ある電気工事士に、この春いろいろなことが重なった。結婚して姓が変わり、新居に引っ越し、その慌ただしさの中で免状をどこかに紛失してしまった。仕方なく再交付を申請し、新しい免状を受け取った。
ところが1か月後、荷ほどきの途中の段ボールから、なくしたはずの古い免状が出てきた。もう新しいのが手元にあるのだから、古いほうは要らない。捨ててしまってよいだろうか。それとも、万一に備えて予備として取っておくべきだろうか。
どちらも常識的な判断に思える。しかしこの場面には、法令が答えをはっきり用意している。見当がつかなくて当然だ。このトピックを読み終えるころには、この工事士がとるべき手続きを、漏れなく挙げられるようになっている。
免状は、試験に合格して受け取ったら終わりの証書ではない。電気工事士法は、免状を持つ者に義務を課し、免状そのものにも手続きを用意している。
法令科目の問28は、令和6年度上期から令和8年度上期までの5回のうち、3回(令和6年度上期・令和6年度下期・令和8年度上期)が「電気工事士でなければ従事できない作業はどれか」、令和7年度上期が電気工事士法の義務・報告・免状(このページ)、令和7年度下期が法律ごとの役割の対応だった。作業の区分は軽微な工事と資格が要る作業のページが、義務と免状はこのページが受け持つ。
電気工事士等の義務(法第5条)
- 第1項(技術基準適合義務): 電気工事士等は、電気工事の作業に従事するときは、電気事業法の技術基準に適合するようにその作業をしなければならない。一般用電気工作物に係る作業なら電気事業法第56条第1項の技術基準、小規模事業用電気工作物・自家用電気工作物に係る作業なら同法第39条第1項の技術基準が基準になる
- 第2項(免状の携帯義務): 電気工事士等は、前項の電気工事の作業に従事するときは、電気工事士免状(特種電気工事資格者認定証、認定電気工事従事者認定証)を携帯していなければならない
第1項は「作った結果」への義務、第2項は「作っている最中」への義務だと整理すると覚えやすい。免状は事務所の引き出しではなく、身につけていなければならない。
都道府県知事への報告(法第9条)
法第9条第1項は、都道府県知事が、この法律の施行に必要な限度で、政令の定めるところにより、電気工事士・特種電気工事資格者・認定電気工事従事者に対し、電気工事の業務に関して報告をさせることができると定めている。電気工事士の側から見れば、知事に求められたら報告する義務がある、ということだ。
試験では、この文が「免状は事務所に保管していなければならない」のような誤りの文と並んで、正しい記述として出る。報告は「求められたとき」のもので、作業のたびに報告する義務ではない。免状を携帯する義務(第5条第2項)と、混ぜて読まないこと。
免状の記載事項(施行令第3条)
免状に書かれる事項は、次の3項目だけだ。
- 免状の種類
- 免状の交付番号及び交付年月日
- 氏名及び生年月日
この一覧に住所は入っていない。だから引っ越しても書換えの手続きは要らない。逆に、結婚や養子縁組で氏名が変われば、記載事項が変わったことになり、書換えの申請が義務になる。「変更があったら手続き」ではなく、「記載事項に変更があったら手続き」なのだ。
免状の3つの手続き
| 手続き | きっかけ | 条文と語尾 |
|---|---|---|
| 再交付 | 免状をよごし、損じ、又は失ったとき | 施行令第4条第1項「申請することができる」(任意) |
| 書換え | 免状の記載事項に変更を生じたとき | 施行令第5条「申請しなければならない」(義務) |
| 返納 | 都道府県知事から返納を命ぜられたとき | 施行令第6条第1項「遅滞なく返納しなければならない」(義務) |
再交付は任意(放置しても違反ではないが、携帯義務があるため実務上は必要)、書換えは義務、という語尾の違いが問われることがある。また、よごし・損じて再交付を申請するときは、申請書にその免状を添えて提出しなければならない(施行令第4条第2項)。
返納命令の根拠は法第4条第6項だ。電気工事士法または電気用品安全法第28条第1項に違反したとき、都道府県知事は免状の返納を命ずることができる。免状は取り消されうる資格である、ということはこの科目全体を通じた通奏低音になっている。
第二種には定期講習の義務がない
法第4条の3は、第一種電気工事士に対し、免状の交付を受けた日から5年以内に自家用電気工作物の保安に関する講習を受け、その後も同様に受講することを義務づけている。この定期講習の義務は第一種電気工事士だけに課されるもので、第二種電気工事士にはない。第一種電気工事士がこの講習を期限内に受けなかった場合は、第4条の3に違反することになり、第4条第6項により免状の返納を命じられることがある。第二種電気工事士にはこの義務がないので、講習を受けなくても返納の理由にはならない。「電気工事士免状には更新がある」という誤解が生まれやすい箇所なので、区別しておきたい。
免状は、財布に入れて初めて働く
携帯義務は、試験のための知識ではなく明日からの持ち物の話だ。免状を持たずに現場に立てば、その日は作業ができないのが原則になる。元請けや施主から提示を求められる場面もある。免状の定位置をあらかじめ決めておく。それだけで満たせる義務だが、決めていない人は必ず忘れる。
今日できるのは、記載事項の3つを声に出してみることだ。免状の種類、交付番号と交付年月日、氏名と生年月日。この3つに入っていないもの(住所、勤務先、連絡先)は、変わっても手続きが要らない。逆に氏名が変われば書換えが義務になる。手続きの要否は、この3項目を覚えているかどうかで一瞬で片がつく。
面白いのは、免状を交付するのが国ではなく都道府県知事だという点だ。試験は全国共通で行われるのに、免状は都道府県が出す。そして返納を命じるのも同じ都道府県知事になる。渡す相手と取り上げる相手が同じである、というこの対応関係が、免状は一度取れば終わりの証書ではないことを形にしている。電気工事業の登録をして一般用電気工事の業務を行うなら、その営業所ごとに主任電気工事士を置く必要があり(電気工事業法第19条第1項)、第一種電気工事士は免状があれば、第二種電気工事士は免状の交付を受けたあと電気工事に関して3年以上の実務の経験を積んだうえで、その主任電気工事士になれる。ただし、登録した本人(法人なら役員のうち1人)がその資格を持ち、自らその営業所の業務に主として従事する場合は、別に置かなくてよい例外がある(同条第2項)。
冒頭の工事士が抱えていた3つの出来事(姓の変更・住所の変更・免状の紛失と発見)は、それぞれどの手続きにつながるのか。答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。