工場の受変電設備を更新する工事で、施工管理者が発注者から「来月頭には着工してほしい」と頼まれた。届出書類はすでに準備できている。だが、いざ工程表を組もうとすると、先輩から「その日程では間に合わないかもしれない」と指摘される。届出は済ませているのに、なぜ間に合わない可能性があるのか。
見当がつかなくて当然だ。このトピックを読み終えるころには、電気事業法が施工管理者の工程管理にどう影響するかを、自分で説明できるようになっている。
電気事業法は、電気工作物の保安に関する規定を定めた法律だ。電験三種や電気工事士向けのコンテンツでは電気主任技術者の視点を中心に扱っているが、ここでは施工管理者がこの法律とどう関わるかという視点で整理する。
「電気工作物」とは何か — ダムや水路も含まれる、意外と広い定義
区分の話に入る前に、そもそも「電気工作物」という言葉が何を指すのかを確認しておく。電気事業法2条1項18号は、電気工作物を「発電、蓄電、変電、送電若しくは配電又は電気の使用のために設置する機械、器具、ダム、水路、貯水池、電線路その他の工作物」と定義している。ただし、船舶・車両又は航空機に設置されるものその他政令で定めるものは除かれる。
電気工作物の区分 — その現場はどこに当たるか
電気工作物は、まず一般用電気工作物と事業用電気工作物に大別される(電気事業法38条)。事業用電気工作物はさらに、電気事業の用に供する電気工作物と、自家用電気工作物(電力会社から高圧以上の電圧で受電する需要設備など)に分かれる。加えて、出力の小さい太陽電池発電設備・風力発電設備は、自家用電気工作物のうち規模の小さいものとして小規模事業用電気工作物に区分され、後述する保安規程・主任技術者の義務が軽減されている。
太陽電池発電設備のように出力が小さい設備では、「小規模事業用電気工作物」に当たる出力の範囲を具体的に押さえておくと、現場でどの区分の保安義務が生じるかを判断しやすい。低圧で受電している需要設備の構内に単独で設置する太陽電池発電設備の場合、出力10kW以上のものが小規模事業用電気工作物として区分される対象になる(38条3項、電気事業法施行規則48条4項)。低圧で受電できる出力には実務上の上限があり、太陽電池発電設備では出力50kW未満がその目安になるため、「10kW以上50kW未満」が典型的な小規模事業用電気工作物の範囲として扱われる。
出力の帯とは別に、そもそも一般用電気工作物として扱われるための電圧の要件もある。38条1項ただし書は、一般用電気工作物の対象となる「小規模発電設備」を、低圧(経済産業省令で定める電圧以下の電圧)の電気に係る発電用の電気工作物と定義している。この経済産業省令で定める電圧は、電気事業法施行規則48条1項により600ボルトと定められている。
設置者の義務 — 施工管理者はこの義務の「外」にいるが、「無関係」ではない
事業用電気工作物を設置する者は、これを主務省令で定める技術基準に適合するように維持しなければならない(39条1項)。これに加え、事業用電気工作物(小規模事業用電気工作物を除く)の設置者は、保安規程を定めて主務大臣に届け出る義務(42条1項)と、主任技術者免状の交付を受けている者から主任技術者を選任する義務(43条1項)を負う。
保安規程には、具体的に何を書けばよいのか。一般の自家用電気工作物であれば、電気事業法施行規則50条3項に9項目が列挙されている。(1)業務管理者の職務及び組織、(2)保安教育、(3)巡視・点検及び検査、(4)運転又は操作、(5)発電所・蓄電所の運転を相当期間停止する場合の保全方法、(6)災害等非常時に採るべき措置、(7)保安についての記録、(8)法定自主検査等の実施体制及び記録の保存、(9)その他保安に関し必要な事項だ。
43条1項は「主任技術者免状の交付を受けている者」から選任するのが原則だが、43条2項には例外がある。自家用電気工作物(小規模事業用電気工作物を除く)を設置する者は、主務大臣の許可を受ければ、免状の交付を受けていない者を主任技術者として選任することができる。免状を持つ技術者の確保が難しい小規模な自家用施設向けの救済的な仕組みだが、あくまで主務大臣の許可という手続きを経て初めて認められるものであり、設置者の独断で無資格者を選任できるわけではない。
ここまでは自家用電気工作物側の話だが、一般家庭のような一般用電気工作物の側にも、技術基準への適合を確認する仕組みがある。ただし、その調査義務を負うのは一般用電気工作物の所有者自身ではない。電気事業法57条1項は、一般用電気工作物と直接に電気的に接続する電線路を維持し、及び運用する者(電線路維持運用者。実務上は一般送配電事業者等)に、その一般用電気工作物が技術基準に適合しているかどうかを調査する義務を課している。調査の結果、技術基準に適合していないと認めるときは、電線路維持運用者は遅滞なく、とるべき措置とその措置をとらなかった場合に生ずる結果を、所有者又は占有者に通知しなければならない(57条2項)。
工事計画の届出 — 着工日を工程表に落とし込む前に確認すること
事業用電気工作物の設置・変更の工事のうち、主務省令で定めるものをしようとする者は、その工事の計画を主務大臣に届け出なければならない。そして、届出が受理された日から30日を経過するまでは、その工事に着手できない(48条)。
対象になる工事の範囲は主務省令の別表に細かく定められており、受変電設備の新設・増設や、一定規模以上の設備変更など、現場で扱う電気工事の多くが関係してくる。個々の工事が届出対象に当たるかどうかは、その都度、主務省令の該当条項で確認する必要がある。
事故が起きたときの報告 — 提出先は都道府県知事ではない
工事計画の届出とは別に、施工管理者が知っておきたいのが事故発生時の報告義務だ。自家用電気工作物を設置する者は、感電により人が死傷した事故(死亡又は入院に限る)や、半焼以上の電気火災事故などが発生したときは、電気関係報告規則3条に基づき報告書を提出しなければならない。
電気主任技術者と施工管理者 — 「主任技術者」という同じ呼び名の、別の役割
現場で気をつけたいのが、電気事業法上の主任技術者(電気主任技術者)と、建設業法上の主任技術者(施工管理者)の違いだ。名前は似ているが、根拠法令も役割もまったく異なる。
| 電気事業法上の主任技術者 | 建設業法上の主任技術者 | |
|---|---|---|
| 役割 | 事業用電気工作物の保安の監督 | 工事現場における施工の技術上の管理 |
| 選任・設置する者 | 電気工作物の設置者 | 建設業者 |
| 免状・資格 | 電気主任技術者免状(経済産業大臣系) | 施工管理技士等(建設業法7条2号等) |
電気事業法43条5項は、事業用電気工作物の工事・維持又は運用に従事する者は、電気主任技術者がその保安のためにする指示に従わなければならないと定めている。施工管理者もこの「工事に従事する者」に含まれるため、電気主任技術者から作業の中止や手順の変更を指示されれば、それに従う必要がある。
主任技術者免状の種類と監督範囲 — 電圧の上限は免状ごとに違う
現場に選任されている電気主任技術者は、誰でも同じ範囲の設備を監督できるわけではない。電気事業法44条5項は、主任技術者免状の交付を受けている者が保安について監督をすることができる事業用電気工作物の工事、維持及び運用の範囲を、経済産業省令で定めると規定している。この委任を受けた電気事業法施行規則56条が、免状の種類ごとに監督範囲を具体的に定めている。
| 主任技術者免状の種類 | 保安の監督をすることができる範囲 |
|---|---|
| 第一種電気主任技術者免状 | 事業用電気工作物の工事、維持及び運用(ダム水路・ボイラータービン関係を除く) |
| 第二種電気主任技術者免状 | 電圧17万ボルト未満の事業用電気工作物 |
| 第三種電気主任技術者免状 | 電圧5万ボルト未満の事業用電気工作物(出力5,000kW以上の発電所又は蓄電所を除く) |
ここでもう1つ見落としやすいのが、第三種電気主任技術者免状の監督範囲に付いているかっこ書きの除外だ。「電圧5万ボルト未満」という条件だけを満たしていても、出力5,000kW以上の発電所又は蓄電所は、この監督範囲から除かれている。電圧が低くても出力の大きい発電所・蓄電所は、第三種電気主任技術者の手に余る規模として扱われる、という趣旨だ。
施工管理者にとってこの区分が意味を持つのは、現場に選任されている電気主任技術者が、その現場の設備規模に見合った免状を持っているかどうかを、間接的にでも把握しておく必要がある場面だ。受変電設備の電圧・発電設備の出力を見たときに、「この規模なら第三種で足りるはずだ」「この規模には第二種以上が必要になる」という見当がつけば、現場の保安体制に対する解像度が上がる。
電材商社の現場で、この関わり方がどう効いてくるか
受変電設備の更新提案をするとき、その工事が工事計画の届出を必要とする規模かどうかを早い段階で意識できると、発注者側の着工希望日と実際に着工可能な日のギャップを、提案の段階から説明できるようになる。届出の要否や30日の待機期間を知らずに納期を約束してしまうと、後から工程全体を組み直す事態になりかねない。
この資格を取ったあと、現場で何が変わるか
この資格を取ったあと、受変電設備の更新提案をするとき、あなたは「発注者の希望する着工日」から逆算して、工事計画の届出をいつまでに提出し終えていなければならないかを、自分で計算できるようになる。届出が受理された日から30日を経過するまでは着工できないという規定を知らずに納期を約束してしまう先輩を、「その日程では届出の待機期間が足りません」と指摘して止められる立場に変わる。
現場で電気主任技術者から作業の中止や手順の変更を指示されたとき、それが電気事業法43条5項に基づく正当な指示だと理解しているからこそ、感情的に反発するのではなく、保安の監督者としての電気主任技術者と、施工の技術上の管理者としての自分の役割分担を踏まえて対応できる。「主任技術者」という同じ呼び名の2つの資格を混同せず、それぞれの指示系統の中で動ける施工管理者になる。
電材商社との関係でも、太陽電池発電設備の提案をする場面で「この出力なら小規模事業用電気工作物の範囲に収まるので、保安規程や主任技術者の選任までは不要です」といった、電気事業法の区分を踏まえた具体的な提案ができるようになる。届出や保安体制の負担まで見据えた提案は、発注者にとって工事費以外の判断材料としても価値を持つ。
冒頭の工程表がなぜ間に合わない可能性があったのか。答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。