制御盤更新工事の現場に、こんな状況があったとする。高さ2.3mの脚立を立て、作業員が天板に足を乗せて数十秒だけ上部の結線作業をしている。脚立の開き止め金具は付いているが、ロックはされていない。少し離れた場所では、停電させたキュービクルの内部を、保護具を着用しない作業員が点検している。
この写真を見せられて「安全管理上、不備がある箇所をすべて指摘せよ」と言われたら、どこを指させるか。
このトピックを読み終えるころには、この場面のどこに何が足りないかを、条文の数字とセットで説明できるようになっている。
種明かしは、安全管理の能力問題が問うているのは法令の丸暗記ではなく、架空の現場を見て「この状況は基準のどの部分に触れているか」を判断する力だという点にある。数字(高さの境界、角度、幅)を知っているだけでは足りず、その数字が現場のどの場面に当てはまるかまで結びつける必要がある。
高さ2m — 作業床が要る境界
労働安全衛生規則第518条は、高さ2m以上の箇所(作業床の端・開口部等を除く)で作業を行う場合、墜落により労働者に危険を及ぼすおそれがあるときは、足場を組み立てるなどして作業床を設けなければならないと定めている。作業床の設置が困難なときは、防網を張るか、労働者に要求性能墜落制止用器具を使用させるなどの措置が必要になる。
墜落制止用器具 — 原則フルハーネス、6.75mは緩和の境界
墜落制止用器具は、原則としてフルハーネス型を用いる。高さ6.75mを超える箇所では、フルハーネス型の使用が義務だ。一方、6.75m以下(建設作業では5m、柱上作業では2m)に限り、墜落した際にランヤードが伸びきる前に地面へ到達するおそれが小さいとして、胴ベルト型(1本つり)の使用も認められている。
さらに、高さ2m以上で作業床の設置が困難な場所において、フルハーネス型墜落制止用器具を用いて行う作業には、特別教育の受講が義務付けられている(2019年2月1日施行)。この特別教育の対象は「高さ2m以上・作業床設置困難・フルハーネス型使用」という条件のセットであり、6.75mという上限の高さの話とは別の規定だ。冒頭の受変電室での配線作業のように、高さ2m以上で作業床がなくフルハーネス型を使う場面では、まず「作業員が特別教育を受講しているか」を確認する必要がある。
脚立 — 75度以下、開き止め金具、天板作業の禁止
労働安全衛生規則第528条は、脚立について次のように定めている。
- 丈夫な構造で、材料に著しい損傷・腐食等がないこと
- 脚と水平面との角度を75度以下とすること
- 折りたたみ式のものは、脚と水平面との角度を確実に保つための開き止め金具等を備えること
- 踏み面は作業を安全に行うために必要な面積を有すること
さらに、天板およびその直下の段(1段目)は作業禁止とされている。
また天板作業の禁止は、作業時間の長さとは無関係だ。「数十秒だけだから」という理由は、天板という足場そのものが持つ構造上の不安定さという規制の根拠とかみ合わない。天板に足を乗せている時点で、時間の長短にかかわらず不適切だと判断する。
移動はしご — 幅30cm以上とすべり止め
移動はしごは、労働安全衛生規則第527条により、丈夫な構造で、材料に著しい損傷・腐食等がなく、幅30cm以上とし、すべり止め装置の取付けその他転位を防止するために必要な措置を講じたものでなければならない。幅の基準とすべり止めの措置は、どちらか一方を満たせばよいわけではなく、両方が求められる。
感電防止 — 絶縁用保護具と、停電作業でも残るリスク
充電電路に近接する場所で電気工事を行う場合、労働者が充電部に接触するおそれがあるときは、事業者は充電電路に絶縁用防具を装着しなければならない(労働安全衛生規則第347条)。労働者の側にも、事業者から絶縁用保護具の着用や活線作業用器具・活線作業用装置の使用を命じられたときは、これに従う義務がある。
停電させても油断できない ― 残留電荷と作業主任者の要否
高さや充電部の話に加えて、能力問題では「停電させた後の措置」と「作業主任者を選任すべきかどうか」という、条件を数えて判断する2つの論点も出題される。
明り掘削の現場 — 点検周期と昇降設備は「感覚」ではなく数字で判断する
基礎工事や配管の埋設で行う明り掘削の現場でも、作業主任者の要否とは別に、能力問題で条件を数えさせる論点がある。
玉掛け業務の資格 — 判断基準はクレーンの能力、荷物の重さではない
高さや作業主任者の要否と並んで、能力問題では玉掛け業務の資格要否も、条件を数えて判断させる題材になる。玉掛け業務に必要な資格は、使用するクレーン等の吊り上げ荷重(そのクレーンが吊り上げられる能力の上限)で区分される。吊り上げ荷重1t以上のクレーン等の玉掛け業務には玉掛け技能講習の修了者を、1t未満であれば玉掛けの業務に係る特別教育の修了者を就かせる。
冒頭のシナリオを読み解く
ここまでの内容を、冒頭の架空シナリオに当てはめてみる。
- 脚立の天板に足を乗せている → 天板作業の禁止に抵触。作業時間が数十秒であっても不適切
- 開き止め金具がロックされていない → 脚が不意に閉じる危険があり、金具の有無だけでなくロック状態を確認する必要がある
- 停電させたキュービクル内部を保護具なしで点検 → 停電作業でも検電・絶縁用防具の装着といった感電防止措置は別途必要
この資格を取ったあと、現場で何が変わるか
資材や機器を届けに現場へ入ったとき、これまでは「なんとなく危なそうだな」で終わっていた光景が、合格後は具体的な指摘に変わる。脚立の天板に足を乗せて作業している職人を見かけたら、「天板作業は時間の長短にかかわらず禁止されています」と、根拠のある一言を添えられるようになる。危険を漠然と感じるだけの立場から、何が・どの規定に抵触しているかを言語化できる立場への転換だ。
停電させたキュービクルのそばで保護具を着けずに作業している場面に出くわしたときも、「停電させただけでは、残留電荷の放電や検電はまだ済んでいませんよね」と、具体的な措置の抜けを指摘できる。これは現場の作業員を責めるためではなく、資材を届ける側として一緒に現場の安全を守る姿勢の表れであり、こうしたやり取りの積み重ねが、単なる納品業者以上の信頼につながる。
高さ2m、6.75m、脚立の角度75度といった数字を、条文と結びつけて具体的に説明できるようになると、自社内での安全教育や、若手社員への現場同行時の指導でも説得力が増す。「危ないから気をつけて」ではなく「この作業は施行令のこの基準に触れている」と言える人材は、電材商社の中でも一段信頼される立場になっていく。