冒頭の場面・会話は、内容の理解を助けるための例示です。特定の現場・企業・案件を指すものではありません。
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「鉄骨造のビルなんだから、鉄骨にアース線を繋いでおけば接地は万全だろう」――現場でこう考えたことのある技術者は少なくないはずだ。実際、電気設備の技術基準の解釈 第18条は、建物の鉄骨など工作物の金属体を接地極として利用すること自体は認めている。しかし条文をよく読むと、これは「繋げば自動的にOK」という話ではない。求められているのは、建物の鉄骨または鉄筋コンクリートの一部を地中に埋設すること、そして系統間の電位差を防ぐ等電位ボンディングという、もう一段階踏み込んだ要件だ。なお現場でよく引かれる「2Ω以下」は、同じ第18条でも第2項の条件であって、第1項の共用接地極にはかからない。
鉄筋コンクリート造の建物では、柱や梁の鉄筋同士が図面上はつながっていても、施工上の接続不備で電気的な導通が確保されていないことがある。「鉄骨だから低抵抗のはず」という思い込みだけで済ませてしまうと、実測すればD種・B種いずれの基準も満たしていなかった、という事態になりかねない。この記事では、接地工事の基本区分(D種・B種)から、鉄骨を共用接地極として使う際の実務上の注意点、そして落雷時に弱電機器を守る等電位ボンディング、地絡電流の大きな設備で検討する接触電圧・歩幅電圧までを整理する。
この記事でわかること
- 電技解釈第18条が求める「鉄骨を接地極として使う条件」(第1項=地中埋設と等電位ボンディング/第2項=2Ω以下は非接地式高圧電路のA種・B種に限る)
- D種接地工事(原則100Ω以下)とB種接地工事(混触防止)の適用対象と抵抗値の根拠
- 等電位ボンディングが落雷時の弱電機器保護になぜ必要なのか
- 地絡電流の大きな設備で検討する接触電圧・歩幅電圧という安全指標の考え方
「鉄骨に繋げば安全」という思い込みの落とし穴
電技解釈第18条は、建物の鉄骨・鉄筋コンクリート造の鉄筋のような「工作物の金属体」を、接地工事の接地極として利用してよいと定めている。新しく接地棒を打設しなくても既存の建築構造体を活用できるという実務上のメリットがあるが、条文は2つの項に分かれていて、要求している内容がまったく違う。ここを混ぜて覚えている人が多い。
第1項——共用の接地極として使う場合
鉄骨等を第17条第1項〜第4項の接地工事(A種・B種・C種・D種)その他の接地工事に係る「共用の接地極」に使う場合、条文が求めるのは次の2点だ。
- 建物の鉄骨または鉄筋コンクリートの一部を地中に埋設すること
- 等電位ボンディング(導電性部分間に発生する電位差を軽減するために施す電気的接続)を施すこと
さらにA種・B種の接地極としても使う場合は、1線地絡電流が流れたときに構造物の導電性部分間・機器の金属製部分間・建物の金属製部分と大地との間に50Vを超える接触電圧が発生しないように施設することが加わる(第一号〜第三号)。接触電圧の推定に使う接地抵抗値は、実測値または「病院電気設備の安全基準」の規定によるとされている(第四号)。
そして条文はこう明記している——「なお、これらの場合において、鉄骨等は、接地抵抗値によらず、共用の接地極として使用することができる。」
つまり共用の接地極として使うこと自体には、2Ω以下という接地抵抗値の要件はない。
第2項——2Ωが出てくるのはこちら
一方、第2項は「大地との間の電気抵抗値が2Ω以下の値を保っている建物の鉄骨その他の金属体は、これを次の各号に掲げる接地工事の接地極に使用することができる」と定め、対象を2つに限っている。
- 非接地式高圧電路に施設する機械器具等に施すA種接地工事
- 非接地式高圧電路と低圧電路を結合する変圧器に施すB種接地工事
現場でよく聞く「鉄骨を接地極にするなら2Ω以下を実測しないといけない」という言い方は、この第2項の条件を第1項にも当てはめてしまったものだ。低圧機器のD種接地を鉄骨に取る話に2Ωを持ち込むのは、条文の読み違いになる。
では第1項なら何もしなくていいのか
そうではない。接地抵抗値によらないぶん、成立の根拠は地中埋設と等電位ボンディングに移っている。特に注意すべきは鉄筋コンクリート造で、柱・梁の配筋が設計図上は一体でも、施工段階での結束・溶接が不十分だと電気的な導通が確保されていない箇所が生じうる。「鉄骨に繋いだ」という接続の事実だけでは、等電位ボンディングが成立している証明にはならない。確認すべきは抵抗値そのものではなく、金属体どうしが電気的に確実につながっているかどうかだ。
D種接地工事——300V以下の機器に最も広く適用される区分
D種接地工事は300V以下の低圧機器の金属製外箱等に適用される、現場で最も頻繁に登場する接地区分だ(電技解釈第29条)。原則の接地抵抗値は100Ω以下(同第17条第4項)。これは漏電が発生した際に、人体が触れる金属部分の電位(接触電圧)を安全な範囲に抑えるための数値で、接地抵抗が低いほど地絡電流が大地へ逃げやすくなり、人体への電圧分担が小さくなる。
地絡発生から0.5秒以内に自動遮断する漏電遮断器を設置している場合は、500Ω以下まで緩和される。条文が求めているのは遮断時間の条件だけで、遮断器の感度電流までは指定していない点は、実務でも見落とされがちなポイントだ。
B種接地工事——高低圧混触事故から低圧側を守る
B種接地工事は、変圧器の高圧側と低圧側が混触した際に、低圧電路の対地電圧が異常上昇するのを抑えるために施す接地で、変圧器の低圧側中性点(使用電圧300V以下で中性点に施し難いときは低圧側の1端子)に施工する(電技解釈第24条)。
抵抗値は電技解釈第17条第2項の17-1表により、原則「150 ÷ 高圧側1線地絡電流I〔A〕」で計算する。自動遮断装置が地絡発生後1秒を超え2秒以内に動作する場合は「300 ÷ I」、1秒以内に動作する場合は「600 ÷ I」まで緩和される。分母の1線地絡電流は系統ごとに異なるため、B種の抵抗値は現場ごとに個別計算が必要になる点がD種との大きな違いだ。
等電位ボンディング——落雷が弱電機器を壊す仕組みと対策
建物内に受電用アース・鉄骨アース・避雷針アースといった複数の独立した接地系統が存在する場合、落雷時にはそれぞれの接地点で電位が個別に跳ね上がる。電位は接地抵抗と雷電流の掛け算で決まるため、系統ごとに抵抗値がわずかでも異なれば、瞬間的な電位差が生じる。この電位差を解消しようとする過渡電流が、系統間をまたぐ弱電・通信ケーブルを経由して流れ込み、サーバーやネットワーク機器を破壊する――これが「雷で離れた場所の弱電機器まで壊れる」現象の主な原因だ。
対策となるのが等電位ボンディングで、すべての金属体・接地極を電気的に接続し、系統間の電位差そのものをなくしてしまう考え方だ。電技解釈第18条が工作物の金属体を共用接地とする際にこの措置を要件としているのも、同じ理屈による。SPD(サージ防護デバイス)の設置と接地の等電位化は、片方だけでは効果が限定的で、両方が揃って初めて弱電設備を保護できる。
接触電圧・歩幅電圧——接地設計で問われる安全指標
地絡電流の大きな受変電設備では、A種接地工事の規定抵抗値を満たしても感電の問題が解決したとは言い切れない。接地電位の上昇による感電が予見される設備で検討対象になるのが、接触電圧と歩幅電圧だ(日本地工の解説)。
- 接触電圧(Touch Voltage): 接地された構造物に人が触れた際に手と足の間に生じる電位差。IEEEの定義では、構造物と1m離れた大地面との電位差
- 歩幅電圧(Step Voltage): 接地極付近の大地面で両足の間に生じる電位差。IEEEの定義では、1m離れた2点間の電位差
地絡や雷撃で接地系統の電位が上昇したとき、この電位差が大きいと、構造物に触れた人や近くを歩いている人が感電する危険がある。こうした設備の接地設計では、接地抵抗値だけでなく接触電圧・歩幅電圧も検討して接地極の配置を決める。
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