制御盤のリレーや電磁接触器のコイルの回路を開いたとき、接点の間にパチッと小さな火花が飛ぶのを 見たことがあるかもしれない。コイルの定格電圧はせいぜい24Vや100V程度なのに、その何倍、 何十倍もの電圧がその一瞬だけ発生しているとしたら——電流を切っただけの、あの一瞬に何が起きているのか。
このトピックを読み終えるころには、コイルを含む回路を開いたときになぜ高電圧が発生するのか、 その仕組みを式で説明できるようになっている。
種明かしは、前のトピックで見た「磁界が電流を生む」の逆方向の関係にある。 コイルを貫く磁束が変化すると、その変化を打ち消そうとして電圧(起電力)が生まれる。 これが電磁誘導であり、変圧器も発電機も、そしてリレーコイルの誘導サージも、すべて同じ1つの 法則から生まれている。
ファラデーの法則 — 磁束の「変化率」が電圧になる
コイルを貫く磁束 [Wb]が時間とともに変化すると、コイルには誘導起電力 [V]が生じる。
は巻数。マイナス符号は、あとで見るレンツの法則(変化を妨げる向きに生じる)を表している。 大きさだけを考える場合は、次の式で計算すればよい。
重要なのは、磁束の大きさではなく「変化率」に比例するという点だ。どんなに大きな磁束でも、 時間的に変化していなければ誘導起電力は生まれない。
例題
巻数100回のコイルを貫く磁束が、0.02秒間に0.5Wbから0.3Wbまで変化した。コイルに生じる誘導起電力の大きさは何Vか。
レンツの法則 — 変化を「妨げる」向きに生じる理由
誘導起電力の向きは、磁束の変化を妨げる向きに生じる。これをレンツの法則と呼ぶ。 なぜわざわざ「妨げる」向きでなければならないのか。もし逆に「変化を助ける」向きに起電力が生じたら、 磁束の変化はどんどん加速し、外部からエネルギーを与えなくても電流が増え続けることになってしまう。 それはエネルギー保存則に反する。レンツの法則は、電磁誘導がエネルギー保存則と矛盾しないための 必然的な帰結でもある。
発電機のように、コイルを磁界の中で動かして起電力を作る場合は、フレミングの右手の法則 (親指=運動の向き、人差し指=磁界、中指=誘導起電力の向き)で向きを求められる。前のトピックで 扱ったフレミングの左手の法則(モーターの力の向き)とは指の役割が入れ替わっている点に注意したい。 「左手はモーター、右手は発電機」という対応を先に固定しておくと取り違えを防げる。
運動起電力 — 磁界の中を「動く」ことで生まれる電圧
ファラデーの法則 は「磁束の変化」という抽象的な量から出発したが、 発電機のように導体そのものが磁界の中を動く場合は、もっと具体的な形の式で書き直せる。
磁束密度 [T]の一様な磁界の中に、長さ [m]の直線導体を置き、速さ [m/s]で動かすと、 導体に生じる誘導起電力(運動起電力)は次の式で求まる。
は速度ベクトルと磁界の向きがなす角だ。多くの出題では、導体自身は常に磁界と 直角(90°)の関係を保ったまま、その移動方向(速度)だけが磁界に対して斜めになる—— つまり「導体の向き」と「速度の向き」は別物であり、は後者にだけ関わる角度だという 点に注意したい。速度が磁界と直角()のときは とシンプルになり、 これは面積の変化率からファラデーの法則を導いた形と一致する。
例題
磁束密度0.5Tの一様な磁界中に、長さ0.4mの直線導体を磁界と直角に置いた。この導体が 磁界との直角の関係を保ったまま、磁界に対して30°の角度をなす方向に2m/sの速さで 移動しているとき、導体に生じる運動起電力の大きさは何Vか。
自己インダクタンス — コイル自身が「電流の変化を嫌う」性質
コイルに流れる電流そのものが変化すると、その電流が作る磁束も変化するため、コイル自身にも 誘導起電力が生じる。これを自己誘導といい、その大きさを表す定数が自己インダクタンス [H](ヘンリー)だ。
電流が急に変化しようとするほど、それを妨げる向きに大きな起電力が生じる。コイルには 「電流の変化を嫌う」性質がある、と言い換えてもいい。
例題
自己インダクタンス0.2Hのコイルに流れる電流が、0.1秒間に5Aから3Aまで減少した。コイルに生じる誘導起電力の大きさは何Vか。
コイルにはさらに、電流に応じたエネルギーが蓄えられている。
磁束鎖交数と自己インダクタンス — 静的な関係式 NΦ=LI
ここまでの (ファラデーの法則)と (自己 インダクタンス)は、どちらも「変化率」を扱う動的な式だった。この2つの式をつなぐ、 変化を含まない静的な関係式もある。
は磁束鎖交数と呼ばれ、コイルの巻数と、そのコイルを貫く磁束の積で 表される量だ(1巻きあたりの磁束が、回分だけ鎖のように絡みついている、と イメージするとよい)。この式は、電流によってコイルの内部に作られる磁束鎖交数が、 自己インダクタンスと電流の積に等しいことを表している。
コイルの巻数と、電流が作る磁束さえ分かれば、この式から自己インダクタンスを 求めることができる。
例題
巻数200回のコイルに電流2Aを流したところ、コイル内に Wbの磁束が生じた。 このコイルの自己インダクタンスはいくらか。
なぜリレーコイルを切ると高電圧が出るのか
自己誘導の式 をよく見てほしい。分母の (電流が変化するのにかかった時間)が 小さいほど、は大きくなる。リレーや電磁接触器の接点を開くという操作は、それまで流れていた 電流の経路を物理的に断ち切る行為であり、電流はごく短い時間でほぼ0まで落ちようとする。 つまり が極端に小さくなる。
自己インダクタンス0.4Hのリレーコイルに定常的に2Aの電流が流れている状態で接点を開き、 電流が0.5ミリ秒(0.0005秒)でほぼ0Aまで急減したとすると、
定格電圧が数十Vのコイルでも、開放の瞬間には1000Vを超える誘導サージが発生しうる。 これが、リレーや電磁接触器のコイルにサージ吸収用のダイオード(フリーホイールダイオード)や CR素子を並列に入れる実務上の理由だ。コイルを保護するだけでなく、隣接する半導体素子や 制御回路をこの高電圧から守るために必須の部品になっている。
なお、一次側のコイルの電流変化が離れた二次側のコイルに起電力を誘導する現象は相互誘導と呼ばれ、 (は相互インダクタンス)で表される。変圧器はこの相互誘導を利用して、 電圧を変換している。
結合係数k — 2つのコイルが「どれだけ結びついているか」を測る
相互インダクタンスは、2つのコイルがどれだけ強く磁気的に結びついているかを表す量だが、 の値そのものを直接測定するのは難しい。実務では、自己インダクタンスが既知の2つの コイルを直列に接続したときの合成インダクタンスから、を逆算する方法がよく使われる。
2つのコイル(自己インダクタンス・)を、それぞれが作る磁束が強め合う向き (和動接続)でつなぐと、合成インダクタンスは次のようになる。
もし磁気的な結合が一切なければで単純な足し算になるはずだが、実際の 測定値がそれより大きければ、その超過分()が2つのコイルの結合の強さを表している。 逆に磁束が弱め合う向き(差動接続)でつなげば、になる。
が求まったら、結合係数 を計算できる。
は2つのコイルの磁束が漏れなく完全に結びついている理想的な状態(理想変圧器に近い)、 は磁気的に無関係な状態を意味する。
例題
自己インダクタンス50mHのコイルAと20mHのコイルBを、磁束が強め合う向き(和動接続)で 直列に接続して測定したところ、合成インダクタンスは100mHであった。相互インダクタンスと 結合係数を求めよ。
冒頭のリレー接点で飛んだ火花の正体——答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。