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理論 ・ 12 / 16

交流電力と力率

読み終えると、こうなる

電気料金の明細にある『力率』の欄や、工場の受電設備にある大きなコンデンサ盤を見たとき、それが何のために置かれているかをその場で説明できるようになる

  • 電圧・電流・力率の3つの値から、負荷が実際に消費する有効電力(W)を計算できる
  • 皮相電力(VA)・有効電力(W)・無効電力(var)の関係を、電力の三角形の図と式の両方で説明できる
  • RL直列回路のインピーダンスから力率を求め、消費電力を計算できる
  • 力率改善用コンデンサを入れると何が変わり、何が変わらないかを説明でき、力率を1にするために必要なコンデンサ容量Cを、負荷の無効電力(または皮相電力・力率)から逆算できる
考えてみよう

電気料金の明細をよく見ると、「力率」という欄がある。工場やビルの受電設備には、 コンデンサだけが何個も並んだ大きな盤が置かれていることも多い。

なぜ電力会社は、契約の力率が悪いと割増料金を取るのか。そして、コンデンサを1つ足しただけで、 なぜ電気料金が下がるのか——コンデンサは電気を消費するどころか、むしろ蓄える部品のはずなのに。

このトピックを読み終えるころには、受電設備にあるコンデンサ盤を見て、 それが何をしているかをその場で説明できるようになっている。

種明かしは、交流回路には「実際に仕事をする電力」と「電源との間を行ったり来たりするだけで 仕事をしない電力」の2種類があり、その配分比率を表すのが力率だという事実にある。

3つの電力 — 有効電力・無効電力・皮相電力

直流回路では、電力は P=VIP = VI の1つの式だけで決まった。ところが交流回路にコイルや コンデンサが混ざると、電圧と電流の位相(タイミング)がずれる。このずれの角度を φ\varphi とすると、 交流回路の電力は3種類に分かれる。

P=VIcosφ [W](有効電力),Q=VIsinφ [var](無効電力),S=VI [VA](皮相電力)P = VI\cos\varphi \ \text{[W](有効電力)}, \quad Q = VI\sin\varphi \ \text{[var](無効電力)}, \quad S = VI \ \text{[VA](皮相電力)}
  • 有効電力 PP:モーターを回す、ヒーターを発熱させるといった、実際に仕事に使われる電力。単位は普段見慣れたW(ワット)。
  • 無効電力 QQ:コイルやコンデンサが電源との間でエネルギーをやり取りするだけで、仕事はしない電力。単位はvar(バール)。
  • 皮相電力 SS:電源設備(発電機・変圧器・配線)が実際に供給しなければならない電力の見かけ上の大きさ。単位はVA(ボルトアンペア)。

この3つは、直角三角形の関係(電力の三角形)にある。

S2=P2+Q2S^2 = P^2 + Q^2

そして力率とは、皮相電力のうちどれだけが有効電力として実際に仕事に使われているかを表す比率だ。

cosφ=PS\cos\varphi = \frac{P}{S}

力率は必ず0以上1以下の値になる。力率1(100%)は、無効電力がゼロで、電源が供給する電力が すべて仕事に使われている理想的な状態を意味する。

例題

電圧200V、電流5A、力率0.7の負荷が消費する有効電力はいくらか。

P=VIcosφ=200×5×0.7=700WP = VI\cos\varphi = 200 \times 5 \times 0.7 = 700\text{W}
力率の式で分子・分母を迷ったら、「力率は必ず1以下」という性質で検算できる。P/Sのつもりが 逆になっていれば、計算結果が1を超えてしまい、その場でミスに気づける。

RL回路の力率 — インピーダンス三角形から求める

コイル(インダクタンス)を含むRL直列回路では、抵抗 RR とリアクタンス XX から、 インピーダンス ZZ と力率を次のように求められる。

Z=R2+X2,cosφ=RZZ = \sqrt{R^2+X^2}, \quad \cos\varphi = \frac{R}{Z}

R・X・Zも直角三角形(インピーダンス三角形)の関係にあり、電力の三角形と相似の形になっている。 「実際に仕事をする」という意味で、Rが有効電力側、Xが無効電力側に対応していると考えれば、 力率の分子に必ずRが来ることも自然に理解できる。

例題

抵抗8Ω、リアクタンス6ΩのRL直列回路に電圧100Vを加えた。この回路が消費する有効電力はいくらか。

Z=82+62=10Ω,I=10010=10A,cosφ=810=0.8Z = \sqrt{8^2+6^2} = 10\Omega, \quad I = \frac{100}{10} = 10\text{A}, \quad \cos\varphi = \frac{8}{10} = 0.8 P=I2R=102×8=800WP = I^2 R = 10^2 \times 8 = 800\text{W}
同じ問題を $P = VI\cos\varphi = 100 \times 10 \times 0.8 = 800$W で計算しても、当然同じ答えになる。 どちらの式で解けるか(そして両方が一致すること)を確認しておくと、本番での検算に使える。

なぜ受変電設備にコンデンサが並んでいるのか

モーターなど誘導性(コイル的な性質を持つ)負荷が多い工場では、力率が0.6〜0.8程度まで 下がることがある。力率が低いということは、同じ有効電力を得るために、より多くの電流を 電源から引き込まなければならないということだ。電流が増えれば、配線での電圧降下や 発熱による損失も大きくなり、電力会社の設備にも余分な負担がかかる。そのため電力会社は、 契約力率が一定水準を下回ると割増の料金を課す仕組みを設けていることが多い。

ここで使われるのが、力率改善用の進相コンデンサだ。コンデンサはコイルとは逆の性質 (電流の位相を進める性質)を持つため、負荷側の誘導性の無効電力の一部を、コンデンサ側で 打ち消し合うようにまかなえる。その結果、電源から見た無効電力・皮相電力・電流が減り、 力率が1に近づく。

ただし注意したいのは、コンデンサが増やすのは電源側から見た「効率の良さ」であって、 モーターが行う仕事の量(有効電力)そのものではないという点だ。モーターは力率改善の前後で 同じ仕事をしているにすぎない。受変電設備のコンデンサ盤は、電力を作り出しているのではなく、 無駄な電流のやり取りを減らして電源設備の負担を軽くしている——この違いを押さえておくと、 力率にまつわる問題で惑わされにくくなる。

力率を1にするために必要なコンデンサ容量を計算する

「コンデンサを入れると力率が良くなる」ことは分かっても、実務では「では何μFのコンデンサを 選定すればよいか」という具体的な数値が必要になる。ここまでの電力の三角形の考え方を使えば、 必要な静電容量Cを式で求められる。

コンデンサが電源から吸収する無効電力(進み無効電力)は、次の式で表される。

Qc=ωCV2Q_c = \omega C V^2

VVは電源電圧(実効値)、ω=2πf\omega=2\pi fは角周波数だ。コンデンサは負荷とは逆方向(進み)の 無効電力を生み出すため、負荷の遅れ無効電力QLQ_Lとちょうど同じ大きさのQcQ_cを用意できれば、 電源から見た無効電力はゼロ(力率1)になる。

Qc=QLωCV2=QLC=QLωV2Q_c = Q_L \quad \Longrightarrow \quad \omega C V^2 = Q_L \quad \Longrightarrow \quad C = \frac{Q_L}{\omega V^2}

例題

電圧200V・周波数50Hzの電源に、有効電力6kW、力率0.6(遅れ)の誘導性負荷が接続されている。 力率をほぼ1まで改善するために必要なコンデンサの静電容量Cを求める。

まず負荷の無効電力QLQ_Lを、電力の三角形から求める。

S=Pcosφ=60000.6=10000VA,QL=S2P2=10000260002=8000varS = \frac{P}{\cos\varphi} = \frac{6000}{0.6} = 10000\text{VA}, \qquad Q_L = \sqrt{S^2-P^2} = \sqrt{10000^2-6000^2} = 8000\text{var}

角周波数ω=2π×50314.2rad/s\omega=2\pi\times50\fallingdotseq314.2\text{rad/s}を使って、

C=QLωV2=8000314.2×20026.37×104F=637μFC = \frac{Q_L}{\omega V^2} = \frac{8000}{314.2\times200^2} \fallingdotseq 6.37\times10^{-4}\text{F} = 637\mu\text{F}
コンデンサ容量の計算は「①負荷の無効電力$Q_L$を求める→②コンデンサの無効電力$Q_c$を$Q_L$に 一致させる→③$Q_c=\omega CV^2$から$C$を逆算する」という3段階に分けて考えると迷わない。 途中で皮相電力$S$や有効電力$P$をそのまま$Q_L$の代わりに使ってしまうミスが多いが、 $C$の式に入るのは必ず無効電力$Q_L$(var単位の量)であることを確認してから計算する。 なお、目標を力率1ではなく途中の値(例えば0.95)に留める場合は、$Q_c=P(\tan\varphi_1-\tan\varphi_2)$ のように、改善前後の力率角の差分だけコンデンサに負担させればよい。

冒頭の「力率が悪いと料金が上がり、コンデンサを足すと下がる」理由の答え合わせは、 理解度チェックの最後の問題でしてみよう。

出題者のワナ — ここで受験者を転ばせにくる

この論点は、知っているだけでは足をすくわれる。試験でよく仕掛けられる崩し方を、先に知っておこう。

  1. 力率を求める式で、P/Sではなく別の値どうしの比を使ってしまう

    なぜ引っかかる力率の定義cosφ=P/Sをあいまいに覚えていると、皮相電力と有効電力のどちらを分子に置くべきか迷い、逆にしてしまうことがある。

    見破り方力率は必ず0以上1以下の値になる。計算結果が1を超えたら、分子と分母を取り違えているサインだと気づける。

  2. 力率改善用コンデンサを入れると、有効電力Pも増えると誤解する

    なぜ引っかかる「力率が良くなる=効率が良くなる=電力が増える」と直感的に結びつけてしまうが、コンデンサは無効電力を打ち消すだけで、負荷自体が行う仕事の量は変わらない。

    見破り方力率改善は『電源から見た無駄(無効電力・電流)を減らす』ものであり、『負荷が行う仕事の量(有効電力)を増やす』ものではないと切り分ける。負荷(モーターなど)そのものを変えない限り、Pは変化しない。

  3. RL直列回路の力率を求めるとき、cosφ=R/Zとsinφ=X/Zを取り違える

    なぜ引っかかるインピーダンス三角形でR・X・Zの位置関係を覚え間違えると、力率(実際に仕事をする抵抗の割合)であるはずのcosφを、リアクタンス側の比で計算してしまう。

    見破り方力率は『実際に仕事をする抵抗Rの割合』なので、必ず分子はR。cosφ=R/Zで計算し、結果が0〜1の範囲に収まっているかを検算する。

  4. 力率改善に必要なコンデンサ容量Cを求める際、コンデンサの無効電力の式Qc=ωCV²のωやV²を掛け忘れる、あるいは負荷の無効電力QLではなく皮相電力Sや有効電力Pをそのまま使ってしまう

    なぜ引っかかる『コンデンサを増やせば力率が上がる』という定性的なイメージだけで止まっていると、実際にどれだけの無効電力を打ち消す必要があるかという定量的な計算(QL=Ptanφ、あるいはQL=√(S²-P²))を経由せずに式を作ってしまいやすい。

    見破り方手順を『①負荷の無効電力QLを求める→②コンデンサに同じ大きさの無効電力QcをQc=QLとして満たす→③Qc=ωCV²からCを逆算する』の3段階に分けて、どの段階の値を今計算しているかを毎回確認する。

参考文献・出典

理解度チェック(7問)

このトピックの内容がどれくらい身についたか、7問で確認しよう。 内訳は基本3問・応用2問・ひっかけ2問。基本が解けたら、条件を足した応用と、本番で足をすくいにくるひっかけまで踏み込む。

/ 7 問正解

覚えておきたいポイント

  1. 有効電力 P = VIcosφ〔W〕。実際に仕事(発熱・回転など)に使われる電力
  2. 皮相電力 S = VI〔VA〕。電源が実際に供給しなければならない電力の見かけ上の大きさ
  3. 無効電力 Q = VIsinφ〔var〕。コイルやコンデンサとのあいだを行き来するだけで、仕事をしない電力
  4. 力率 cosφ = P/S = R/Z。1に近いほど、電気を無駄なく使えている
  5. S・P・Qは直角三角形の関係(電力の三角形)にあり、S² = P² + Q² が成り立つ
  6. 力率改善用コンデンサが供給する無効電力はQc=ωCV²(Vは電源電圧、ωは角周波数)。力率を1にするには、コンデンサの無効電力Qcを負荷の無効電力QL(=Ptanφ)にちょうど一致させればよく、必要な静電容量はC=QL/(ωV²)で求まる
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