制御盤の中に、インバータユニットが1台入っている。三相交流の電源をいったん取り込み、 中でモータの回転速度に合わせて周波数を自在に変えた交流を作り出して、また吐き出している。
半導体のスイッチは、ONかOFFかの2つの状態しか持たない。電圧の大きさを連続的に変える つまみも、周波数を作り出す発振器も、部品としては存在しない。それなのに、なぜON/OFFの 組み合わせだけで、直流の電圧も交流の周波数も思い通りに作り出せるのか。
このトピックを読み終えるころには、制御盤のインバータユニットを見て、 中の半導体スイッチが何をしているかを、ON/OFFの比率という1つの発想で説明できるようになっている。
種明かしは、スイッチを高速でON/OFFする「時間の比率」を変えれば、平均値としての電圧を 自在に作れるという発想にある。パワーエレクトロニクスは、この発想を土台に、直流を直流のまま 変換する「チョッパ」と、直流を交流に変換する「インバータ」を組み立てている。
チョッパ — スイッチのON時間比率で、直流電圧を作り変える
チョッパは直流を直流のまま、電圧の大きさだけを変える回路だ。スイッチを1周期 のうち の時間だけONにする。この比率をデューティ比 と呼ぶ。
降圧チョッパ — 出力は必ず入力以下
降圧チョッパの出力平均電圧 は、入力電圧 にデューティ比をそのままかけた値になる。
例題
入力電圧100V、デューティ比α=0.3の降圧チョッパの出力電圧は何Vか。
昇圧チョッパ — 出力は必ず入力以上
回路の構成を変えると、逆に出力を入力より高くする昇圧チョッパも作れる。このときの式は 分母の形が降圧チョッパと違う。
例題
入力電圧24V、デューティ比α=0.4の昇圧チョッパの出力電圧は何Vか。
インバータ — 直流を交流に変え、周波数まで作り出す
インバータは直流を交流に変換する装置だ。スイッチを一定周期でON/OFFさせるだけのチョッパと 違い、インバータはスイッチの切り替えパターンそのものを周期的に反転させ、疑似的な正弦波の 交流を作り出す。実際の汎用インバータでは、ON/OFFのパルス幅を細かく変化させるPWM (パルス幅変調)という方式で、より滑らかな正弦波に近い波形を作っている。
インバータが作り出せるのは電圧の大きさだけでなく、周波数そのものだ。この性質が、 誘導電動機の回転速度を自在に変える「VVVF制御(可変電圧可変周波数制御)」の土台になっている。
変換の方向で名前が決まる — 整流器・チョッパ・インバータの整理
パワーエレクトロニクスの変換装置は、入力と出力が交流か直流かの組み合わせで呼び名が決まる。
- 交流 → 直流:整流器(コンバータ)
- 直流 → 直流:チョッパ
- 直流 → 交流:インバータ
- 交流 → 交流:サイクロコンバータ(周波数変換)、または交流電力調整装置(電圧のみ調整)
交流→交流の変換 — 電圧だけ変えるか、周波数まで変えるか
交流→交流の変換には、実は目的の違う2つの装置がある。
- 交流電力調整装置:入力と同じ周波数のまま、出力の交流電圧(実効値)だけを 調整する装置。サイリスタを使い、電源電圧が0を通過するたびに、ある点弧角(制御角)の タイミングでゲート信号を送って導通を開始させる位相制御によって、実効値を無段階に 変えられる。誘導電動機のソフトスタータ(始動時に電圧を絞って始動電流を抑える)や、 白熱電球の調光器などに使われる。
- サイクロコンバータ:入力の交流を、いったん直流を経由せずに別の周波数の交流へ 直接変換する装置。大容量・低速の同期電動機や誘導電動機の速度制御などに使われる。
例題(自作の数値例)
三相誘導電動機の始動時、直入れ始動では過大な始動電流が流れてしまうため、始動の 数秒間だけ電圧を絞って始動電流を抑えたい(ソフトスタータ)。周波数は変えずに電圧 だけを絞りたいこの用途に適した装置はどれか——答えは「交流電力調整装置」だ。 サイクロコンバータは周波数まで変えてしまうため、この用途にはむしろ過剰な変換になる。
太陽光発電用パワーコンディショナ — チョッパとインバータの合わせ技
太陽光発電設備で太陽電池とセットになっているパワーコンディショナ(PCS)は、 ここまで見てきたチョッパとインバータを組み合わせた、実務でもっとも身近な変換装置の1つだ。
その前に、太陽電池そのものの構成を押さえておきたい。太陽光発電で最小の発電単位となる 1枚のシリコン結晶などが太陽電池セルだ。セル1枚が出せる電圧はごくわずかなので、 これを複数枚直列に接続して1枚のパネル状にまとめたものが太陽電池モジュール (一般に「ソーラーパネル」と呼ばれているのはこれにあたる)、モジュールをさらに 直列・並列に接続して必要な電圧・電流・出力に積み上げたものが太陽電池アレイになる。 セル→モジュール→アレイという順に、小さな単位を組み合わせて大きな単位を作っていく 構成だと覚えておく。
太陽電池が出す直流電圧は、日射量や温度によって絶えず変動し、しかも1枚のパネル・ストリング あたりの電圧は系統連系に必要な直流母線電圧より低いことが多い。PCSはまず昇圧チョッパ (DC/DCコンバータ)でこの変動する直流電圧を必要な高さまで引き上げ、その先のインバータで 電力系統に合わせた交流に変換する、という2段構成が基本になる。チョッパとインバータの間には 平滑用のキャパシタが入り、容量が大きいほどチョッパの出力電圧リプル(脈動)は小さくなる。
太陽電池には、電圧と電流の積(出力電力)が最大になる動作点が1つだけ存在し、しかも その点は日射や温度が変わるたびに移動する。PCSはこの動作点を常に追いかけ、太陽電池から そのときどきの最大の電力を引き出す最大電力点追従制御(MPPT)を行っている。
インバータの出力側には、PWM制御と組み合わせた高調波抑制用のフィルタが接続され、 電力系統に流出する高調波電流を少なくしている。さらに、系統側やPCS内部に異常が 発生した際にPCSの出力を遮断する系統連系保護装置も欠かせない要素だ。
自立運転と単独運転 — 似た言葉だが正反対の意味を持つ
PCSまわりの用語には、字面が似ているのに意味がまったく逆の2つの言葉が登場する。 自立運転と単独運転だ。
- 自立運転:停電時に、太陽光発電設備を系統から切り離し、非常用コンセントなど 限られた負荷にだけ電力を供給し続ける、意図的な運転モード。蓄電池付きのPCSなどに 搭載される、災害時に役立つ望ましい機能。
- 単独運転:配電線側で事故・停電が発生し、本来なら太陽光発電設備も系統から 切り離されるべき状況で、その切り離しが完了しないまま太陽光発電設備が配電線の 一部にだけ電力を送り続けてしまう、望ましくない異常状態。作業員の感電事故に つながる危険があるため、PCSは単独運転を検出したら速やかに出力を停止しなければならない。
PCSは単独運転を検出するために、電圧位相の急変・周波数の急変などを常時監視している。 ただし、配電線側で発生する瞬時電圧低下(雷などによる、ごく短時間の電圧低下)にまで 反応して太陽光発電設備を系統から切り離してしまうと、瞬時電圧低下のたびに発電が止まり、 系統にも太陽光発電設備側にも望ましくない。そのためPCSは、単独運転(の兆候)と瞬時電圧 低下を区別し、瞬時電圧低下に対しては不要な解列(系統からの切り離し)をしないよう対策 されている。
単相ブリッジ電圧形インバータ — スイッチの組合せで交流を作る
「インバータ — 直流を交流に変え、周波数まで作り出す」で見たPWM制御の元になっているのが、 4個の半導体スイッチ(IGBTなど)をブリッジ状に組んだ単相ブリッジ電圧形インバータだ。
直流電源の両端に、上下2個ずつ計4個のスイッチを配置し、出力端子はこの2組の 中点から取り出す。対角に位置する2個のスイッチ(例えば「左上と右下」のペア、 「右上と左下」のペア)を交互にON/OFFすると、出力にはとが交互に現れる 矩形波の交流電圧ができる。それぞれのスイッチには、逆方向に電流を流すための 逆並列ダイオードが並列に接続されている。
出力に誘導性負荷(コイルLと抵抗Rの直列)、たとえばモータの巻線をつなぐと、 電流の変化は電圧の反転にすぐには追いつかない。出力電圧がからへ切り替わった 直後も、それまで流れていた向きの電流はしばらく流れ続けようとする。このとき、 ゲート信号でONになっているスイッチ本体ではなく、その負荷電流の向きに合った 逆並列ダイオードの方が電流の通り道になる(電流がスイッチとダイオードのどちらを 流れるかは、電流の向きと出力電圧の向きが一致しているかどうかで決まる)。
RL回路の時定数 — 電流が変化する速さの目安
誘導性負荷(RL)に電圧を加えたとき、電流がどれくらいの速さで変化するかは 時定数で決まる。
時定数が大きいほど、電流はゆっくり変化する(コイルのインダクタンスLが大きいほど、 また抵抗Rが小さいほど、電流の変化は遅くなる)。
例題(自作の数値例)
電源電圧=200V、インダクタンス=5mH、抵抗=2Ωの誘導性負荷に電圧を加える。
この時定数が、単相ブリッジインバータの出力電圧が反転してから、負荷電流が 新しい向きに落ち着くまでのおおよその時間の目安になる。
負荷の速度‐トルク特性 — なぜ送風機・ポンプの速度制御は省エネになるのか
インバータでモータの回転数を変えるとき、「どんな負荷を駆動しているか」によって、 回転数を落としたときに得られる省エネルギー効果はまったく違ってくる。負荷の速度‐トルク 特性は、大きく2つのパターンに分けて理解できる。
- 定トルク負荷:エレベータ・巻上機のように、重力に逆らって物を持ち上げる鉛直方向の 移動体。持ち上げる物の重さで決まる力は、動かす速度が変わってもほとんど変化しないため、 トルクは速度によらずほぼ一定になる。
- 二乗低減トルク負荷:送風機・ポンプのように、空気や水などの流体を送り出す負荷。 流体を送り出すのに必要な力は、流速が上がるほど大きくなり、トルクは速度の2乗に 比例して変化する。
送風機・ポンプのような二乗低減トルク負荷では、回転数(速度)と、風量・圧力・所要動力の 間に、次の相似則が成り立つ。
トルクが速度の2乗に比例し()、動力は速度とトルクの積にほぼ比例するため (より)、所要動力は速度の3乗に比例して変化する。
例題(自作の数値例)
定格回転数で運転する送風機の所要動力が10kWだったとする。電動機の回転数を定格の80%まで 落として運転すると、
回転数をわずか20%落としただけで、所要動力はおよそ半分にまで下がる。これが、必要流量に 絞って運転する機会の多い送風機・ポンプ設備に、ダンパ制御ではなくインバータによる速度 制御を導入することで大きな省エネルギー効果が得られる理由である。
なぜ電材業界の実務でこれが効いてくるのか
工場や設備の制御盤には、モータの速度をきめ細かく制御するためのインバータ盤が数多く 組み込まれている。電材商社としてインバータ盤や周辺機器を取り扱う場面では、「なぜこの 機器は周波数だけでなく電圧の設定値も一緒に変わるのか」「デューティ比を変えるだけで なぜ直流電圧が変わるのか」という問い合わせに、原理から答えられるかどうかが信頼に直結する。 チョッパとインバータの発想は、直流電源ユニットの出力調整からモータ制御盤の心臓部まで、 現場のあらゆるところで働いている。
冒頭のインバータユニットの中で何が起きていたか、答え合わせは理解度チェックの最後の問題で してみよう。