ある電気工事の現場で、竣工検査はすべて合格した。書類上は何の問題もない。ところが数年後、その建物で改修工事をしようとしたとき、天井裏の配管がどこをどう通っているのか、誰にも分からなかった。
検査には合格していたのに、なぜ「分からない」という事態が起きたのか。
見当がつかなくて当然だ。このトピックを読み終えるころには、検査に合格することと、品質を確保することの違いを説明できるようになっている。
品質管理と聞くと、多くの人は「検査に合格すること」を思い浮かべる。しかし検査は、品質を確認するための手段であって、それ自体が目的ではない。目的は、設計図書どおりの性能・仕上がりを実現し、施主が求める品質を確保することにある。この手段と目的の順序を取り違えると、「検査さえ通ればいい」という発想に陥り、記録を軽視したり、あとから確認できない施工を残したりする落とし穴にはまる。
PDCAサイクルで品質管理を運用する
品質管理は、一度きりの検査で完結するものではなく、Plan(計画)→Do(施工)→Check(検査・確認)→Action(是正・改善)というサイクルを回し続けることで維持される。
検査(Check)で不具合が見つかったとき、その場で直すだけで終わらせず、なぜその不具合が起きたのかを確認し、同じ原因で再発しないよう次の計画(Plan)に反映させる。この一巡があって初めて、品質管理は「検査のたびに一喜一憂する作業」から「品質を継続的に底上げする仕組み」に変わる。
出題では、Plan・Do・Check・Actionという名称ではなく、「品質に関する方針に基づき、品質の仕様を決定する」「標準どおりに作業を実施する」「品質を測定・試験し、結果を基準と比較して確認する」「不具合が出たら、原因を調べて処置する」というように、活動の内容だけを(ア)〜(エ)でラベル付けして、正しい順序に並べ替えさせる形式が出ることもある。
竣工検査の順序 — 安全に確認できることを先に
竣工検査では、複数の測定・試験を決まった順序で行う。一般的な順序は次のとおりだ。
| 順序 | 検査・試験 | 確認すること |
|---|---|---|
| 1 | 目視点検 | 図面どおりの施工か、外観に異常がないか |
| 2 | 絶縁抵抗測定 | 電路・機器の絶縁が保たれているか(無電圧の状態で実施) |
| 3 | 接地抵抗測定 | 各接地工事が規定の抵抗値に収まっているか |
| 4 | 導通試験 | 配線が図面どおりに正しくつながっているか(未通電の状態で実施) |
| 5 | 通電試験(試送電) | 実際に電気を通し、機器が正常に動作するか |
電気工事特有の検査項目としては、この絶縁抵抗測定・接地抵抗測定・導通試験に加えて、保護継電器(漏電遮断器・過電流継電器等)が正しく動作するかの確認や、高圧受電設備であれば絶縁耐力試験のような、電気設備ならではの検査が加わる。これらは電圧・電流という目に見えないものの状態を、測定器を通じて数値に翻訳して確認する検査だ。
記録は「合否の証明書」ではなく「あとから追跡できる証拠」
検査に合格したという結果だけでなく、その過程を記録として残しておくことも、品質管理の重要な一部だ。とりわけ電線管の配管や埋設配線のように、仕上げ工事(天井材・壁材の設置、土の埋め戻しなど)が終わると目視で確認できなくなる部分は、隠れてしまう前に写真や試験記録として残しておく必要がある。
冒頭の現場のように、検査にはすべて合格していても、施工途中の記録が残っていなければ、数年後の改修工事で「配管がどこを通っているか分からない」という事態を招く。検査記録は、その場の合否を証明する紙ではなく、施工した内容をあとから第三者が追跡・検証できるようにするための証拠だと捉え直すと、記録を残す優先順位の付け方が変わってくる。
絶縁抵抗測定の実務 — 「合格」の数字はどう測られたか
竣工検査の順序(目視点検→絶縁抵抗測定→接地抵抗測定→導通試験→通電試験)はすでに見た。ここでは、その2番目に行う絶縁抵抗測定を、実際にどう測るかを見ていく。
絶縁抵抗計(メガー)は、測定する回路の使用電圧に応じて定格電圧を使い分ける機器だ。目安として、高圧回路の測定には1000V絶縁抵抗計、低圧幹線の測定には500V絶縁抵抗計を用いる。定格電圧の違う絶縁抵抗計を取り違えると、正しい絶縁性能を評価できない。
測定に入る前には、絶縁抵抗計そのものが正常に機能しているかを確認する3つのチェックを行う。
| チェック項目 | 確認すること |
|---|---|
| 電池チェック | 絶縁抵抗計本体の電池残量が十分かを確認する |
| 開放(∞)チェック | 測定端子を開放した状態で指示値が∞(無限大)を示すかを確認する |
| 0(ゼロ)チェック | 測定端子を短絡した状態で指示値が0Ωを示すかを確認する |
冒頭の「検査記録に合格と書かれていた」という話に戻ると、その合格の数字は、正しい定格電圧の絶縁抵抗計で、事前のチェックを済ませたうえで、指示値が安定してから読み取られたものか——という測定の手順そのものも、記録の信頼性を左右する要素になる。
接地抵抗測定の実務 — 端子は「切り離して」測る
竣工検査の順序で絶縁抵抗測定の次に行う接地抵抗測定にも、見落としやすい手順がある。接地抵抗計(電位差計式)で接地極の接地抵抗を測定する前には、次の3点を確認する。
| チェック項目 | 確認すること |
|---|---|
| 地電圧の確認 | 測定対象の接地極に、測定を乱すほどの地電圧が生じていないか |
| 電池電圧の確認 | 接地抵抗計本体の電池残量が十分か |
| 検流計零位の確認 | 検流計の指針が零を示したときのダイヤル指示値を読み取る |
接地抵抗計(電位差計式)そのものの測定原理にも、見落としやすい配置のルールがある。一般に使われる電圧降下式(電位降下法)は、被測定接地極(E)に電流を流し、電位用の補助接地棒(P)と電流用の補助接地棒(C)の間に生じる電位差から抵抗値を求める測定法だ。この3本の電極は、E→P→Cの順に一直線上へ、同じ方向へおおむね5〜10m程度の間隔で打ち込む。
ISO 9000の用語 — 「起きた後」か「起きる前」かで区別する
品質管理の国際規格であるISO 9000(日本産業規格ではJIS Q 9000)には、品質マネジメントの活動を表す共通の用語が定められている。中でも紛らわしいのが、是正処置と予防処置だ。
| 用語 | 意味 | 時系列 |
|---|---|---|
| 是正処置 | すでに発生した不適合の原因を除去し、再発を防止するための処置 | 不適合が起きた「後」 |
| 予防処置 | まだ発生していない、起こりうる不適合の原因を除去する処置 | 不適合が起きる「前」 |
| トレーサビリティ | 対象の履歴、適用又は所在を追跡できること | — |
| レビュー | 目標を達成するための対象の適切性・妥当性・有効性を判定する活動 | — |
| 継続的改善 | パフォーマンスを向上するために繰り返し行われる活動 | — |
ヒストグラムの読み方 — 中央値と平均値を混同しない
竣工検査の各項目や資材の受入検査では、測定値のばらつきをヒストグラム(柱状図)で確認することがある。ヒストグラムは、測定値の範囲をいくつかの区間に区切り、各区間に入るデータの個数を棒の高さで示した図で、規格値の上限・下限を線で加えると、そこからはみ出す測定値(規格外れ)も一目で分かる。
分布の形状にも読み方がある。測定値のばらつきが特定の原因(工具の摩耗、材料のロット差など)に偏っていなければ、分布は中心付近からほぼ左右対称になるのが一般的な形だ。左右どちらかに大きく偏った分布や、山が2つに分かれた分布は、何らかの異常要因が混ざっているサインとして読み取る。ばらつきの大きさそのものは標準偏差で表され、標準偏差が大きいほど、平均から遠く離れた測定値が多く含まれていることを意味する。
離れ小島形 — 少数だからこそ、見過ごしてはいけない分布
一般形(左右対称)のほかにも、ヒストグラムにはいくつかの特徴的な形状パターンがある。その中でも見つけたときの対応を間違えやすいのが、離れ小島形だ。メインの山(大部分のデータが集まる山)からは離れた場所に、少数のデータだけがぽつんと孤立して現れる形状を指す。
離れ小島形が現れたヒストグラムをそのまま「平均値〇〇、標準偏差〇〇」と読み上げてしまうと、孤立したデータの影響で平均値そのものが引っ張られていることにも気づけない。分布の形を見て「一般形からズレていないか」を先に確認してから、平均値や標準偏差といった数値の計算に進む、という順序で読むとよい。
管理図 — 「ダイヤグラム」という似た名前の別物に注意する
ヒストグラムと並んで、品質管理でよく使われる図表に管理図がある。中心線(CL)を挟んで、上方管理限界線(UCL)と下方管理限界線(LCL)を設定し、そこに測定値を時系列でプロットして折れ線でつないでいく図だ。線が管理限界線の内側に収まっている間は「工程は安定している(偶然のばらつきの範囲内)」と判断でき、限界線をはみ出す点が現れたら「見過ごせない異常な原因が発生している」というサインとして読み取る。
試験・測定機器 — 「何を確認する機器か」で区別する
電気工事の試験・測定では、目的の異なる複数の機器を使い分ける。竣工検査で扱う絶縁抵抗計・接地抵抗計に加えて、日常の施工でもよく使う機器を整理しておく。
| 機器 | 使用目的 |
|---|---|
| 検電器 | 充電の有無の確認 |
| 検相器 | 三相動力回路の相順(U-V-W等の接続順序)の確認 |
| 接地抵抗計 | 接地極の接地抵抗の測定 |
| 絶縁抵抗計(メガー) | 電路・機器の絶縁抵抗値〔MΩ〕の測定 |
| 絶縁耐力試験器 | 高圧回路が規定の試験電圧に一定時間耐えられるか(絶縁耐力)の試験 |
| 回路計(テスタ) | 低圧回路の電圧値などの測定 |
もう一つ紛らわしいのが、絶縁抵抗計と絶縁耐力試験器だ。どちらも「絶縁」の状態を確認する機器だが、測定対象と目的が違う。絶縁抵抗計は、比較的低い電圧をかけて絶縁抵抗値〔MΩ〕という数値を読み取る試験で、いわば「健康診断」にあたる。これに対し絶縁耐力試験器は、高圧・特別高圧回路に規定の試験電圧を連続した一定時間(目安10分間)かけ続け、絶縁破壊やフラッシュオーバーが起きずに実際に耐えられるかを実証する試験で、いわば「耐久テスト」にあたる。竣工検査で高圧設備の絶縁抵抗値が良好だったとしても、それだけで絶縁耐力試験を省略してよいことにはならない。
品質管理は、次に工事を任される理由になる
品質管理をきちんと行うことは、単に検査に通るためだけの作業ではない。竣工後に何年も使われ続ける設備の記録を、施主や後続の工事業者が確認できる形で残しておくことは、電気工事会社としての信頼に直結する。「あの会社の記録はいつも整理されている」という評判は、次の工事を任されるかどうかにも関わってくる。
今日試せることとして、身近な工事の検査記録や試験成績書を見る機会があれば、そこに書かれている数値だけでなく、いつ・誰が・どの状態で測定したかという記録の残し方に注目してみるといい。合格の数字の裏に、あとから確認できるようにするための配慮が積み重なっていることが見えてくる。
この資格を取ったあと、現場で何が変わるか
取引先が「配管は仕上げ材で隠れるので、写真記録は省略して急ぎたい」と言ってきたとき、これまでは工期優先の要望をそのまま受け入れていたのが、合格後は「今のうちに記録しておかないと、数年後の改修で誰も確認できなくなります」と、検査記録の役割を根拠を持って説明できるようになる。合否だけを見る担当者から、記録が持つあとから追跡できる証拠としての価値を理解した担当者への変化だ。
竣工検査で提出された絶縁抵抗測定の記録に目を通すときも、「合格」の文字をそのまま受け取るのではなく、その検査が正しい順序(無電圧・未通電の項目を先に、通電試験を最後に)で行われているかを意識できるようになる。取引先の記録に違和感を覚えたとき、それを指摘できる立場は、単に製品を納めるだけの業者にはない役割だ。
不具合が起きたときの対応を「是正処置」なのか「まだ起きていない不具合への予防処置」なのかを時系列で区別して話せるようになると、取引先との再発防止の相談が、感覚的な「気をつけます」から、記録として残る具体的な合意に変わる。品質管理を語れる商社担当者だという評判は、次の工事の相談が最初に自社へ来る理由の一つになる。
冒頭の問い、検査には合格していたのに、なぜ配管の場所が分からなくなったのか。答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。