ある工事のネットワーク工程表を見せられ、「この経路がクリティカルパスです」と説明された。線がいくつも交差していて、どの経路が本当に工期を決めているのか、見た目だけではまったく判断がつかない。
なのに、担当者はその1本の経路を迷いなく指さしている。何を計算すれば、あの1本を特定できるのか。
見当がつかなくて当然だ。このトピックを読み終えるころには、同じ計算を自分の手でゼロから再現できるようになっている。
ネットワーク工程表は、作業と作業の前後関係(依存関係)を、線でつないで表現する工程表だ。バーチャート工程表が「いつ、何をやるか」を示すのに対し、ネットワーク工程表は「どの作業が終わらないと、次のどの作業が始められないか」という順序の構造を明示する。使う部品は3つだけだ。
| 部品 | 表し方 | 意味 |
|---|---|---|
| 結合点(イベント) | ○(丸) | ある作業の完了・次の作業の開始という「時点」 |
| 作業(アクティビティ) | →(実線の矢印、日数を添える) | 実際に日数がかかる作業そのもの |
| ダミー作業 | ⇢(破線の矢印、日数はゼロ) | 実際の作業を伴わない、前後関係だけを示すための仮想の矢印 |
ダミー作業が必要になるのは、「作業Xは作業PとQの両方が終わってから始まるが、PとQの間には直接の関係がない」というような、複数の作業の依存関係を、実際には存在しない矢印を使ってでも正確に表現しなければならない場面だ。日数はゼロだが、前後関係の表現としては実線の作業とまったく同じ扱いを受ける。
自作の数値例で、最初から最後まで計算する
言葉の定義だけでは実感が湧きにくいので、次の自作の数値例で、最早開始時刻(EST)・最遅完了時刻(LFT)・フロートを順番に計算してみる。
条件は、①→②が作業A(4日)、②→④が作業C(3日)、①→③が作業B(2日)、③→④が作業D(4日)、④→⑤が作業E(2日)。
順行計算(EST) は、始点①から日数を足しながら進める。②のESTは①のEST(0日)+A(4日)=4日。③のESTは①のEST(0日)+B(2日)=2日。ここまでは単純な足し算だ。
問題は④のように、複数の経路が合流する結合点だ。②を経由する経路は4日+C(3日)=7日。③を経由する経路は2日+D(4日)=6日。④は両方の経路の作業が終わっていなければ次のE(④→⑤)を始められない。だから④のESTは、遅い方(最大値)の7日を採用する。⑤のESTはそこにE(2日)を足した9日——これが工事全体の総所要日数になる。
合流点のESTで「最大値」を選ぶ理由は単純だ。すべての経路の作業が終わっていなければ、次の作業には進めない。 早く着いた経路がどれだけ待っていても、いちばん遅い経路が追いつくまで、合流点そのものは動かせない。「最早」という言葉に引きずられて最小値を選んでしまうと、まだ終わっていない作業を無視して先に進めることになり、計算が壊れる。
逆算(LFT) は、終点⑤から手前に向かって、日数を引きながら戻る。工事全体の総所要日数(9日)がそのまま⑤のLFTになる。④のLFTは⑤のLFT(9日)-E(2日)=7日。ここから②と③に向けて枝分かれする。②のLFTは④のLFT(7日)-C(3日)=4日。③のLFTは④のLFT(7日)-D(4日)=3日。
もし①のように複数の作業が枝分かれする結合点であれば、LFTは分岐先のうち最も早く出発しなければならない経路(最小値)に合わせる。今回の①は始点なのでLFTは0日で確定するが、この「分岐点は最小値」という考え方は、逆算のたびに使う基本ルールになる。
フロートを計算し、クリティカルパスを見つける
フロート(余裕時間)は「後続の結合点のLFT-その作業の開始点のEST-作業日数」で求める。
- 作業A:LFT(②)-EST(①)-A=4-0-4=0日
- 作業C:LFT(④)-EST(②)-C=7-4-3=0日
- 作業E:LFT(⑤)-EST(④)-E=9-7-2=0日
- 作業B:LFT(③)-EST(①)-B=3-0-2=1日
- 作業D:LFT(④)-EST(③)-D=7-2-4=1日
フロートがゼロの作業(A・C・E)をつないだ経路——①→②→④→⑤——が、この工程表のクリティカルパスだ。総所要日数9日は、このA・C・Eの合計(4+3+2)にぴったり一致する。一方、B・Dの経路には1日のフロートがある。これは「B・Dの経路は、1日までの遅れなら工事全体の工期に影響しない」という意味であって、B・Dを軽視してよいという意味ではない。1日を超えて遅れれば、その経路が新たに工期を左右する経路に変わる。
工程管理は「見直し続けるもの」— まとめて処理は後手に回る
ここまでの計算は、いわば工程表を「作る」ための手順だった。だが実際の現場では、工程表は一度作って終わりではなく、進捗や関係業者の変更を踏まえて随時見直し続けるものだ。
各作業の開始日を決めるときも、単純に「前の作業が終わったら次を始める」という順行の発想だけでなく、施工完了予定日(工期のゴール)から所要期間を逆算して、いつまでに着手しなければならないかを決めるという発想が使われる。これは、このトピックで計算した最遅完了時刻(LFT)を終点から逆算して求める考え方と、まったく同じ発想だ。工程表の計算とは無縁に見える「現場の運用ルール」も、突き詰めればネットワーク工程表の順行・逆算の考え方に支えられている。
TBM(安全朝礼)は、工期短縮の効果を予測する道具ではない
工程管理の基本方針として、常にクリティカルな工程を把握して重点的に管理すること、屋外工事の工程は天候不順などを考慮してあらかじめ余裕をもたせること、工程が変更になった場合は速やかに作業員や関係者へ周知徹底することは、いずれも欠かせない。
ここに、ツールボックスミーティング(TBM)を紛れ込ませる出題がある。TBMは、安全管理の基礎のトピックで見たとおり、作業前に短時間で行う安全朝礼で、その日の作業内容・危険箇所・安全対策を共有する場だ。「現場の打ち合わせ」という共通点から、作業改善によって工期がどれだけ短縮できるかを予測・分析する場としても使えそうに見えるが、それは誤りだ。TBMはあくまで安全管理のための場であり、工期短縮の効果を数値で予測する手法ではない。作業改善の効果を検討したいときは、このトピックで扱ったフロートの計算や、工期とコストの関係のトピックで見た直接費・間接費の増減を根拠にする。
ネットワーク工程表が「苦手」なこと — 進行度合いの把握はバーチャートに軍配
ここまで見てきたように、ネットワーク工程表は依存関係・フロート・クリティカルパスの把握に強い。だからといって、工程管理に関するあらゆる長所を独占しているわけではない。
ネットワーク工程表には、各作業が『今どこまで進んでいるか』という進行度合い(達成率)を、パッと見て把握しにくいという弱点がある。矢印と結合点の集まりからは、作業の前後関係や日数の計算はできても、「この作業は今70%終わっている」といった達成度は読み取れない。この役割はむしろ、横棒の長さや塗りつぶし具合で進捗率を示すバーチャート工程表・ガントチャートが得意とする。「ネットワーク工程表は工程管理に優れた表だから、進捗の把握も得意なはずだ」という連想は成り立たない。依存関係に強いネットワーク、進捗の見た目に強いバーチャート・ガントチャート、という役割分担で覚え直す必要がある。
クリティカルパスが分かると、どこに人を集めるべきかが分かる
工期が読めなくなったとき、現場でまず確認すべきなのは「今、遅れているのはクリティカルパス上の作業か、そうでないか」だ。フロートのある作業がいくら遅れても、その日数がフロートの範囲内であれば、全体の工期には響かない。逆にクリティカルパス上の作業が1日でも遅れれば、それはそのまま工事全体の遅延になる。限られた人員や資材をどこに優先して投入すべきかを判断するとき、この計算が唯一の物差しになる。
なお、クリティカルパス上の遅れを取り戻すために人員・機械を追加投入すべきかどうかは、日数の計算だけでは決まらない。追加投入は直接工事費を増やす判断でもあるため、その工期がすでに総費用の観点で「これ以上急いでも損になる」領域に入っていないかを、工期とコストの関係のトピックであわせて確認する価値がある。
今日試せることとして、簡単な作業の組み合わせ(例えば「準備2日→設置3日→試験1日」のような一本道の流れ)を思い浮かべ、途中に並行して進む作業を1つ加えてみるといい。その並行作業に何日の余裕があるかを自分で計算してみると、フロートという概念が一気に具体的になる。
この資格を取ったあと、現場で何が変わるか
取引先から「発注したケーブルの入荷が2日遅れそうだ」と連絡が来たとき、これまでは謝罪してとにかく急ぐしかなかったのが、合格後は「その作業はクリティカルパス上ですか、それとも他の作業を待っている間の余裕(フロート)がありますか」と現場監督に確認できるようになる。フロートの範囲内なら過度な特急対応は不要だと分かり、逆にクリティカルパス上だと分かれば、社内の在庫や別ルートの調達を最優先で動かす判断が即座にできる。
これは、遅延連絡を受けるたびに一律で謝って終わる担当者から、遅延の重み付けを自分で判断できる担当者への変化だ。取引先にとっても、「この納品はフロートに余裕があるので大丈夫です」と根拠を持って言い切れる相手は、単に納期を守る業者ではなく、工程全体を理解して動いてくれるパートナーとして扱われるようになる。
さらに、複数の現場の納品予定が重なったとき、どの現場のどの資材がクリティカルパス上にあるかを意識して優先順位をつけられるようになると、限られた在庫や配送リソースをどこに振り向けるべきかの判断が、感覚ではなく計算に基づいたものになる。この判断力は、営業担当としての信頼だけでなく、社内での在庫管理や配送計画の場面でも生きてくる。
冒頭の問い、担当者が迷いなく指さしていた1本の経路は、どうやって特定されたのか。答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。