築40年超のビルで古い分電盤を更新する工事を請けた電気工事店が、着工直前になって「この盤、事前調査は済んでいますか」と施主から聞かれて言葉に詰まる——2026年以降、こうした場面が増えることになる。これまで「石綿の事前調査」は建築物の解体・改修が主な対象で、電気設備の更新工事は関係ないと思われがちだった。しかし2026年1月からは、キュービクルや配電盤のような「工作物」も対象に含まれる可能性があり、盤を開けて中の絶縁板に触れる前に、対象該当性の確認が必要になる工事が出てくる。
何が変わったのか
石綿(アスベスト)を含む建材は、劣化・破損時に有害な繊維が飛散するおそれがあることから、解体・改修工事における事前調査と報告が法令で義務付けられています。この規制は近年段階的に強化されており、電気工事に関わる事業者が押さえておくべき変遷は次のとおりです。
- 2022年4月1日〜:建築物の解体・改修工事を行う元請け事業者に、石綿含有の有無に関する事前調査結果の報告義務(大気汚染防止法に基づく)
- 2023年10月1日〜:建築物石綿含有建材調査者等の有資格者による事前調査の実施義務化(改正石綿障害予防規則・大気汚染防止法)
- 2026年1月1日〜:プラント設備・煙突・配管・電気設備・貯蔵設備等の「工作物」にも対象が拡大。有資格者(工作物石綿事前調査者)による事前調査が必要に
これまで主に「建築物」が対象とされてきましたが、2026年からは電気設備を含む「工作物」の解体・改修工事にも、有資格者による事前調査が求められる点が最大の変更点です。
なぜ電気工事の現場に関係するのか
古い建物・プラント設備の改修に伴う電気工事では、キュービクルや変電設備の解体、配管・ダクトの撤去、盤の更新などが発生します。これらの工作物には、断熱材・保温材・パッキン等に石綿含有建材が使用されているケースがあり、2026年1月以降はこうした工事の着工前に、有資格者による事前調査が必要になる場合があります。
「電気設備の更新工事だから対象外」と考えず、解体・改修を伴う工事であれば、着工前に対象該当性を確認する運用が必要です。
一段深い理解——なぜ電気設備に石綿が使われていたのか
「電気設備の更新工事」がなぜ石綿と結びつくのか、ピンと来ない担当者も多い。背景には、石綿が持つ「燃えにくく・電気を通しにくい」という2つの性質が、かつての電気設備部材にとって都合が良かったという事情がある。
- 配電盤・分電盤の絶縁板:独立行政法人環境再生保全機構(ERCA)の資料では、石綿紙が電気絶縁材として、耐熱・電気絶縁板が配電盤等に使用されていた用途として挙げられている。古いキュービクルや配電盤の内部・背面にある絶縁ボードが該当しうる。
- ケイ酸カルシウム板などの背面ボード:盤を壁に取り付ける際の耐火下地(けい酸カルシウム板等)に石綿含有建材が使われていた時期がある。盤そのものではなく、盤を支える背面パネル・床面が対象になるケースもある。
- パッキン・ガスケット類:盤の扉やケーブル貫通部のパッキンには、ゴムと石綿を主原料とするジョイントシート(石綿含有量65%以上とされるものもあった)が使われていた例がある。ここは2012年3月に製造・使用が全面禁止されるまで、限定用途で使用が続いていた時期がある点に注意したい。
- 時期の目安:吹付け石綿は1956年頃〜1975年頃に鉄骨耐火被覆・吸音目的で多用され、その後も含有建材の使用は段階的に規制されていった。目安として1980年以前に設置された設備は、石綿含有部材が使われている可能性を疑ってかかるのが実務上の安全側の判断になる。
現場で見落としやすいポイントは、「盤そのもの」だけでなく「盤の周辺(背面ボード・貫通部のパテ・パッキン)」まで含めて確認対象になることだ。盤を新品に交換するだけの工事だと考えていても、既設盤を撤去する時点で背面のボードや配管貫通部のシール材に触れることになり、そこが事前調査の対象に含まれる可能性がある。「電気設備の更新だから対象外」という自己判断が最も危険な思い込みになる。
実務上の注意点
- 古い設備(特に石綿使用が一般的だった時期に設置された設備)の解体・改修を受注する際は、着工前に事前調査の要否を確認する
- 調査は有資格者(工作物石綿事前調査者等)が行う必要があり、無資格での自己判断は避ける
- 調査結果の報告義務(労働基準監督署・地方公共団体等)の有無も、案件ごとに確認する
- 元請け・下請けの役割分担(誰が調査・報告義務を負うか)を契約時に明確にしておく
法令の詳細な適用範囲や罰則、報告手続きは改正が続いている分野のため、個別の工事については労働基準監督署・地方公共団体、または石綿事前調査の専門資格者に最新情報をご確認ください。
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