電圧則を立てると、
VCC=ICRL+VCE⟹IC=RLVCC−VCE
という直線の式が得られる。これを直流負荷線と呼ぶ。VCE-IC平面上に描くと、
- VCE=0のとき:IC=VCC/RL(IC軸の切片)
- IC=0のとき:VCE=VCC(VCE軸の切片)
の2点を通る直線になる。この負荷線と、特性曲線群(各IBの値ごとの曲線)との交点が、
そのIBのときの実際の動作点だ。
例題
電源電圧VCC=9V、コレクタ抵抗RL=3kΩのエミッタ接地増幅回路がある。
直流負荷線の2つの軸切片と、動作点をVCE=5Vに設定したときのバイアス抵抗RBを求める。
まず負荷線の軸切片は、
IC軸切片=RLVCC=3k9=3mA,VCE軸切片=VCC=9V
動作点VCE=5VにおけるICは、負荷線の式にそのまま代入して、
IC=RLVCC−VCE=3k9−5≒1.33mA
ここで、メーカー資料の特性曲線からこの動作点に対応するベース電流がIB=10μAと
読み取れたとする。固定バイアス回路(ベース抵抗RB1本でVCCからIBを作る構成)では、
VBEを無視できる近似のもとで、
RB≒IBVCC=10μA9=900kΩ=0.9MΩ
グラフによる方法の核心は「負荷線を引く→目標の$V_{CE}$(または$I_C$)における負荷線上の
点を読む→その点に対応する$I_B$の曲線を特定する→$I_B$からバイアス抵抗を逆算する」という
一方向の手順だ。式による設計($I_C=h_{FE}I_B$を直接使う方法)と本質は同じだが、$h_{FE}$の
値がばらつきやすい実物のトランジスタでは、実測した特性曲線を直接読む方が現実の動作点に近い
設計ができる、という実務上の理由でグラフの方法が使われる。
電力増幅回路のA級・B級・C級 — 動作点の深さが、効率と歪みのトレードオフを決める
これまで見てきた増幅回路は、信号を歪ませずに拡大すること(忠実度)を重視していた。しかし
出力段でスピーカーやアンテナのような負荷を大きな電力で駆動する電力増幅回路では、
忠実度だけでなく電源効率(電源から取り出した電力のうち、どれだけが負荷に有効に伝わるか)
も重要な設計要素になる。この2つはトレードオフの関係にあり、無信号時のバイアス電流(動作点)
をどこに置くかで、A級・B級・C級という3つのクラスに分類される。
- A級:動作点を入力波形の中央付近に置き、入力の全周期にわたってコレクタ電流が
流れ続ける。出力波形はほとんど歪まないが、無信号時にも常にコレクタ電流が流れているため、
電源効率は理論上の最大値でも50%以下にとどまる。
- B級:動作点を波形の下端付近(遮断領域寄り)に置き、入力の半周期だけコレクタ電流が
流れる。無信号時にはコレクタ電流がほとんど流れないため電力の無駄が少なく、A級より
電源効率が高い。ただし単体では半分の波形しか増幅できないため、通常は2つのトランジスタを
組み合わせて互いに残り半分を分担させるプッシュプル構成で使う。
- C級:動作点をB級よりさらに深く(遮断領域の奥)に置き、入力波形のごく一部の期間しか
コレクタ電流が流れない。電源効率はA級・B級よりさらに高いが、出力波形の歪みは非常に大きい。
そのままでは音声のような忠実な増幅には使えないため、同調回路(共振回路)と組み合わせて
目的の周波数成分だけを取り出す、高周波の電力増幅(無線送信機など)に使われる。
「効率が良い=性能が高い」と一括りにしないことが、この3クラスを理解するコツだ。動作点を
波形の端へ追いやるほど(A級→B級→C級の順に)、無信号時の無駄な電力消費は減って効率は
上がるが、引き換えに出力波形は入力波形から崩れやすくなる。忠実度を最優先する場面(音声
プリアンプなど)にはA級、効率と忠実度のバランスを取りたい場面(音声パワーアンプなど)には
プッシュプルのB級、効率を最優先し歪みは同調回路で除去できる場面(無線送信機の高周波段)には
C級、と使い分ける。
コレクタ損失 — 電力増幅回路の熱設計を決める量
電力増幅回路では、トランジスタ自身の内部でも電力が熱として消費される。この熱をコレクタ側の
量で表したものがコレクタ損失PCだ。
PC=IC×VCE
コレクタ電流ICが、コレクタからエミッタへ抜ける経路(コレクタ-エミッタ間電圧VCE)を
通り抜ける際に消費する電力そのもの、と捉えるとよい。コレクタ-ベース間の電圧ではない点に
注意したい。コレクタ損失が、そのトランジスタの最大定格を超えて大きくなると、発熱によって
トランジスタが破壊されることがあるため、電力増幅回路の設計ではコレクタ損失が定格内に収まる
動作点を選ぶ必要がある。
例題
コレクタ電流IC=0.5A、コレクタ-エミッタ間電圧VCE=12Vのとき、
コレクタ損失PCを求める。
PC=IC×VCE=0.5×12=6W
コレクタ損失の式に、うっかりコレクタ-ベース間電圧を代入してしまう間違いが起きやすい。
『コレクタが絡む電圧』という漠然とした覚え方をせず、「電流$I_C$が実際に流れている経路
(コレクタからエミッタへ)の両端電圧を掛ける」という、電流の通り道から電圧の対象を
確認する習慣をつけておきたい。
発振回路 — 電源だけで一定の波形を作り出す
増幅回路の出力の一部を、負帰還とは逆に同位相のまま入力へ戻す(正帰還)と、
外から信号を入れなくても回路自身が一定の周波数で振動し続ける発振回路になる。
LC発振回路はコイルとコンデンサの共振現象を利用して発振周波数を決めるが、
周囲の温度変化や部品ごとのばらつきの影響を受けやすく、発振周波数がわずかに
変動しやすいという弱点がある。
そこで、LC発振回路のコイルを水晶振動子(水晶を薄く切り出した部品。
電圧を加えると機械的に振動し、その振動が特定の周波数の電気信号として現れる
圧電効果を利用する)に置き換えた水晶発振回路(ピアース発振回路など)が使われる。
水晶振動子は直列共振周波数と並列共振周波数の間のごく狭い範囲では、コイルと
同じ「誘導性(インダクタ的)」なふるまいをするため、この置き換えが成り立つ。
機械的な共振現象を使うため、LC発振回路よりも周波数安定度がけた違いに優れ、
時計やマイコンのクロック信号など、正確な周波数が求められる回路の基準として
広く使われている。
オペアンプを使ったCR発振回路 — 抵抗とコンデンサだけで発振する
コイルを使わず、抵抗RとコンデンサCだけの正帰還網とオペアンプを組み合わせて発振させる
方式もある。代表例がウィーンブリッジ型発振回路で、直列に接続したR・Cと、並列に
接続したR・Cの2組のCR回路を正帰還網として使う。この正帰還網は、特定の周波数
f=2πRC1
でちょうど位相のずれが0°になり(=正帰還として働き)、そのとき信号の大きさは1/3に
減衰するという特性を持つ。発振が持続するための条件(バルクハウゼンの条件)は
「ループ利得(増幅段のゲイン×正帰還網の伝達率)の大きさがちょうど1になること」なので、
正帰還網の1/3の減衰を打ち消すために、増幅段の電圧増幅度をちょうど3倍(非反転増幅回路
でRf=2R1)に設定する。
例題
R=10kΩ、C=0.01μF(=1×10−8F)を使ったウィーンブリッジ型
CR発振回路の発振周波数を求める。
f=2πRC1=2π×104×1×10−81≒6.283×10−41≒1592Hz≒1.59kHz
「増幅度は大きいほど発振が安定する」という直感は誤りだ。正帰還網の減衰率(1/3)は$R$・$C$の
値によらず一定なので、増幅段のゲインはちょうど3倍で釣り合わせる必要がある。ゲインを3倍より
大きく取ると振幅がどんどん増大して出力が電源電圧で頭打ちになり(飽和)、波形が歪む。LC発振・
水晶発振がコイルや振動子の共振を利用するのに対し、CR発振はコイルを使わずに済むぶん低周波
(数百Hz〜数十kHz程度)の発振に向いている、という使い分けも押さえておきたい。
冒頭のセンサー信号が制御盤の中でどう拡大されているか、答え合わせは理解度チェックの
最後の問題でしてみよう。