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理論 ・ 6 / 16

磁界と電磁力(フレミングの世界)

読み終えると、こうなる

制御盤の中で電磁接触器(マグネットスイッチ)がなぜコイルに電流を流しただけで接点を吸引できるのか、力の発生原理から説明できるようになる

  • 直線電流の周りにできる磁界の強さを電流と距離から計算でき、磁界中の電流に働く力の大きさ・向きをフレミングの左手の法則で求められる。点磁荷どうしに働く力を電気のクーロンの法則と同じ形の式(磁気に関するクーロンの法則)で計算でき、円形コイルの中心軸上(中心から離れた点も含む)にできる磁界の大きさ・分布の形を説明できる
  • 平行に置かれた2本の電線に働く力の向き・大きさを判断でき、短絡電流時に電磁力が急増する理由を電流の2乗の関係から説明でき、強磁性体でまわりを囲むと磁束がその中を通りやすくなり内部の空間が外部磁界の影響をほとんど受けなくなる『磁気遮へい』の原理も説明できる
  • 一様な磁界中に置かれた電流ループ(コイル)にはたらく力を辺ごとに求め、磁界がループの面に平行な場合は各辺の力の合計はゼロでも偶力のモーメント(トルク)が生じることを説明でき、これが可動コイル形計器や直流モータの回転力の発生原理になっていることを理解できる
  • 積層鉄心を交流で磁化したときのヒステリシスループの面積が鉄損(ヒステリシス損)に相当することを説明でき、電源電圧一定で周波数が下がる・周波数一定で電圧が下がる・電流一定で周波数が変わるという3パターンでループの大きさがどう変化するかを区別でき、環状鉄心の巻数・電流から求めた磁界の強さHと測定された磁束密度Bから透磁率μ=B/Hを逆算できる。未着磁の強磁性体をH=0から一方向に磁化していく初期磁化曲線を読み、グラフ上のどの点で透磁率μ(=原点からその点までの直線の傾き)が最大になるかを見積もれ、Hをさらに強めてもBがほとんど増えなくなる磁気飽和の状態を、その手前の急激にBが増える領域と区別できる
考えてみよう

制御盤の中の電磁接触器(マグネットスイッチ)は、コイルに電流を流すとカチッと音がして、 大きな主接点が引き寄せられて閉じる。手で押しているわけでも、モーターで引っ張っているわけでもない。 コイルに電流を流しただけで、なぜあれだけの力で接点を動かせるのか。

種明かしは単純だ。電流が流れれば、その周りに必ず磁界ができる。そして磁界の中を電流が流れれば、 必ず力が生まれる。 この2段構えの関係を、19世紀の物理学者フレミングが左手・右手の指で 覚えやすくまとめた。このトピックを読み終えるころには、制御盤の中の電磁接触器や、 遮断器の母線がなぜあの形・あの間隔で設計されているかを、力の発生原理から説明できるようになっている。

電流が作る磁界 — 右ねじの法則

直線状の導体に電流を流すと、その周りには導体を中心とした同心円状の磁界ができる。 向きは右ねじの法則(別名:アンペアの右手の法則)で決まる。親指を電流の向きに向けて 導体を握ると、残りの指が巻きつく向きが磁界の向きになる。

導体から距離 rr[m] 離れた点での磁界の強さ HH[A/m] は、次の式で求まる。

H=I2πrH = \frac{I}{2\pi r}

例題

直線状の導体に8Aの電流が流れている。導体から4cm(0.04m)離れた点における磁界の強さ HH は何A/mか。

H=82π×0.0431.8A/mH = \frac{8}{2\pi \times 0.04} \fallingdotseq 31.8\text{A/m}
円形に1巻きしたコイルの中心の磁界は $H = I/(2r)$(rはコイルの半径)、コイルをN回巻いた ソレノイドの内部の磁界は $H = NI/l$(lはコイルの長さ)という、似た形の別の公式になる。 どれも「rやlに何を代入すべきか」を問題文からまず正しく読み取ることが出発点だ。

円弧状(扇形)導体が中心に作る磁界

円形コイルの中心磁界 H=I/(2r)H = I/(2r) は、実は「導体が中心の周りを1周(角度2π)ぐるりと 回っている」特別な場合にすぎない。導体が中心角 θ\theta[rad]の円弧しか描いていなければ、 磁界への寄与もその角度の割合だけになる。

H=θ2π×I2rH = \frac{\theta}{2\pi} \times \frac{I}{2r}

θ=2π\theta = 2\pi(1周=円形コイル)を代入すると H=I/(2r)H = I/(2r) に戻り、円形コイルの公式と 矛盾なくつながることが確認できる。円弧の公式は、円形コイルの公式を角度で割り引いた 自然な拡張にすぎない。

例題

半径0.3mの円弧状導体(中心角60°、弧度法で π/3\pi/3 rad)に6Aの電流が流れている。 中心に生じる磁界HHは何A/mか。

H=π/32π×62×0.3=16×101.67A/mH = \frac{\pi/3}{2\pi} \times \frac{6}{2\times 0.3} = \frac{1}{6}\times 10 \fallingdotseq 1.67\text{A/m}

半径の異なる2つの円弧がつながった扇形導体

電験三種で頻出するのが、半径の異なる2つの円弧を、中心を通る直線(半径方向の導体)で つないだ扇形の閉回路だ。この形を見たら、次の2点を押さえる。

  1. 半径方向の直線部分は、中心には磁界を作らない。 直線を中心まで延長した線がその 直線自身と重なるため(電流の向きと、中心から見た方向が一致してしまうため)、 右ねじの法則を適用しても中心での寄与はゼロになる。
  2. 外側の円弧と内側の円弧、それぞれが中心に作る磁界の向きを別々に確認する。 扇形の輪郭をぐるっと1周する閉回路では、外側の円弧を回る向きと内側の円弧を回る向きが 中心から見て逆回りになるため、2つの円弧が作る磁界は互いに逆向きになり、 足し算ではなく引き算になることが多い。

例題

半径0.4mの外側円弧と半径0.1mの内側円弧が、同じ中心角90°(π/2\pi/2 rad)の扇形の 輪郭をなす閉回路に4Aの電流が流れている。中心に生じる磁界の大きさは何A/mか。

外側円弧の寄与:

H=π/22π×42×0.4=0.25×5=1.25A/mH_{外} = \frac{\pi/2}{2\pi} \times \frac{4}{2\times 0.4} = 0.25\times 5 = 1.25\text{A/m}

内側円弧の寄与:

H=π/22π×42×0.1=0.25×20=5A/mH_{内} = \frac{\pi/2}{2\pi} \times \frac{4}{2\times 0.1} = 0.25\times 20 = 5\text{A/m}

2つの円弧の磁界は向きが逆なので、差し引きして

H=HH=51.25=3.75A/mH = H_{内} - H_{外} = 5 - 1.25 = 3.75\text{A/m}

半径が小さい内側の円弧ほど 1/r1/r が大きく寄与も大きいため、最終的な磁界の向きは 内側円弧が作る向きに一致する。

円弧の公式は直線電流・円形コイルの公式の仲間だが、「向きを持つ量を足し合わせている」 という点を忘れやすい。数値だけを機械的に足すのではなく、右ねじの法則で各円弧が 中心に作る磁界の向きを個別に描いてから、同じ向きなら足し算、逆向きなら引き算と 判断する癖をつけておきたい。

磁気に関するクーロンの法則 — 点磁荷どうしにも、電気と同じ形の力が働く

ここまでは「電流」が作る磁界を見てきたが、電験三種では、電気のクーロンの法則と そっくり同じ形をした磁気に関するクーロンの法則も出題される。N極・S極を、 電荷のように大きさを持つ点として扱う考え方だ(点磁荷、単位はWb)。

2つの点磁荷 m1m_1m2m_2[Wb]が距離 rr[m]離れているとき、両者の間に働く力は

F=m1m24πμ0r2F = \frac{m_1 m_2}{4\pi\mu_0 r^2}

電気のクーロンの法則 F=Q1Q2/(4πε0r2)F=Q_1Q_2/(4\pi\varepsilon_0 r^2) の、誘電率 ε0\varepsilon_0 が 透磁率 μ0\mu_0 に置き換わっただけの形だ。同様に、1つの点磁荷 mm[Wb]が距離 rr[m]の 点に作る磁界の強さは

H=m4πμ0r2H = \frac{m}{4\pi\mu_0 r^2}

向きは、N極からは放射状に外向き、S極へは放射状に内向き(磁力線がS極に 吸い込まれるイメージ)になる。

真空の透磁率$\mu_0=4\pi\times10^{-7}$H/mを使うと、$4\pi\mu_0=16\pi^2\times10^{-7} \fallingdotseq1.579\times10^{-5}$という数値が毎回登場する。電気のクーロンの法則で $1/(4\pi\varepsilon_0)\fallingdotseq9\times10^9$を覚えておくと便利なのと同じように、 この磁気版の定数もセットで押さえておくと計算が速くなる。

例題

真空中に強さ3×1043\times10^{-4}Wbの点磁荷(N極)がある。この点磁荷から3m離れた点における 磁界の強さHHを求める。

H=m4πμ0r2=3×1041.579×105×322.11A/mH = \frac{m}{4\pi\mu_0 r^2} = \frac{3\times10^{-4}}{1.579\times10^{-5}\times3^2} \fallingdotseq 2.11\text{A/m}

複数の点磁荷が作る磁界は、向きを考えたベクトルとして合成する

点磁荷が2つ以上あるとき、ある点に生じる磁界は、それぞれの点磁荷が単独で作る磁界を 大きさだけでなく向きも含めたベクトルとして合成する。電気の点電荷が複数ある場合の 電界の合成(クーロンの法則の複数版)とまったく同じ発想だ。

例題

一直線上に、強さmmのN極を点P(原点)に、強さmmのS極をPから1.0m離れた点Qに置いた。 P・Qを結ぶ線分上、Pから0.4m(Qから0.6m)の点における合成磁界の強さを求める。

N極が単独で作る磁界(Pから0.4mの距離)とS極が単独で作る磁界(Qから0.6mの距離)を、 それぞれH=m/(4πμ0r2)H=m/(4\pi\mu_0r^2)で計算すると、m=2×105m=2\times10^{-5}Wbのとき

H1=2×1051.579×105×0.427.92A/m,H2=2×1051.579×105×0.623.52A/mH_1 = \frac{2\times10^{-5}}{1.579\times10^{-5}\times0.4^2} \fallingdotseq 7.92\text{A/m}, \qquad H_2 = \frac{2\times10^{-5}}{1.579\times10^{-5}\times0.6^2} \fallingdotseq 3.52\text{A/m}

この点はN極とS極のにあるため、N極が作る磁界(N極から遠ざかる向き=P→Qの向き)と、 S極が作る磁界(S極に近づく向き=この点から見てQに向かう向き=これもP→Qの向き)は 同じ向きになる。したがって単純に足し算でよい。

H=H1+H27.92+3.52=11.4A/mH = H_1 + H_2 \fallingdotseq 7.92 + 3.52 = 11.4\text{A/m}
「N極は+、S極は-のように符号が逆だから、磁界も逆向きで打ち消し合うはず」という思い込みは 危険だ。2つの点磁荷の**間**にある点では、N極からの磁界・S極への磁界はどちらも 「N極からS極へ向かう向き」で一致し、足し算になる。逆に2点磁荷の**外側**(片方を通り 越した位置)にある点では、2つの磁界は逆向きになり引き算になる——観測点が2つの点磁荷の 「内側」か「外側」かによって、足すか引くかが変わる、と毎回矢印を描いて確認する。

円形コイルの軸上磁界 — 中心が最大、離れるほどなだらかに弱まる

円形コイルの中心の磁界 H=I/(2a)H=I/(2a)aaはコイルの半径)はすでに見た。ここでは視点を 広げ、中心からコイルの軸方向に離れた点では磁界がどう変化するかを見ておく。

半径 aa[m]の円形コイルに電流 II[A]を流したとき、コイルの中心軸上、中心から距離 xx[m]離れた点における磁界の強さは、次の式で表される。

H(x)=Ia22(a2+x2)3/2H(x) = \frac{Ia^2}{2(a^2+x^2)^{3/2}}

x=0x=0を代入すると、H(0)=Ia2/(2a3)=I/(2a)H(0)=Ia^2/(2a^3)=I/(2a)となり、見慣れた中心の公式にきちんと一致する。 xxが正負どちらの向きに大きくなっても、分母の(a2+x2)3/2(a^2+x^2)^{3/2}が急激に増えていくため、 H(x)H(x)は中心で最大値を取り、そこから左右対称xxの符号によらない偶関数)に なめらかに0へ近づく、山型(釣鐘型)の曲線になる。

例題

半径0.3mの円形コイルに5Aの電流を流した。コイルの中心から軸上に0.4m離れた点における 磁界の強さH(x)H(x)を求める。

H(0.4)=5×0.322×(0.32+0.42)3/2=0.452×0.125=1.8A/mH(0.4) = \frac{5\times0.3^2}{2\times(0.3^2+0.4^2)^{3/2}} = \frac{0.45}{2\times0.125} = 1.8\text{A/m}

参考までに中心の磁界はH(0)=5/(2×0.3)8.33A/mH(0)=5/(2\times0.3)\fallingdotseq8.33\text{A/m}であり、 0.4m離れただけで中心の1/4以下まで弱まっていることが分かる。

軸上磁界のグラフを選ばせる問題では、「中心で最大」「左右対称」「なめらかに0へ収束する 山型」という3つの条件をすべて満たす形を探す。直線的に増加し続けたり、中心で0になったり、 一定値のままだったりする形は、いずれも公式の$x^2$への依存の仕方と矛盾する。

磁気回路 — 起磁力・磁束・磁気抵抗は、電気回路のオームの法則とそっくり

コイルを鉄心に巻いて磁束を作る「磁気回路」には、電気回路のオームの法則 I=E/RI=E/R と そっくり同じ構造のアナロジーが成り立つ。

電気回路磁気回路
起電力 EE[V]起磁力 Fm=NIF_m=NI[A](コイルの巻数×電流)
電流 II[A]磁束 Φ\Phi[Wb]
抵抗 RR[Ω]磁気抵抗 RmR_m[H⁻¹]

このアナロジーの上で、磁気回路にも「オームの法則」にあたる関係が成り立つ。

Φ=FmRm,Rm=FmΦ\Phi = \frac{F_m}{R_m}, \qquad R_m = \frac{F_m}{\Phi}

磁気抵抗 RmR_m は、磁路の長さ ll[m]・断面積 SS[m²]・透磁率 μ\mu[H/m]を使って、 次の式で表される。

Rm=lμSR_m = \frac{l}{\mu S}

電気抵抗の式 R=ρl/SR=\rho l/S(抵抗率×長さ÷断面積)と見比べると、磁気抵抗は磁路が長いほど大きく (比例)、断面積が広いほど小さく(反比例)、透磁率が大きいほど小さくなる(反比例)— —電気抵抗の抵抗率 ρ\rho の代わりに、透磁率 μ\mu が逆の役割(大きいほど通しやすい)で 入っている点が対応している。磁気抵抗の単位はヘンリーの逆数 [H1][\text{H}^{-1}] になる。

例題

磁路の長さ l=0.4ml=0.4\text{m}、断面積 S=1×103m2S=1\times10^{-3}\text{m}^2、比透磁率 μr=1000\mu_r=1000 の鉄心に、巻数 N=200N=200 回のコイルを巻き、電流 I=0.5AI=0.5\text{A} を流した。この磁気回路に 生じる磁束 Φ\Phi を求めよ(真空の透磁率 μ0=4π×107H/m\mu_0=4\pi\times10^{-7}\text{H/m})。

まず磁気抵抗を求める。

Rm=lμ0μrS=0.44π×107×1000×1×1033.18×105H1R_m = \frac{l}{\mu_0\mu_r S} = \frac{0.4}{4\pi\times10^{-7}\times1000\times1\times10^{-3}} \fallingdotseq 3.18\times10^{5}\text{H}^{-1}

次に起磁力を求める。

Fm=NI=200×0.5=100AF_m = NI = 200\times0.5 = 100\text{A}

磁束は、起磁力を磁気抵抗で割ればよい。

Φ=FmRm=1003.18×1053.14×104Wb\Phi = \frac{F_m}{R_m} = \frac{100}{3.18\times10^{5}} \fallingdotseq 3.14\times10^{-4}\text{Wb}
磁気回路の問題で迷ったら、電気回路の対応表(起電力↔起磁力、電流↔磁束、抵抗↔磁気抵抗)に 一度立ち返る。「オームの法則の磁気版」だと捉え直せば、$\Phi=F_m/R_m$ という式も、 電気回路の $I=E/R$ の丸暗記のまま応用できる。磁気抵抗の比例・反比例の向き(長さに比例、 断面積と透磁率に反比例)も、電気抵抗 $R=\rho l/S$ の形とセットで思い出すと取り違えにくい。 なお、この章の冒頭で見たソレノイドの内部磁界 $H=NI/l$ も、この磁気回路の考え方の 土台になっている——ソレノイドの寸法や巻数が変わっても、単位長さあたりの起磁力 $NI/l$ という量そのものは変わらない。

空隙(エアギャップ)のある磁気回路 — 短い空隙が磁気抵抗の主役になる

ここまでの磁気回路は鉄心だけがつながった単純な形だったが、実務のリレーや電磁接触器、 モーターの鉄心には、可動鉄片との間にわずかな空隙(エアギャップ)が意図的に設けられていることが多い。 空隙を挟んだ磁気回路は、鉄心部分と空隙部分という透磁率の違う2つの磁路が直列につながった ものとして扱う。直列回路の合成抵抗と同じように、磁気抵抗も単純に足し合わせればよい。

Rm,合計=Rm,鉄心+Rm,空隙=l1μ0μr1S+lgμ0SR_{m,\text{合計}} = R_{m,\text{鉄心}} + R_{m,\text{空隙}} = \frac{l_1}{\mu_0\mu_{r1}S} + \frac{l_g}{\mu_0 S}

(空隙は空気(比透磁率≒1)とみなせるため、空隙部分の式には比透磁率が入らない)

ここで直感に反するのが、空隙の長さlgl_gが鉄心の磁路長l1l_1よりずっと短くても、 磁気抵抗は空隙側の方が大きくなることが多いという点だ。磁気抵抗の式Rm=l/(μS)R_m=l/(\mu S)の 分母にある透磁率μ\muを比べると、鉄心の比透磁率は数百〜数千であるのに対し、空隙の 比透磁率はわずか1しかない。長さの短さ(分子が小さい)を、透磁率の低さ(分母も小さい)が 上回ってしまうことが多いため、結果として空隙側の磁気抵抗が全体の大半を占めてしまう。

例題

磁路長l1=0.4ml_1=0.4\text{m}、比透磁率μr1=2000\mu_{r1}=2000、断面積S=1×103m2S=1\times10^{-3}\text{m}^2の 鉄心に、比透磁率1・長さlg=1mml_g=1\text{mm}の空隙を直列に設けた(断面積は共通)。鉄心・空隙 それぞれの磁気抵抗を求める。

Rm,鉄心=0.44π×107×2000×1×1031.59×105H1R_{m,\text{鉄心}} = \frac{0.4}{4\pi\times10^{-7}\times2000\times1\times10^{-3}} \fallingdotseq 1.59\times10^{5}\text{H}^{-1} Rm,空隙=1×1034π×107×1×1037.96×105H1R_{m,\text{空隙}} = \frac{1\times10^{-3}}{4\pi\times10^{-7}\times1\times10^{-3}} \fallingdotseq 7.96\times10^{5}\text{H}^{-1}

空隙の長さは鉄心のわずか1/400(1mm対400mm)しかないのに、磁気抵抗は鉄心の約5倍にもなる。 合計の磁気抵抗Rm,合計9.55×105H1R_{m,\text{合計}}\fallingdotseq9.55\times10^5\text{H}^{-1}のうち、8割以上を 空隙側が占めている計算だ。

この性質は、断面積が共通な磁気回路では磁束密度$B$(したがって磁束$\Phi$)が鉄心・空隙の 境界で連続していることの裏返しでもある。$H=B/\mu$の関係から、透磁率$\mu$が小さい空隙では、 同じ$B$に対して磁界の強さ$H$が鉄心よりも比透磁率倍ほど大きくなる——リレーや電磁接触器の 吸引力設計では、この「空隙にほとんどの起磁力が集中する」性質を踏まえて、必要な巻数・電流を 見積もる必要がある。空隙の長さの短さだけを見て「無視できるはず」と判断するのは早計であり、 必ず透磁率まで含めて磁気抵抗を計算し直すべきだ。

ヒステリシス特性 — 鉄心を交流で磁化すると、B-Hのグラフは行きと帰りで別の道を通る

磁気回路の節では、磁束密度BBと磁界の強さHHの関係をB=μHB=\mu Hという比例式で扱ってきた。 だが実際の鉄心(強磁性体)ではμ\muは一定の値ではなく、BBHHの関係は単純な比例直線には ならない。積層鉄心に交流電流を流してコイルを磁化すると、BB-HH平面上にヒステリシスループ と呼ばれる、磁界が増えていくときと減っていくときとで別の道筋をたどる、閉じた曲線が現れる。

このループの面積は、鉄心が1周期の磁化・脱磁を繰り返すたびに失われるエネルギー—— ヒステリシス損(鉄損の一部)に相当する。ループが大きいほど、1周期あたりに鉄心内で 失われる熱エネルギーも大きい。

ループが横軸(HH)・縦軸(BB)のそれぞれと交わる点にも、名前が付いている。磁界を H=0H=0まで戻しても鉄心の中に残っている磁束密度を残留磁気(残留磁束密度)、逆に 磁束密度をB=0B=0まで戻すために必要な逆向きの磁界の強さを保磁力という。永久磁石の 材料には、残留磁気・保磁力がともに大きい(=ヒステリシスループの面積が大きい)ものが 向いている一方、変圧器やモーターのように交流で繰り返し磁化・脱磁する鉄心には、逆に ループが細く面積の小さい(ヒステリシス損の小さい)軟磁性材料が使われる——同じ 「ループが大きい・小さい」という性質でも、永久磁石と変圧器鉄心とでは求められる方向が 正反対になる点が興味深い。

鉄心コイルに電圧VV(実効値)を加えたとき、最大磁束密度BmaxB_{max}との間にはおおむね 次の関係が成り立つ(ffは周波数、NNは巻数、AAは鉄心の断面積)。

V4.44fNABmaxBmaxV4.44fNAV \fallingdotseq 4.44fNAB_{max} \quad \Longrightarrow \quad B_{max} \fallingdotseq \frac{V}{4.44fNA}

この式から、電圧VVと周波数ffのどちらを固定するかによって、ループの大きさ(=損失)の 変化の向きが変わることが分かる。

  • 電圧VVが一定のまま周波数ffが下がるBmaxB_{max}ffに反比例して大きくなる →ループは大きくなり、ヒステリシス損も増える
  • 周波数ffが一定のまま電圧VVが下がるBmaxB_{max}VVに比例して小さくなる →ループは小さくなり、ヒステリシス損も減る
  • コイル電流の実効値(≒磁界HHの振幅)が一定のまま周波数だけが変わる:ヒステリシス ループの形そのものは主に材料とHHの振幅で決まる固有の性質であるため、ほとんど変わらない
『周波数を下げる』という操作は1つでも、何を一定に保っているか(電圧か、電流か)によって、 ループ面積の変化の向きがまったく違ってくる。式$B_{max}\fallingdotseq V/(4.44fNA)$に 立ち返り、$V$・$f$・$B_{max}$のうちどれが固定されどれが動いているかを整理してから、 ループの大小を判断する。

測定値から透磁率μを逆算する

環状鉄心にコイルを巻いて直流電流を流した場合も、磁界の強さH=NI/lH=NI/l(磁気回路の節で見た ソレノイドの式)と、実際に測定された磁束密度BBが分かれば、その鉄心の透磁率μ\muを 逆算できる。

μ=BH\mu = \frac{B}{H}

例題

磁路の長さl=0.25ml=0.25\text{m}、巻数N=5000N=5000の環状鉄心コイルに、直流電流I=0.2AI=0.2\text{A}を 流したところ、鉄心中の磁束密度はB=1.0TB=1.0\text{T}であった。この鉄心の透磁率μ\muを求める。

まず磁界の強さを求める。

H=NIl=5000×0.20.25=4000A/mH = \frac{NI}{l} = \frac{5000\times0.2}{0.25} = 4000\text{A/m} μ=BH=1.04000=2.5×104H/m\mu = \frac{B}{H} = \frac{1.0}{4000} = 2.5\times10^{-4}\text{H/m}
$\mu=B/H$は、磁気回路の節で見た$R_m=l/(\mu S)$と$\Phi=F_m/R_m$を組み合わせても導ける 関係だが、測定値からその場で$\mu$を求めたいときは遠回りせずこの比の形をそのまま使えばよい。 $H$を求める式が直流のソレノイドか、円弧か、扇形かで変わる点だけ、それぞれの節の公式を 再確認してから代入する。

初期磁化曲線と磁気飽和 — 透磁率μは一定の値ではない

ヒステリシスループは「交流で繰り返し磁化・脱磁したときの往復軌跡」だったが、これとは別に、 一度も磁化されたことのない強磁性体B=H=0B=H=0の状態)に、磁界HH00から一方向だけに 増やしていったときに得られる、1本道の曲線がある。これを初期磁化曲線という。

初期磁化曲線には、はっきりした3つの領域がある。

  • 立ち上がりが緩やかな領域HHが小さいうち):BBはゆっくりとしか増えない
  • 急激に増加する領域HHをわずかに増やすだけでBBが大きく跳ね上がる
  • なだらかに横ばいへ近づく領域HHをさらに強めても、BBはほとんど増えなくなる。 この状態を磁気飽和という

透磁率μ=B/H\mu=B/H(グラフ上では、原点からその点までの直線の傾きにあたる)は、この曲線の どこでも同じ値ではない。急激に増加する領域のどこかで最大値をとり、磁気飽和に近づくほど μ\muはむしろ小さくなっていく

「Bが大きい点ほどμも大きいはず」という直感は誤りやすい落とし穴だ。μ=B/Hは絶対的な大きさ ではなく比であり、飽和領域はBの値自体は大きくても、Hの増加にBの増加が追いつかなくなる (傾きが緩む)領域だから、μはむしろ下がる。グラフから最大の透磁率を求める設問では、 Bが最大の点を探すのではなく、各点でB/Hを実際に計算し比べる、という一手間を省略しない。

例題

未着磁の強磁性体を初期磁化曲線に沿って磁化し、次のH-Bの組を測定した。 H=200A/m:B=0.30T、H=400A/m:B=1.40T、H=600A/m:B=1.90T、H=800A/m:B=2.05T。

μ(200)=0.30200=1.5×103,μ(400)=1.40400=3.5×103\mu(200) = \frac{0.30}{200} = 1.5\times10^{-3}, \quad \mu(400) = \frac{1.40}{400} = 3.5\times10^{-3} μ(600)=1.906003.17×103,μ(800)=2.058002.56×103\mu(600) = \frac{1.90}{600} \fallingdotseq 3.17\times10^{-3}, \quad \mu(800) = \frac{2.05}{800} \fallingdotseq 2.56\times10^{-3}

H=400A/mの点でμ\muが最大(3.5×1033.5\times10^{-3})になっており、その前後では小さくなっている。 このあとH=1000A/mまで強めてもB=2.10Tまでしか増えなければ、μ(1000)=2.10/1000=2.1×103\mu(1000)=2.10/1000=2.1\times10^{-3} とさらに小さくなり、これが磁気飽和に近づいている様子を数値で裏付けている。

磁界中の電流に働く力 — フレミングの左手の法則

磁界の中に電流が流れる導体を置くと、導体には力が働く。これがモーターの動作原理そのものだ。 力の大きさは次の式で求まる。

F=BILsinθF = BIL\sin\theta

BBは磁束密度[T]、IIは電流[A]、LLは磁界中にある導体の長さ[m]、θ\thetaは磁界と導体のなす角度。 磁界と導体が直角(θ=90°\theta=90°)なら sinθ=1\sin\theta=1 となり、F=BILF=BIL とシンプルになる。

力の向きは、フレミングの左手の法則で決まる。親指=力(F)、人差し指=磁界(B)、 中指=電流(I)の順に3本の指を直角に開くと、その指の向きが実際の関係に一致する。

例題

磁束密度0.4Tの磁界中に、長さ0.5mの導体を磁界と直角に置き、3Aの電流を流した。導体に働く力FFは何Nか。

F=0.4×3×0.5=0.6NF = 0.4 \times 3 \times 0.5 = 0.6\text{N}
フレミングの左手の法則と右手の法則(発電機の誘導起電力の向きを求める、電磁誘導のトピックで扱う)は 指の役割が入れ替わっており混同しやすい。「左手はモーター、右手は発電機」という対応を先に 固定してから、指の役割を思い出すと取り違えを防げる。

平行電線に働く力 — 短絡電流が母線を壊す理由

2本の平行な直線導体にそれぞれ電流を流すと、互いの導体が作る磁界の中を相手の電流が流れる形になり、 導体どうしの間に力が働く。単位長さあたりの力は次の式で求まる。

FL=μ0I1I22πd\frac{F}{L} = \frac{\mu_0 I_1 I_2}{2\pi d}

μ0\mu_0は真空の透磁率(4π×1074\pi \times 10^{-7}H/m)、ddは2本の導体間の距離[m]。 電流が同じ向きなら引き合い、逆向きなら反発する。

例題

1m離して平行に張られた2本の導体に、同じ向きにそれぞれ20Aの電流を流した。長さ1mあたりに働く力は何Nか。

FL=4π×107×20×202π×1=8×105N=0.08mN\frac{F}{L} = \frac{4\pi \times 10^{-7} \times 20 \times 20}{2\pi \times 1} = 8 \times 10^{-5}\text{N} = 0.08\text{mN}

普段の運転電流ではこの程度の小さな力しか働かない。だが、この式の I1I2I_1 I_2 という形に注目してほしい。 同じ大きさの電流なら、力は電流の2乗に比例する。定格電流の数倍〜数十倍に達する短絡電流が 流れた瞬間、電磁力は数百倍〜数千倍にまで跳ね上がる。受変電設備や配電盤の母線(バスバー)が 一定の間隔・支持間隔で設計されているのは、通常運転時の力ではなく、この短絡時の電磁反発力に 耐えられるかどうかを基準にしているからだ。

冒頭の電磁接触器の吸引力も、この節で見た「磁界中の電流に働く力」がコイルの周りに集中して 現れたものにほかならない。

電流ループにはたらく偶力のモーメント — 可動コイル形計器・モータが回る理由

ここまでは「1本の直線導体」にはたらく力を見てきた。導体を四角く曲げてループ(コイル)に すると、磁界中でまったく新しい振る舞いが生まれる。

一辺 hh[m]の正方形コイルABCDに電流 II[A]が流れており、一様な磁束密度 B0B_0[T]の向きが 辺ABと平行だとする。4つの辺それぞれについて、電流の向きと B0B_0 の向きのなす角 θ\theta を確認すると、次のように分かれる。

  • 辺AB・DC(B0B_0と平行、θ=0°\theta=0°F=B0ILsinθF=B_0IL\sin\thetasinθ=0\sin\theta=0となり、 力はゼロ
  • 辺AD・BC(B0B_0と垂直、θ=90°\theta=90°:それぞれ大きさ F=B0IhF=B_0Ih の力が生じる。ただし AD・BCでは電流の向きが互いに逆(ループを1周する向きなので)なので、生じる力の向きも 互いに逆向きになる

AD・BCにはたらく2つの力は、大きさが等しく向きが逆で、しかも hh だけ離れた別々の辺に はたらいている。これは力学でいう偶力そのものだ。合力(力の総和)はゼロでも、偶力は 物体を回転させようとするモーメント(トルク)を生む。

M=F×h=(B0Ih)×h=B0Ih2M = F\times h = (B_0Ih)\times h = B_0Ih^2

例題

一様な磁束密度B=0.5B=0.5Tのもとで、一辺h=0.2h=0.2mの正方形コイルABCDに直流電流I=3I=3Aが流れている。 BBの向きは辺ABと平行である。このコイルにはたらく偶力のモーメントを求める。

F=BIh=0.5×3×0.2=0.3N,M=F×h=0.3×0.2=0.06N・mF = BIh = 0.5\times3\times0.2 = 0.3\text{N}, \qquad M = F\times h = 0.3\times0.2 = 0.06\text{N・m}
「合力がゼロ=コイルには何も起きない」という直感は誤りだ。力の大きさ・向きだけでなく、 その力が『どこに(どの辺に)』働いているかまで見ないと、回転させようとするモーメントを 見落とす。大きさが等しく逆向きの2つの力が、離れた場所に働いていれば、合力ゼロでも モーメントは必ず残る——この偶力の発想は、可動コイル形計器の指針を振らせる力や、 直流モータのロータを回転させる力の発生原理そのものになっている。

なお、コイルが回転して面の向きが変わっていくと、B0B_0とコイル各辺のなす角も変化するため、 モーメントの大きさも回転角に応じて変わっていく(実際のモータでは、整流子やブラシの仕組みで 一定方向のトルクを保ち続けている)。ここでは「磁界がコイル面と平行な、モーメントが最大になる 瞬間」の力の分析だけを押さえておけば、試験対策としては十分だ。

磁気遮へい — 強磁性体で、磁束の通り道そのものを変える

ここまでは「磁界が力を生む」側の話だった。最後に、磁界そのものを弱める・締め出す側の 話として、磁気遮へいを見ておく。

磁界の中に強磁性体(鉄など、磁束が非常に通りやすい材料)を置くと、周囲の磁束は空気中を まっすぐ進むよりも、磁気抵抗の小さい強磁性体の中を選んで通るようになる。ここで、強磁性体を 中空にしておくとどうなるか。磁束は中空の空間を避け、強磁性体の壁の中を迂回するように 流れ込む。その結果、中空の内部には外部磁界の影響がほとんど届かなくなる。

このように、強磁性体でまわりを囲んで内部を外部磁界の影響から守ることを磁気遮へいと呼ぶ。 精密な計測器やブラウン管、磁気の影響を嫌うセンサーなどを、鉄でできたケースで覆うのはこの 原理を利用したものだ。

磁気遮へいは、名前も見た目も似ている静電遮へい(導体で囲み、外部電界の影響を防ぐ仕組み)と 混同しやすいが、原理はまったく違う。静電遮へいは囲む材料が導体でありさえすればよく(自由電子が 移動して外部電界を打ち消す)、磁気遮へいは磁束が『通りやすい経路』を選ぶ性質を利用するため、 鉄などの強磁性体でなければ効果がない——銅やアルミのような非磁性の導体で箱を作っても、 磁気遮へいの効果はほとんど得られない。

冒頭の電磁接触器の吸引力、そして磁気遮へいという「磁束の通り道をコントロールする」発想—— 答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。

出題者のワナ — ここで受験者を転ばせにくる

この論点は、知っているだけでは足をすくわれる。試験でよく仕掛けられる崩し方を、先に知っておこう。

  1. フレミングの左手の法則の指の割り当てを、右手の法則(発電機の誘導起電力)と混同する

    なぜ引っかかる電磁力(モーターの原理、左手)と電磁誘導(発電機の原理、右手)は指を使う似た形のルールで、どちらがどちらか記憶があいまいになりやすい

    見破り方「左手はモーター(電気から力=運動を作る)、右手は発電機(運動から電気を作る)」という対応を先に固定する。左手は親指から順に力(F)・磁界(B)・電流(I)の頭文字と覚えておくと迷わない

  2. 平行に置かれた2本の電線に働く力の向き(引力か斥力か)を、磁石のイメージに引きずられて逆に覚える

    なぜ引っかかる「同じ極同士は反発する」という磁石の直感を、電流同士の関係にそのまま当てはめてしまい、同じ向きの電流も反発すると誤解しやすい

    見破り方毎回、右ねじの法則で片方の導体が作る磁界を描き、その磁界の中にもう一方の電流を置いてフレミングの左手の法則で力の向きを導く。結論だけを暗記せず、小さな図で検算する習慣をつける

  3. 円形コイル中心の磁界の公式で、問題文の「直径」をそのまま半径として代入してしまう

    なぜ引っかかる直線導体の公式 H = I/(2πr) のrは「導体からの距離」だが、円形コイル中心の磁界 H = I/(2r) のrは「コイルの半径」であり、どちらも同じ文字rを使うため、問題文の寸法が直径か半径かの確認を怠りやすい

    見破り方問題文に出てくる寸法が直径か半径かを最初に丸で囲み、直径であれば必ず2で割ってから公式に代入する、という手順を式を立てる前に済ませる

  4. 扇形導体の外側・内側の円弧による磁界を、向きを確認せずに単純に足し算してしまう

    なぜ引っかかる同じ形の円弧公式を2回使うため力ずくで足せば答えが出ると思い込みやすいが、閉回路の扇形では外側の円弧と内側の円弧で電流が中心に対して逆回りになっており、作る磁界の向きも逆になる。直線(半径方向)部分は中心を通る延長線上にあるため中心には磁界を作らない、という点も見落としやすい

    見破り方右ねじの法則で外側円弧・内側円弧それぞれが中心に作る磁界の向き(紙面の奥か手前か)を個別に矢印で描いてから、同じ向きなら足し算、逆向きなら引き算というように向きを確認してから計算する

  5. 磁気遮へいを、電気を通す導体(金属板)で囲む静電遮へいと同じ仕組みだと思い込む

    なぜ引っかかる『遮へい』という言葉と『金属で囲む』という見た目が共通しているため、静電遮へい(導体で囲み、内部の自由電子の移動で外部電界を打ち消す)と磁気遮へい(強磁性体で囲み、磁束の通り道そのものを迂回させる)を同じ原理だと混同しやすい。

    見破り方静電遮へいは『内部の自由電子が動いて外部電界を打ち消す』仕組みで、導体でありさえすればよい(強磁性体である必要はない)。磁気遮へいは『磁束が磁気抵抗の小さい経路(強磁性体)を選んで通る』仕組みで、単なる導体(銅やアルミ)では効果がなく、鉄などの強磁性体でなければ意味がない、と使う材料の条件で区別する。

  6. 磁気抵抗の比例・反比例の向きを、電気抵抗R=ρl/Sの形と混同して逆に覚えてしまう

    なぜ引っかかる磁気抵抗Rm=l/(μS)は電気抵抗R=ρl/Sとよく似た形だが、電気抵抗の抵抗率ρ(大きいほど電気を通しにくい)と、磁気回路の透磁率μ(大きいほど磁束を通しやすい)とでは、大きい方が『通しやすい』か『通しにくい』かの向きが逆になる。この違いを意識せずに式だけを丸暗記すると、透磁率が大きいときに磁気抵抗も大きくなると誤って覚えてしまう。

    見破り方透磁率μは分母にあるので、μが大きいほど磁気抵抗Rmは小さくなる(磁束が通りやすくなる)、と式の分母・分子の位置から毎回確認する。『強磁性体は磁束を通しやすい=磁気抵抗が小さい』という直感と、Rm=l/(μS)の式(μが分母)が一致することを確かめてから計算に入るとよい。

  7. 空隙(エアギャップ)の長さが鉄心の磁路長よりずっと短いことだけを見て、空隙の磁気抵抗を無視してよいと判断してしまう

    なぜ引っかかる『長さが短い=影響が小さい』という直感で、磁気抵抗Rm=l/(μS)の分母にある透磁率μの違い(空隙は比透磁率1、鉄心は数百〜数千)を見落としやすい。長さの比だけで大小を判断すると、実際には空隙側の磁気抵抗の方が大きいケースを見逃す。

    見破り方空隙と鉄心、両方の磁気抵抗を実際にRm=l/(μS)で個別に計算し、長さの比(空隙/鉄心)と透磁率の比(鉄心/空隙)のどちらの効果が大きいかを数値で比べる。透磁率の比(数百〜数千倍)が長さの比(せいぜい数百分の1程度)を上回ることが多く、その場合は空隙側の磁気抵抗が支配的になる。

  8. ヒステリシスループのH軸の切片(保磁力)とB軸の切片(残留磁気)を取り違える

    なぜ引っかかるどちらも『ループがゼロ軸を横切る点』という見た目が似ており、横軸(H)の切片か縦軸(B)の切片かをあいまいに覚えていると入れ替えてしまう。

    見破り方『保磁力は磁界(H)の強さで表す量だからH軸上、残留磁気は磁束密度(B)の量だからB軸上』と、名前に含まれる量の種類(力=磁界か、磁気=磁束密度か)から軸を確認する。

  9. ヒステリシスループの面積(鉄損)が、周波数や電圧の変化に対して常に同じ向きに増減すると思い込んでしまう

    なぜ引っかかる『周波数を下げる』『電圧を下げる』のどちらも似たような操作に見えるため、両方とも同じ向きにループ面積を変化させると短絡的に考えてしまいやすい。実際にはV≒4.44fNABmaxという関係の中で、電圧一定なら周波数とBmaxは反比例、周波数一定なら電圧とBmaxは比例と、固定している量によって結果の向きが逆になる。

    見破り方まず『何が一定に保たれているか』(電圧か、周波数か、電流か)を確認してから、残りの量がどう動くとBmaxがどう変化するかをV≒4.44fNABmaxの式で追う。電圧一定で周波数低下→Bmax増加→ループ拡大、周波数一定で電圧低下→Bmax減少→ループ縮小、電流一定(H振幅一定)で周波数だけ変化→ループはほぼ不変、と3パターンを式から毎回導き直す。

  10. 磁界がコイルの面に平行なとき、各辺の力の合計がゼロだから『コイルには何も起きない』と結論づけてしまう

    なぜ引っかかる『合力ゼロ=力が働いていない=何も動かない』という直感で考えると、力の大きさと向きだけに気を取られ、力の作用線の位置がずれている場合に生じる回転効果(偶力のモーメント)を見落としてしまう。

    見破り方各辺にはたらく力を個別に矢印で描き、大きさだけでなく『どこに(どの辺に)』働いているかまで確認する。大きさが等しく向きが逆の2つの力が、互いに離れた場所(この場合はh離れた2辺)に働いていれば、合力はゼロでも必ず回転させようとするモーメントが残る、と力の合計とモーメントを別々に検算する。

  11. 磁界と平行な辺(AB・DCなど)にも、垂直な辺と同じ大きさの力が働くと思い込む

    なぜ引っかかる『4辺すべてに電流が流れているのだから、4辺すべてに何らかの力が働くはず』という直感で考えると、F=BIL sinθのsinθ=0(電流とBが平行)という条件を見落としやすい。

    見破り方各辺について、電流の向きと磁界Bの向きのなす角θを個別に確認する。θ=0°(平行)ならF=BIL sinθ=0で力はゼロ、θ=90°(垂直)ならF=BILで最大——4辺すべてに同じ式を機械的に当てはめず、辺ごとに角度を確認してから計算する。

  12. 複数の点磁荷が作る磁界を合成するとき、大きさをそのまま足し算・引き算してしまう(向きを考えない)

    なぜ引っかかる電気のクーロンの法則と同じ形の式で大きさが計算できるため、答えを出した時点で満足してしまい、磁界がベクトル(向きを持つ量)であることを見落としやすい。特に2つの点磁荷からの距離が等しく、大きさが同じ磁界になる配置では、単純に足すか引くかだけで済むと早合点しやすい。

    見破り方それぞれの点磁荷が作る磁界の向き(N極からは外向き、S極へは内向き)を、観測点を起点に矢印で描いてから合成する。2つの磁界のなす角が0°や180°でない限り、単純な足し算・引き算ではなく、平行四辺形の対角線(あるいは成分分解)でベクトルとして合成する必要がある。

  13. 円形コイルの軸上磁界は、中心から離れても中心と同じ強さのまま一定だと思い込む、あるいは中心から離れるとすぐに0になると考える

    なぜ引っかかる『コイルの近くならどこでも同じくらい強い磁界があるはず』という直感や、逆に『中心以外はほぼ影響がない』という極端な直感のどちらかに寄りやすく、H(x)=Ia²/{2(a²+x²)^(3/2)}が中心(x=0)でH=I/(2a)の最大値を取り、そこから連続的になだらかに減っていく分布になることを見落としやすい。

    見破り方公式にx=0を代入すると中心の公式H=I/(2a)に一致することをまず確認し、xを大きくしていくと分母の(a²+x²)^(3/2)が急激に大きくなって0へ近づくことを式の形から追う。グラフの形を選ぶ問題では『中心で最大・左右対称・なめらかに0へ収束する山型』という3条件を満たす選択肢を探す。

  14. 初期磁化曲線でHをさらに強めてもBがほとんど増えなくなる状態(磁気飽和)を、透磁率μがどんどん大きくなり続けている状態だと誤解してしまう

    なぜ引っかかる『磁化が進む=磁石としての性質がどんどん強まっている』という漠然とした直感から、Bの絶対値が高い水準にある飽和領域でも透磁率μ=B/Hが最大のままだと思い込みやすい。実際にはこの領域ではBの増え方(傾き)がむしろ緩やかになっており、Hの増加に対するB/Hの比は最大値を過ぎて下がっている。

    見破り方透磁率μが最大になる点と、磁束密度Bが最大(飽和)になる点は別の点だと区別する。μ=B/Hは『原点からその点までの直線の傾き』であり、Hを増やしてもBがほぼ横ばいになる飽和領域では、この直線の傾きはHが増えるほどむしろ小さくなっていく。グラフ上でμが最大になるのは、Bが急激に立ち上がる中間の領域であって、飽和した先の領域ではない。

参考文献・出典

理解度チェック(25問)

このトピックの内容がどれくらい身についたか、25問で確認しよう。 内訳は基本10問・応用8問・ひっかけ7問。基本が解けたら、条件を足した応用と、本番で足をすくいにくるひっかけまで踏み込む。

/ 25 問正解

覚えておきたいポイント

  1. 直線電流の周りには同心円状の磁界ができる。向きは右ねじの法則(親指=電流の向き、他の指を握る向き=磁界の向き)で決まる
  2. 直線電流からr[m]離れた点の磁界の強さは H = I/(2πr) [A/m]
  3. 磁界中に置かれた電流に働く力は F = BIL sinθ [N]。向きはフレミングの左手の法則(親指=力、人差し指=磁界、中指=電流)で決まる
  4. 平行な2本の電線は、同じ向きの電流なら引き合い、逆向きの電流なら反発する。単位長さあたりの力は F = μ0 I1 I2/(2πd) [N/m]
  5. 電磁力は電流の積(同じ電流なら2乗)に比例するため、短絡電流のような大電流では力が急激に大きくなる
  6. 円弧状導体(中心角θ[rad]、半径r)が中心に作る磁界は H=(θ/2π)×I/(2r)。θ=2πを代入すると円形コイルの公式 H=I/(2r) に一致する、直線電流の公式の自然な拡張になっている
  7. 磁気に関するクーロンの法則:2つの点磁荷m1[Wb]、m2[Wb]の間に働く力はF=m1m2/(4πμ0r²)(電気のクーロンの法則F=Q1Q2/(4πε0r²)とそっくり同じ形)。1つの点磁荷m[Wb]が距離r[m]の点に作る磁界の強さはH=m/(4πμ0r²)で、N極から出てS極に入る向きを持つ。複数の点磁荷が作る磁界は、大きさをそのまま足すのではなく、向きを考えたベクトルとして合成する
  8. 円形コイル(半径a、電流I)が作る磁界は中心(H=I/(2a))が最大で、中心から軸方向に離れるほど弱まる。軸上の点(中心からの距離x)における磁界はH(x)=Ia²/{2(a²+x²)^(3/2)}で、xの符号によらない偶関数(左右対称)・中心で単一のピークを持ち、xが大きくなるほど滑らかに0へ近づく『富士山型』の曲線になる
  9. 強磁性体を磁界中に置くと、磁束は空気中よりも通りやすい(磁気抵抗が小さい)強磁性体の中を選んで通るようになる。強磁性体で中空の空間をまわりから囲むと、磁束はその強磁性体の壁の中を迂回して通り、内部の空間には外部磁界の影響がほとんど及ばなくなる——これを磁気遮へいという
  10. 鉄心の一部に空隙(エアギャップ)を設けた磁気回路では、鉄心部分と空隙部分の磁気抵抗を直列合成して全体の磁気抵抗を求める(Rm合計=Rm鉄心+Rm空隙)。空隙は長さが数mm程度と短くても、比透磁率が1(鉄心の比透磁率の数百〜数千分の1)しかないため、磁気抵抗Rm=l/(μS)の分母が極端に小さくなり、短い空隙が磁気回路全体の磁気抵抗の大半を占めてしまうことが多い。断面積が共通で磁束(したがって磁束密度B)が連続な境界では、H=B/μの関係から、比透磁率が小さい空隙の方が磁界の強さHは比透磁率倍も大きくなる
  11. ヒステリシスループにおいて、磁界H=0まで戻してもなお鉄心に残っている磁束密度を残留磁気(残留磁束密度)、逆に磁束密度B=0まで戻すのに必要な逆向きの磁界の強さを保磁力という。永久磁石として使う材料には、残留磁気・保磁力がともに大きい(ヒステリシスループの面積が大きい)ものが適する一方、変圧器やモーターのように交流で繰り返し磁化する鉄心には、ループが細く面積が小さい(ヒステリシス損が小さい)軟磁性材料が適する
  12. 未着磁(B=H=0)の強磁性体にH=0から一方向だけ磁界を加えていくと、ヒステリシスループとは別の1本道の曲線(初期磁化曲線)が得られる。この曲線上でB/H(=透磁率μ)は一定ではなく、原点付近ではゆっくり、中間のH領域で急激にBが立ち上がり(この付近でμがほぼ最大になる)、さらにHを強めるとBの増え方が次第に緩やかになり、ほぼ一定値に近づく。この、Hを増やしてもBがほとんど増えなくなる状態を磁気飽和という
  13. 初期磁化曲線のグラフからμの最大値を見積もるには、曲線上の各点についてB/H(原点からその点まで引いた直線の傾き)を計算し、最も傾きが急になる点を探す。これは曲線そのものの接線の傾きdB/dH(その点での増加率)とは別の量であり、グラフの見た目の傾きが最も急な区間と、原点からの直線の傾きが最大になる点は必ずしも一致しない
  14. 磁気回路は電気回路のオームの法則とアナロジーが成り立つ(起電力↔起磁力NI、電流↔磁束Φ、抵抗↔磁気抵抗Rm)。磁気抵抗Rm=l/(μS)は磁路長lに比例し、断面積Sと透磁率μに反比例する。単位はH⁻¹。磁束はΦ=Fm/Rm(起磁力÷磁気抵抗)で求まる
  15. 積層鉄心を交流で磁化すると、B-H平面上にヒステリシスループと呼ばれる往復軌跡が現れ、その面積が1周期あたりのヒステリシス損(鉄損の一部)に相当する。コイル電圧の実効値V・周波数f・最大磁束密度Bmaxの間にはおおむねV≒4.44fNABmaxの関係が成り立つため、V一定でfが下がるとBmaxが増えてループは大きくなり、f一定でVが下がるとBmaxが減ってループは小さくなる。一方、コイル電流の実効値(≒Hの振幅)を一定に保ったまま周波数だけが変わっても、ループの形はほとんど変わらない。また、環状鉄心のH=NI/lと測定されたBから、その鉄心の透磁率μ=B/Hを逆算できる
  16. 一様な磁束密度B0中に置かれた1辺h[m]の正方形コイルABCDに電流I[A]が流れているとき、B0がコイル面に平行(例えば辺ABと平行)な向きだと、Bと平行な辺(AB・DC)には力が働かない(電流とBのなす角θ=0でsinθ=0)が、Bと垂直な2辺(AD・BC)にはそれぞれ大きさIhB0[N]の力が互いに逆向きに生じる。合力はゼロでも、この一対の逆向きの力(偶力)はIh²B0[N・m]のモーメント(トルク)を生む——これが可動コイル形計器や直流モータの回転力の発生原理
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