ある工場に、電動機やヒーターなど、定格容量を単純に合計すると500kWにもなる設備が並んでいる。 だが、実際にこの工場が契約している電力は300kWしかない。契約電力を超えたら大問題のはずなのに、 なぜこの工場は何事もなく動き続けていられるのか。
答えの手がかりは「すべての機器が同時にフル稼働することは、実務上ほとんどない」という一点にある。 この「同時には使わない」という事実を、どうやって数値として容量設計に織り込むのか。
このトピックを読み終えるころには、工場や受変電設備の容量が、なぜ単純な足し算より 小さく設計されているかを、需要率・不等率という2つの数字で説明できるようになっている。
種明かしは、電気施設管理で使う3つの指標——需要率・不等率・負荷率——にある。 どれも「実際の使われ方は、カタログスペックより小さく・ムラがある」ことを数値化したものだ。
需要率 — 設備容量のうち、実際にどれだけ使われているか
需要率は、設備容量に対して、実際の最大需要電力がどれだけの割合かを示す。
工場に設置された機器の定格容量をすべて合計したものが「設備容量」だが、実際にすべての機器が 同時にフル稼働することは考えにくい。だから最大需要電力は、たいてい設備容量より小さくなる。 需要率はこの「割引率」を数値で表したものだ。
例題
設備容量120kW、需要率75%の需要家がある。最大需要電力はいくらか。
不等率 — 複数の需要のピークは、めったに重ならない
1つの需要家(または設備群)の中の話が需要率なら、不等率は複数の需要家(設備群)をまとめたときの話だ。
A社の電力使用のピークと、B社のピークは、同じ時刻に重なるとは限らない。むしろズレるのが普通だ。 だから複数の需要家をまとめた「合成最大需要電力」は、個々の最大需要電力を単純に足し合わせた値より 小さくなる。この差を表すのが不等率で、通常1以上の値になる。値が大きいほど、各需要家のピークが 分散していることを意味する。
例題
最大需要電力80kWのA社、60kWのB社があり、2社をまとめた合成最大需要電力が112kWだった。不等率はいくらか。
負荷率 — 設備は「ムラなく」使われているか
需要率・不等率が「容量に対する割引」を扱うのに対し、負荷率は時間の中での需要の変動を扱う。
一日のうちピーク時しか電力を使わない需要家より、昼夜を通じて満遍なく電力を使う需要家の方が、 設備を効率よく使えている。負荷率はこの「稼働のムラのなさ」を表す指標で、値が高いほど良い。
例題
平均需要電力40kW、最大需要電力80kWの需要家の負荷率はいくらか。
電圧降下 — 配電線路の「抵抗とリアクタンス」から電圧の目減りを計算する
需要率・不等率・負荷率が「どれだけの電力を使うか」を扱う指標だったのに対し、電圧降下は「その電力を送るとき、線路のどこでどれだけ電圧が目減りするか」を扱う、また別の計算だ。変電所や配電用変電所から需要家まで電気を送る配電線路には、電線自体の抵抗Rとリアクタンス(誘導性のインピーダンス成分)Xがあり、電流が流れるとこの2つの成分でそれぞれ電圧が消費される。
三相3線式配電線路の電圧降下ΔVは、線路1条あたりの抵抗R・リアクタンスX、負荷電流I、力率cosθ(遅れ)を使って、次の近似式で概算できる。
例題
三相3線式配電線路(電線1条あたり抵抗2Ω、リアクタンス3Ω)で、負荷電流40A、力率0.8(遅れ、sinθ=0.6)のときの電圧降下を求める。
力率改善は、電圧降下も小さくする
高圧受電設備にコンデンサ(進相コンデンサ)を設置して力率を改善する目的は、力率そのものを良くすることだけではない。同じ有効電力を送るのに必要な線路電流Iは、力率が改善するほど小さくなる。電圧降下の式ΔV=√3×I×(Rcosθ+Xsinθ)において、電流Iが減ることに加え、sinθも小さくなるためリアクタンス分(Xsinθ)の寄与も縮み、電圧降下は小さくなる方向に働く。
最大需要電力(デマンド)は「瞬間値」ではなく「30分間の平均」
需要率・不等率・負荷率の式にはいずれも「最大需要電力」という言葉が登場した。ここまでは、この値をあらかじめ与えられた数値として扱ってきたが、実務でこの値がどう決まるかを知っておくと、電力管理の現場で起きていることの見え方が変わる。
「最大需要電力」と聞くと、グラフの一番高い一瞬のピーク値を思い浮かべやすい。だが実務上のデマンド管理でいう最大需要電力は、そうではない。正時(0分・30分)から30分間の平均使用電力のうち、最大のものを指す。
例題 — 後半をどこまで絞れば間に合うか
ある工場が、正時からの30分間平均使用電力を250kW未満に抑える運用をしている。9時00分から9時15分までの15分間、使用電力は260kWで推移した。このまま何もしなければ、9時00分からの30分間平均が250kWを超えてしまう。9時15分から9時30分までの15分間、使用電力をいくらまで抑えれば、30分間平均を250kW未満に収められるか。
9時15分以降の使用電力を240kW未満まで引き下げれば、30分間平均は目標を下回る。この工場では、換気用の冷却ファン(1台あたり4kW)を最大6台まで停止できる運用にしていたとすると、260kWから240kW未満まで下げるには20kWを超える削減が必要になる。ファン5台の停止では20kWちょうどの削減にとどまり、ぎりぎり足りない(260-20=240kWは「240kW未満」を満たさない)。6台停止(24kW削減)で236kWまで下げて、初めて条件を満たす。
需要率・不等率が「容量設計の入口」で使う指標だったのに対し、この30分間デマンド管理は「日々の運用」で効いてくる考え方だ。契約電力を超えそうになったとき、どの負荷を、いつ、どれだけ絞れば間に合うかを判断する場面は、電力会社との契約電力の管理を任されている需要家では日常的に発生する。
需要側から需給バランスを調整する — ディマンドリスポンスとネガワット取引
ここまで見てきた需要率・不等率・負荷率・30分間デマンドは、いずれも「決まった需要のパターンを、どう数値化して容量設計や運用に活かすか」という話だった。だが電力システム全体で見ると、需要のパターン自体を意図的に変化させることで、需給バランスそのものを調整するという、もう1つのアプローチがある。
電力システムでは、需要と供給の間に不均衡が生じると周波数が変動する。これを防ぐには、需要と供給の均衡を常に確保しなければならない。従来、この調整は主に供給側(発電)を需要にあわせて動かすことで行われてきたが、近年はスマートメーター等の普及もあり、需要側の状況に応じて電力の使用パターンを変化させる取組みの重要性が強く認識されるようになっている。これがディマンドリスポンス(デマンドレスポンス)だ。
この取組みの中で実務上重要になるのがアグリゲーターの存在だ。個々の需要家が単独で電気事業者と調整力の取引をするのは現実的ではないため、複数の需要家を束ねて、まとまった削減量・容量として電気事業者と取引する事業者(アグリゲーター)が間に入る。電気事業者(小売電気事業者や系統運用者)とアグリゲーターの間の契約、アグリゲーターと需要家の間の契約という、二段階の契約構造で成り立っている。
ネガワット取引 — 「削減した電力」を取引する
アグリゲーターが需要家との契約に基づき、電力の削減の量や容量を電気事業者と取引する仕組みは、いわゆるネガワット取引と呼ばれる。「発電した電力(ワット)」を売るのではなく、「使わなかった電力(ネガワット)」を、あたかも発電したのと同じ価値のあるものとして取引する、という発想の転換がこの名称に表れている。
要請による削減量に応じて、需要家がアグリゲーターを介して電気事業者から報酬を得る、というのが対価の流れになる。需要家から見れば、電力使用量を我慢して減らすだけでなく、その削減という行為そのものが経済的な価値を持つようになる、と捉えると理解しやすい。
太陽光発電の普及で出力が天候に左右されやすくなった電力システムでは、需要側を柔軟に動かせる仕組みの価値が今後さらに高まっていく。制御盤・受変電設備の更新提案でも、単純な省エネだけでなく、こうした需要側の調整力そのものが顧客にとっての新しい価値になりうる、という視点を持っておくと提案の幅が広がる。
自家用発電所の需給計算 — 発電と消費の大小関係が、時間帯ごとに入れ替わる
ここまで見てきた需要率・不等率・負荷率・デマンド管理は、いずれも「需要側(電気を使う側)」の数字だけを扱ってきた。だが自家用の発電設備を持ち、電力系統と常時系統連系している工場では、需要(消費電力)と供給(発電電力)の両方の推移を突き合わせて、電力系統との間で電気を「送る(逆潮流)」時間帯と「受ける」時間帯を見分ける計算が出てくる。
考え方はシンプルだ。ある時刻において、
- 発電電力 > 消費電力 の時間帯は、超過分が電力系統への送電(逆潮流)に回る
- 消費電力 > 発電電力 の時間帯は、不足分を電力系統からの受電でまかなう
1日のうちで、この大小関係は一定ではなく、時間帯によって入れ替わることが多い。ある時間帯の電力量[kWh]は、その時間帯の電力[kW]に継続時間[h]を掛けて求め、1日の送電電力量・受電電力量は、それぞれの向きが生じている時間帯の電力量を積み上げて合計する。
例題
自家用発電所を持ち、電力系統と常時系統連系している工場がある。ある日の消費電力は0時〜8時が300kW一定、8時〜16時が900kW一定、16時〜24時が300kW一定で推移した。同じ日の発電電力は0時〜6時が100kW一定、6時〜20時が600kW一定、20時〜24時が100kW一定で推移した(所内電力は無視できるものとする)。
消費電力・発電電力それぞれの区切り(6時・8時・16時・20時)をすべて合わせた時間帯ごとに、大小関係を比べる。
| 時間帯 | 消費電力 | 発電電力 | 大小関係 | 電力量 |
|---|---|---|---|---|
| 0〜6時(6h) | 300kW | 100kW | 消費>発電 | 受電 200kW×6h=1,200kWh |
| 6〜8時(2h) | 300kW | 600kW | 発電>消費 | 送電 300kW×2h=600kWh |
| 8〜16時(8h) | 900kW | 600kW | 消費>発電 | 受電 300kW×8h=2,400kWh |
| 16〜20時(4h) | 300kW | 600kW | 発電>消費 | 送電 300kW×4h=1,200kWh |
| 20〜24時(4h) | 300kW | 100kW | 消費>発電 | 受電 200kW×4h=800kWh |
送電電力量の合計は600+1,200=1,800kWh(1.8MWh)、受電電力量の合計は1,200+2,400+800=4,400kWh(4.4MWh)になる。
この日、発電所が発電した電力量のうち、工場内で消費された(自家消費された)電力量の比率も求めてみる。1日の総発電電力量は、0〜6時(600kWh)・6〜20時(600kW×14h=8,400kWh)・20〜24時(400kWh)の合計で9,400kWh(9.4MWh)。このうち送電に回った1.8MWhを差し引いた残りが、工場内で消費された電力量になる。
制御盤・受変電設備の容量設計にどうつながるか
これら3つの指標は、単独では出題対象の計算問題にすぎないが、実務では変圧器容量や配電盤の ブレーカー容量を決めるときの出発点になる。設備容量をそのまま足し合わせて機器を選ぶと、 実際にはまず起こらない「全負荷同時使用」を前提にした、無駄に大きく高価な設備になってしまう。 需要率で個々の需要家(設備群)の実態を絞り込み、不等率で複数の需要をまとめたときのピークのズレを 織り込む——この2段階の計算が、電材を扱う実務で変圧器の更新提案をする際の容量算定の土台になる。
冒頭で挙げた「定格容量500kW、契約電力300kW」という工場の謎——答え合わせは 理解度チェックの最後の問題でしてみよう。