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配電盤の母線(バスバー)に施す相識別塗色・マーキングとは|電線の色分けとは別に、裸の導体を塗り分ける理由

・ 読了目安: 11分 ・ 編集: 電材サーチ編集部(編集・出典ポリシー)

キュービクルの扉を開けた瞬間、目に入ったのは銅色の板が三枚、行儀よく並んだ姿だった。増設する分岐開閉器をどの相につなぐか、図面には「第2相へ接続」とだけ書いてある。しかし目の前の母線はどれも同じ赤茶けた銅色で、板を眺めているだけでは第1相と第2相の区別がつかない。かつて誰かが吹き付けたはずの識別塗料は、何年もの熱と埃にさらされて、色というより染みに近い状態まで薄れていた。結局、検相器を持ち出し、テスタで一本ずつ電圧の位相を確かめる羽目になり、予定していた増設作業は30分以上足止めを食った。

電線であれば、こういう足止めは起きにくい。被覆そのものに色がついているから、テスタを当てる前から赤・白・青のおおよその見当がつく。母線という裸の導体には、その色がそもそも存在しない。何もしなければ、銅もアルミも同じ地の色のまま並ぶだけだ。この一点の違いが、電線の色分けとは別に、バスバー自体に色を塗る作業をわざわざ発生させている理由になる。

なお、電材サーチにはバスバーの許容電流・材質選定を扱う記事と、制御盤内配線の被覆色分けルールを扱う記事がすでにある。前者はバスバーという部材そのものの太さ・材質の選び方、後者は電線という被覆をまとった導体の色の話だ。ここで扱うのは、その中間にある盲点——被覆を持たない裸の導体そのものに、誰かが後から色をつけるという識別手法——に絞る。

なぜバスバー自体に相識別が必要なのか——「色がある」電線と「色がない」母線

電線の被覆色は、製造された時点ですでに決まっている。赤い被覆のIV線は、工場を出た瞬間から赤い。この「最初から色がついている」という性質のおかげで、電線は色分けの規格さえ守れば、あとは何もしなくても識別機能を持ち続ける。

母線は違う。銅帯にせよアルミ帯にせよ、地の色は素材そのものの色でしかなく、相によって変わることはない。3本並んだ母線を眺めても、そこにあるのは同じ金属光沢が3枚並んでいるという事実だけだ。相を区別する情報は、母線という物体そのものには備わっていない。誰かが後から手を動かして色を足すまでは、無地のままだ。

この違いは、些細なようでいて識別作業の性格を変える。電線の色分けは「規格に沿って製造する」ことで完結するのに対し、母線の相識別は「施工段階で人が手を動かして色をつける」という作業を、規格とは別にもう一段挟まなければ成立しない。電線の色分けルールを知っているだけでは、母線の相識別は語れない理由がここにある。

相識別の方法——テープ・塗装・スリーブ

裸の母線に色を与える方法は、大きく分けて三つある。色付きの絶縁テープを巻く、耐候性の塗料やペイントマーカーで着色する、色分けされた熱収縮チューブ(スリーブ)を被せて熱で収縮させる、という手法だ。

国土交通省大臣官房官庁営繕部の「公共建築工事標準仕様書(電気設備工事編)」は、分電盤・制御盤の主回路導体について、色別された絶縁電線を用いる場合を除き、「その端部又は一部に色別を施す」ことを求めている。裏を返せば、母線という裸導体を使う限り、色別された絶縁電線という「最初から色がついている」選択肢は取れないため、端部か一部にあとから色を施す作業が必ず発生するという構造になっている。同仕様書はまた、銅帯には「被覆、塗装、めっき等による酸化防止の処置」を施すことも定めており、母線の表面には酸化を防ぐための処理と、相を識別させるための色分けという、目的の異なる二つの加工が重なっていることになる。

一般的な色の割り当て——電線色分けとの対応関係

では、実際にどの相に何色が割り当てられるのか。日本電機工業会(JEMA)が定めるJEM1134「配電盤・制御盤の交流の相又は直流の極性による器具及び導体の配置及び色別」は、1958年に制定され、2017年に最新改正を受けた規格で、配電盤・制御盤内の器具・導体の配置と色分けを扱う。ただしJEMAの規格ページで確認できるのは規格名称と制定・改正日までで、配色の中身は規格本文(有償頒布)を見ないと分からない。したがって以下では、誰でも参照できる公的な仕様書——国土交通省の公共建築工事標準仕様書と、独立行政法人水資源機構の高圧受変電設備標準仕様書——が実際に定めている表を基準に見ていく。

公共建築工事標準仕様書(令和7年版)の表1.7.5「導体の配置と色別」は、三相3線式について赤=第1相、白=接地側の第2相、黒=非接地の第2相、青=第3相と定めている。水資源機構の高圧受変電設備標準仕様書の表-6も、高圧・低圧いずれの三相3線式についても赤=第1相・白=第2相・青=第3相としており、三相3線式に関しては両者の配色が一致する。母線の相識別で「赤・白・青」がまず思い浮かぶのは、この一致に支えられている。

ただし、そろっているのは三相3線式までだ。三相4線式になると、同じ公的仕様書の間でも色の割り当てが食い違う。公共建築工事標準仕様書の表1.7.5は、三相4線式を赤=第1相・黒=第2相・青=第3相・白=中性相としている。一方、水資源機構の表-6は、三相4線式を赤=第1相・白=第2相・青=第3相・黒=中性相としており、第2相と中性相の色がそっくり入れ替わっている。どちらも公的な標準仕様書でありながら、白と黒の役割が逆になっているわけだ。三相4線式の母線で白や黒のマーキングを見つけたとき、「白だから中性相」「黒だから中性相」とどちらの方向にも即断できないことになる。この場合こそ、盤の設計図・竣工図でどちらの仕様書に準拠しているかを確認するしかない。

ここで思い出したいのが、姉妹記事で扱った電線被覆の色分けだ。制御盤内配線では黒=主回路、赤=交流制御回路、青=直流制御回路という配色が語られていた。母線の相識別色(赤・白・青=第1相・第2相・第3相)と、盤内配線の回路種別色(黒・赤・青=主回路・交流制御・直流制御)は、同じ「赤」「青」という色を使っていても、指している対象がまったく別だ。母線の赤は主回路の「相」を、盤内配線の赤は回路の「種別」を示す。同じ盤の中に両方の色分けが同居する以上、この二つを混同しないことが、色を読み解く側の最低条件になる。

もっとも、この配色を「全国共通の決まり」だと思い込むのは早計だ。東光高岳の技術情報誌が紹介する電力会社ごとの相表示の一覧を見ると、東京電力は黒=第1相・赤=第2相・白=第3相、中部電力は青=第1相・白=第2相・赤=第3相というように、電力会社ごとに配色がまったく異なっている。JEM1134や公共建築工事標準仕様書が示す「赤・白・青」は盤内の一般的な目安であって、特別高圧から低圧まで法令で一律に強制されている配色ではない。同誌が引用する発変電規程(JEAG)も、「特別高圧母線及び高圧母線にはその見やすい箇所に相別の表示を行うことが望ましい」と述べるにとどまり、具体的な色や記号までは規定化していないとされる。望ましい、であって、義務ではない。

識別の位置・頻度——どこに、どれだけ施すか

色を「どこに」施すかにも考え方がある。公共建築工事標準仕様書が求めるのは「端部又は一部」への色別であり、母線全長を塗り分けることまでは求めていない。実務上は、接続部の近く——ボルト締結部や分岐バーとの接合部の手前——に色を集中させておくのが基本になる。作業者が手を伸ばす場所、目視で確認する場所に色があってこそ、識別としての意味を持つからだ。

長い母線が盤内を横断する場合には、一定間隔ごとに同じ色を繰り返し施しておく設計も見られる。端の一箇所だけに色があっても、盤の奥まで手を伸ばした先でその色が視界に入るとは限らない。識別は「どこかにある」ことより、「今見ている場所にある」ことの方が実務上は効く。

識別が失われる要因——経年による色あせと粉じん

色は、施した瞬間から劣化が始まる。メッキ.comの解説が指摘するとおり、無処理の銅は酸化・硫化によって変色し、地の色そのものが茶色から黒っぽい色へと変わっていく。この地色の変化は、その上に施された識別色との境界をあいまいにし、離れた位置からの視認性を落とす一因になると考えられる。

盤内という環境も、色にとって穏やかではない。母線は通電すればわずかに発熱し、周囲との温度差から盤内にわずかな空気の動きが生まれやすい。そこに乗って舞い込む粉じんが、時間をかけて色の上にうっすらと積もっていく——という経路も、盤の粉じん・清掃に関する一般的な知見からは十分にありうる話だ。塗料やテープの色そのものが色あせるだけでなく、その上を覆う粉じんの層が、色をさらに読み取りにくくする方向に働く。

冒頭のキュービクルで起きていたのも、まさにこの劣化だった。何年も前に誰かが吹き付けた識別塗料は、酸化と粉じんの両方に長年さらされ、色というより染みに近い状態まで後退していた。識別色は一度施せば恒久的に機能し続けるわけではなく、点検のたびに「まだ読み取れる状態か」を確認する対象として扱う必要がある。

改修・増設時に相順を誤認するリスク

識別色が薄れた状態で改修や増設を行うと、次に待っているのは相順の誤認という、もう一段重い問題だ。パナソニックのTERASU辞書は、三相の動力回路はR相・S相・T相の順番によって相回転が変わり、正相なら正回転、逆相なら逆回転すると整理したうえで、逆相で接続すると動作しない場合があり、故障の原因にもなるとしている。

もっとも、逆相接続で何が起きるかは負荷側によって違う。荏原製作所の片吸込うず巻ポンプS型の取扱説明書は、三相電源で逆回転になっていた場合は三相のうち二相の結線を入れ替えて正回転にするよう求め、逆回転のまま運転すると振動などにより羽根車ナットやボルトがゆるみ、事故につながる恐れがあると注記している。同書の「故障の原因と対策」表で「回転方向が逆である」が挙げられているのは、規定吐出し量が出ない場合と運転音が大きい場合であって、過負荷(過電流)の原因欄には入っていない。逆相=ただちに過電流や巻線焼損、という単純な図式で覚えるのではなく、その負荷が逆回転でどう振る舞うかを機器の取扱説明書で確認する、というのが実務上の順序になる。

識別色を頼りに「たぶんこの色が第2相だろう」という思い込みだけで結線し直すと、色あせで本来の色を見誤っていた場合、この逆相接続がそのまま起きてしまう。対策になるのが、結線後に検相器を使い、電源を実際に投入する前に相回転の順序を測定機器で確認するという手順だ。TERASU辞書によれば、検相器は三相3線式配線の相順が正相かどうか、欠相していないかを測定でき、接触型と非接触型がある。同辞書は高圧受電設備工事について、引込ケーブルや変圧器、低圧ブレーカを取り替える際には事前に現場の相回転を確認しておく必要があるとも述べている。色は最初の当たりをつけるための手がかりに過ぎず、最終判断は計測器に委ねる——この原則は、電線の色分けについて姉妹記事で述べたことと、実はまったく同じ形をしている。色あせた母線を前にしたときこそ、この原則を思い出す価値がある。

よくある質問

バスバー(母線)に相識別の色を塗るのは、電線の色分けと同じルールですか?

いいえ、対象が異なります。電線は被覆に最初から色がついているため、JIS等の色分け規格に沿って製造すればそれで識別が完結します。一方、母線は銅帯やアルミ帯という裸の導体であり、地の色は相によって変わりません。日本電機工業会のJEM1134「配電盤・制御盤の交流の相又は直流の極性による器具及び導体の配置及び色別」や、国土交通省の公共建築工事標準仕様書が定めているのは、この裸の導体に対して施工段階で後から色を足すための規定であり、電線被覆の色分け(JIS C 0446等)とは対象そのものが別物です。

母線の相識別には、一般的にどんな色が使われますか?

三相3線式については、国土交通省の公共建築工事標準仕様書(表1.7.5)も独立行政法人水資源機構の高圧受変電設備標準仕様書(表-6)も、第1相=赤・第2相=白・第3相=青で一致しています。ただし三相4線式では両者が食い違い、公共建築工事標準仕様書は第2相=黒・中性相=白、水資源機構の仕様書は第2相=白・中性相=黒としています。さらに法令で一律に強制された配色ではなく、電力会社ごとに独自の相表示を採用している実例も確認されているため、盤の設計図・竣工図に記載された配色を現場ごとに必ず確認することが前提になります。

母線に色をつける方法にはどんなものがありますか?

色付きの絶縁テープを巻く方法、耐候性の塗料やペイントマーカーで着色する方法、色分けされた熱収縮チューブ(スリーブ)を被せて熱で収縮させる方法などがあります。国土交通省の公共建築工事標準仕様書は、色別された絶縁電線を用いない場合、母線の端部または一部に色別を施すことを求めており、母線全体を塗り分けることまでは求めていません。接続部の近くなど、作業者が実際に目視・作業する箇所に色を集中させるのが実務上の基本です。

母線の識別色が薄れていたら、どう対応すればいいですか?

識別色は経年で酸化・変色し、盤内に舞い込む粉じんによってさらに読み取りにくくなります。色だけを頼りに結線作業を進めるのは危険で、特に改修・増設で相順を入れ替える可能性がある作業では、結線後に検相器(フェーズチェッカー)を用いて実際の相回転の順序を確認することが基本です。色あせが進んでいる母線を見つけた場合は、点検記録に残した上で識別色の塗り直しを検討してください。

相順を間違えて接続すると、何が起きますか?

三相の接続順序が本来と逆になると、パナソニックのTERASU辞書が説明するとおり、正相なら正回転するモーターが逆回転します。その先で何が起きるかは負荷によって違います。荏原製作所の片吸込うず巻ポンプS型の取扱説明書は、逆回転のまま運転すると振動などにより羽根車ナットやボルトがゆるみ事故につながる恐れがあるとし、故障対策表では「回転方向が逆である」を規定吐出し量が出ない場合・運転音が大きい場合の原因として挙げています(過負荷(過電流)の原因欄には入っていません)。逆相=ただちに過電流という決めつけではなく、機器の取扱説明書で逆回転時の挙動を確認するのが順序です。改修や増設で母線への接続をやり直す際は、識別色だけに頼らず、検相器による確認を必ず行ってください。

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よくある質問

バスバー(母線)に相識別の色を塗るのは、電線の色分けと同じルールですか?

いいえ、対象が異なります。電線は被覆に最初から色がついているため、JIS等の色分け規格に沿って製造すればそれで識別が完結します。一方、母線は銅帯やアルミ帯という裸の導体であり、地の色は相によって変わりません。日本電機工業会のJEM1134「配電盤・制御盤の交流の相又は直流の極性による器具及び導体の配置及び色別」や、国土交通省の公共建築工事標準仕様書が定めているのは、この裸の導体に対して施工段階で後から色を足すための規定であり、電線被覆の色分け(JIS C 0446等)とは対象そのものが別物です。

母線の相識別には、一般的にどんな色が使われますか?

三相3線式については、国土交通省の公共建築工事標準仕様書(表1.7.5)も独立行政法人水資源機構の高圧受変電設備標準仕様書(表-6)も、第1相=赤・第2相=白・第3相=青で一致しています。ただし三相4線式では両者が食い違い、公共建築工事標準仕様書は第2相=黒・中性相=白、水資源機構の仕様書は第2相=白・中性相=黒としています。さらに法令で一律に強制された配色ではなく、電力会社ごとに独自の相表示を採用している実例も確認されているため、盤の設計図・竣工図に記載された配色を現場ごとに必ず確認することが前提になります。

母線に色をつける方法にはどんなものがありますか?

色付きの絶縁テープを巻く方法、耐候性の塗料やペイントマーカーで着色する方法、色分けされた熱収縮チューブ(スリーブ)を被せて熱で収縮させる方法などがあります。国土交通省の公共建築工事標準仕様書は、色別された絶縁電線を用いない場合、母線の端部または一部に色別を施すことを求めており、母線全体を塗り分けることまでは求めていません。接続部の近くなど、作業者が実際に目視・作業する箇所に色を集中させるのが実務上の基本です。

母線の識別色が薄れていたら、どう対応すればいいですか?

識別色は経年で酸化・変色し、盤内に舞い込む粉じんによってさらに読み取りにくくなります。色だけを頼りに結線作業を進めるのは危険で、特に改修・増設で相順を入れ替える可能性がある作業では、結線後に検相器(フェーズチェッカー)を用いて実際の相回転の順序を確認することが基本です。色あせが進んでいる母線を見つけた場合は、点検記録に残した上で識別色の塗り直しを検討してください。

相順を間違えて接続すると、何が起きますか?

三相の接続順序が本来と逆になると、パナソニックのTERASU辞書が説明するとおり、正相なら正回転するモーターが逆回転します。その先で何が起きるかは負荷によって違います。荏原製作所の片吸込うず巻ポンプS型の取扱説明書は、逆回転のまま運転すると振動などにより羽根車ナットやボルトがゆるみ事故につながる恐れがあるとし、故障対策表では「回転方向が逆である」を規定吐出し量が出ない場合・運転音が大きい場合の原因として挙げています(過負荷(過電流)の原因欄には入っていません)。逆相=ただちに過電流という決めつけではなく、機器の取扱説明書で逆回転時の挙動を確認するのが順序です。改修や増設で母線への接続をやり直す際は、識別色だけに頼らず、検相器による確認を必ず行ってください。

参考文献・出典

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