東京から大阪に転勤になり、実家に置いてあった古いアナログ式の電気時計をコンセントに挿してみた。最初は普通に動いていたのに、しばらくすると時計の針が実際の時刻よりどんどん進んでいることに気づいた。同じ100Vのコンセントなのに、東京と大阪で何が違うのか。
見当がつかなくて当然だ。このトピックを読み終えるころには、その仕組みがはっきり分かるようになっている。
一般家庭に供給される電気は「交流」(AC: Alternating Current)で、電圧と電流の向き・大きさが周期的に変化し続けている。これに対し、電池のように向きが変わらない電気は「直流」(DC: Direct Current)と呼ぶ。
- 周波数(Hz):1秒間に電圧・電流が変化を繰り返す回数。日本国内では東日本が50Hz、西日本が60Hzと、地域によって異なる(歴史的な経緯によるもの。学科の範囲に入る基礎知識)。
- 実効値:交流の電圧・電流の大きさは刻一刻と変化しているため、私たちが「100V」「200V」と呼んでいる値は、直流に換算した場合と同じ働きをする「実効値」を指している。
その代表例が、冒頭の電気時計だ。同期モーター式と呼ばれる古いタイプの電気時計は、電源の交流波形が繰り返す回数を数えてモーターを回し、針を進めている。50Hzの地域向けに作られた時計は「波が50回来るごとに1秒経過」という設計になっているが、60Hzの大阪では波が1秒間に60回来るため、50回来るまでにかかる実際の時間は50÷60、およそ0.83秒しかない。本当はまだ0.83秒しか経っていないのに「1秒経った」と数えてしまうため、時計は少しずつ、しかし着実に進んでいく。扇風機やミシンのように回転する部品を持つ機器も、周波数が変われば回転数そのものが変わってしまうため、風力や動作速度が変化することがあるとされる。
一方で、今の家電製品の多くはこの問題をあまり気にしなくてよい設計になっている。多くの時計は水晶(クオーツ)発振を使って独自に時を刻んでおり、電源の周波数に依存しない。また照明や一部のモーター機器もインバータ制御によって周波数の違いを吸収する「ヘルツフリー」設計が一般的になってきているとされる。同期モーター式の時計のように周波数そのものを基準にする仕組みは、今ではむしろ少数派だ。
家庭用の単相100V・単相200Vや、動力用の三相200Vといった電源方式の違いは、次の科目「配電理論及び配線設計」で詳しく扱う(当サイトの単相電源とは?・三相電源とは?も参照してほしい)。
コイルとコンデンサは、電流が電圧から90度ずれる
コイルは電線を巻いた部品、コンデンサは2枚の金属板のあいだに絶縁物をはさんで電気をためる部品だ。どちらも交流の電流を流れにくくする働きがあり、その度合いをリアクタンス(単位はΩ)という。位相は、波のタイミング(山がいつ来るか)のことで、波が1回繰り返す長さを1周期として、1周期を360度の角度で表す。「90度ずれる」は、4分の1周期だけずれるという意味になる。
交流回路で、抵抗・コイル・コンデンサは電圧と電流の関係が違う。 波形を4つ並べて「正しいものはどれか」と問う形式が出る。
| 素子 | 電流と電圧の関係 |
|---|---|
| 抵抗 R | 同相。電圧が最大のとき電流も最大 |
| コイル L | 電流が電圧より 90度(π/2)遅れる |
| コンデンサ C | 電流が電圧より 90度 進む |
コイルは遅れ、コンデンサは進む。そして純粋にLだけ・Cだけの回路なら、 ずれはちょうど90度になる。抵抗が混じると、そのぶん90度より小さくなる。
コイルが遅れる理由は、コイルが電流の変化を嫌うからだ。電圧をかけても、 コイルは逆向きの起電力を出して電流が増えるのを妨げる。だから電流の立ち上がりが 電圧に遅れる。コンデンサは逆で、電圧が0のときに最も勢いよく充電電流が流れるため、 電流のほうが先に山を迎える。
波形の選択肢では、電流の山が電圧の山より右にあれば遅れ(コイル)、左にあれば進み (コンデンサ)。90度は「山1つ分の4分の1」ずれた形になる。
解き方の手順(最大値と実効値、周波数が変わったとき)
最大値と実効値
- どちらの値が与えられているかを見る。 「100V」「200V」と呼ぶ値は、実効値だ。
- 最大値のほうが必ず大きい、と決めて向きを選ぶ。 実効値から最大値へは 倍(×1.41)、最大値から実効値へは で割る(÷1.41)。 は問題用紙に書いてある。
- 向きを検算する。 最大値が実効値より大きくなっているかを見る。割り算がつらいときは、答えの候補に1.41を掛けて、元の値に戻るかを確かめる。
例:実効値100Vの最大値は 。最大値170Vの実効値は (約120.6。検算: で、ほぼ170)。
周波数が変わったとき
コイルのリアクタンスは周波数に比例し、 と書く。コンデンサは逆で、周波数に反比例し、 と書く。同じ電圧を加えたときの電流は、リアクタンスに反比例する。つまり、周波数が上がると、コイルは電流を通しにくくなり、コンデンサは通しやすくなる。抵抗だけの回路では、周波数は電流に関係しない。
例:コイルに同じ電圧を加えたまま、周波数を50Hzから60Hz(1.2倍)にすると、リアクタンスが1.2倍になるので、電流は 倍になる。50Hzで5A流れていたなら、 だ。
ACアダプタの小さな文字が読めるようになる
手元のノートPCやスマートフォンの充電器を裏返してみてほしい。たいてい「INPUT 100-240V 50/60Hz」と小さく刻まれている。今日試せるのはこれだけだ。だがこの一行は、実効値100Vの日本でも240Vの地域でも、50Hzでも60Hzでも動くという宣言であり、電源の交流をいったん直流に整えてから必要な形に作り直しているという設計の告白でもある。周波数と実効値という2つの言葉を持っていると、この表示が読める側に回れる。
日本の東西で周波数が分かれているのは、明治期に東京がドイツ製、大阪がアメリカ製の発電機を採用したという経緯によるもので、今も周波数変換所を介してしか東西で電力を融通できない。国全体の電力設備が、100年以上前の機械の選定を今なお引きずっている。
そして電気は今、あらためて「作り直される」方向へ進んでいる。太陽光のパワーコンディショナは、パネルが出す直流を系統の周波数に合わせた交流へ変換して送り出す。EVの電池は直流で、充電器はその橋渡しをする。エアコンや照明のインバータは、いったん直流にしてから任意の周波数の交流を作り出し、回転数や明るさを自在に変える。交流の周波数と実効値を理解しておくことは、これから増えるこうした機器の中で何が起きているのかを読む鍵になる。
冒頭の時計で何が起きていたのか、答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。