変電所の変圧器には、必ずと言っていいほど「中性点接地」という設計判断が伴う。 中性点を大地に直接つなぐのか、抵抗を挟むのか、それとも一切つながないのか——同じ 変圧器・同じ電圧の系統でも、この選択ひとつで、地絡事故が起きたときに流れる電流の大きさも、 健全な相にかかる電圧も、まるで違う挙動になる。
なぜ「とりあえず全部直接接地しておく」という単純な答えにならないのか。 このトピックを読み終えるころには、系統図の「中性点接地」の表記を見て、その系統が 地絡事故のときにどう振る舞うかを言い当てられるようになっている。
種明かしは、中性点接地の目的が1つではないことにある。地絡時の異常電圧を抑えたい、 地絡を確実に検出したい、通信線への誘導障害を抑えたい——この3つの目的は、実はぶつかり合う 場面がある。だからこそ、系統の電圧階級や求める性能に応じて、4つの方式を使い分ける。
4つの中性点接地方式
非接地方式
変圧器の中性点をどこにも接続しない方式。地絡が起きても大地への低インピーダンスな経路が ないため、地絡電流は小さい。ただし、地絡した相が大地電位に近づく一方で、健全な相の 対地電圧は線間電圧に近いところまで大きく上昇する。
直接接地方式
中性点を大地に直接(インピーダンスなしで)接続する方式。地絡が起きると大きな地絡電流が 流れるが、その分、健全相の電圧上昇はわずかで済む。超高圧の送電系統で採用されるのは、 健全相の電圧が上がりにくいことを前提に、機器の絶縁レベルを下げて設計できる利点があるからだ。
抵抗接地方式
中性点と大地の間に抵抗を挿入する方式。地絡電流を、非接地方式ほど小さくせず、かといって 直接接地方式ほど大きくもしない、中間的な特性に調整できる。地絡検出に必要な電流を確保しつつ、 健全相の電圧上昇もある程度抑えられる、バランス型の方式といえる。
消弧リアクトル接地方式(ペテルゼンコイル接地)
中性点と大地の間にリアクトル(コイル)を挿入する方式。系統が本来持っている対地静電容量による 地絡電流と、リアクトルのインダクタンスによる電流とが打ち消し合うように定数を選ぶ(共振させる) ことで、地絡電流を大きく抑え込める。
4つの方式を「地絡電流の大きさ」と「健全相電圧の上昇」という2つの軸で並べると、 直接接地は地絡電流大・電圧上昇小、非接地は地絡電流小・電圧上昇大という対照的な組み合わせ になる。抵抗接地と消弧リアクトル接地は、この両極端の中間に位置づけられる方式だと捉えると 整理しやすい。
なぜ「地絡電流を抑える」だけでは済まないのか
一見、地絡電流は小さいほど設備へのダメージが少なく望ましいように思える。だが地絡電流を 抑える方式には代償がある。地絡電流が小さいと、通常時の負荷電流の変動に紛れやすくなり、 単純な過電流継電器では地絡事故を検出しにくくなる。そのため、地絡電流を抑える方式を採用する 系統では、地絡方向継電器(DGR)や接地形計器用変圧器(GPT)を組み合わせた、より高感度な 保護方式とセットで運用する必要がある。「電流を小さくする=検出も楽になる」という直感は、 ここでは逆に働く。
実務との接点 — B種接地工事とのつながり
受変電設備・キュービクルを扱う実務では、変圧器の低圧側中性点(または一端)を接地する 「B種接地工事」に日常的に触れる機会がある。このB種接地の抵抗値は、変圧器の高圧側で 一線地絡が起きたときに流れる電流(一線地絡電流)の大きさをもとに計算される。一線地絡電流の 大きさそのものが、上位系統でどの中性点接地方式が採用されているかによって変わるため、 B種接地工事の設計は、実は系統側の接地方式の選択とつながっている。日本の高圧配電系統の 多くが非接地方式であることを前提に、一線地絡電流の見積もりからB種接地抵抗値を求める、 という手順が広く使われている。接地抵抗値を求める具体的な計算式・数値条件は、対象設備の 条件によって細かく規定が分かれるため、実務では必ず最新の電気設備技術基準・内規を確認すること。
冒頭の「なぜ全部を直接接地しない」という問い——答え合わせは理解度チェックの最後の 問題でしてみよう。