電力量計の指示値はぴったり合っている。検針票の数字も過去の実績と矛盾しない。それなのに、改修を終えたばかりの受変電設備で、保護継電器だけがどうも様子がおかしい——ある現場ではちょっとした負荷変動のたびに引っかかったように反応し、別の現場では、本来なら動くはずの事故条件でも継電器がなかなか動作しない。同じ「CTから電流をもらっている」機器のはずなのに、片方は正確で、片方はちぐはぐだ。
配線を疑い、継電器の設定を疑い、それでも原因にたどり着けないとき、最後に残るのがCTそのものへの疑いだ。型番を確認すると、たしかに変流器はついている。変流比も合っている。だが、そこに小さく書かれた「1.0級」や「5P10」という表記まで確認した人は、意外に少ない。この記号こそが、電力量計と保護継電器の挙動がかみ合わない理由を握っている。
計器用CTと保護用CTは、そもそも目的が違う部品である
CT(計器用変流器)は、一次側の大きな電流を、電流計や継電器が扱いやすい小さな二次電流に変える変成器だ。ここまでは、どのCTを見ても共通している。
しかし公益社団法人日本電気技術者協会(JEEA)の解説は、CTを用途で明確に二つに分けている。計器用変流器は「電気の計測に用いるもの」で、一般には定格電流以内の計測が主対象になる。保護継電器用変流器(保護用CT)は「送配電系統などの保護継電器に用いるもの」で、系統事故時の大電流域が主対象になる。
言い換えれば、計器用CTが得意にしているのは「ふだんの、正常な範囲の電流を、どれだけ細かく正確に読めるか」であり、保護用CTが得意にしていなければならないのは「めったに起きない、異常なほど大きな電流を、どれだけ確実に伝えられるか」だ。同じ形をした鉄心とコイルの部品でありながら、設計上のゴールがまったく別の方向を向いている。
精度階級(確度階級)の意味——数値が小さいほど精密という単純な規則
先に断っておくと、この記事が典拠とするJIS C 1731-1:1998は2025年3月21日付で廃止されており、現行規格はJIS C 1732-1:2025(通則)・JIS C 1732-2:2025(変流器)に移行している。確度階級・過電流定数・5P10といった考え方の骨格は変わっていないが、表の番号や数値そのものが現行規格でも同一かは、日本規格協会の規格票原本(有償)で確認していない。新規の設計・選定では、この記事の考え方を土台にしつつ、最終的な数値は現行のJIS C 1732シリーズで裏を取ってほしい。
JIS C 1731-1は、計器用変流器の精度を「確度階級」という区分で規定している。標準用の0.1級・0.2級、一般計測用の0.5級・1.0級・3.0級という5階級だ。規則は単純で、階級の数値が小さいほど精度が高い。0.1級であれば比誤差はおおむね0.1%以下、0.5級であれば定格電流における誤差はおおむね±0.5%以内、というように、数値そのものが定格電流付近での誤差の目安になっている。
JIS C 1731-1の表5は、この5階級それぞれに「主な用途」も併記している。0.1級・0.2級は標準用(変流器試験用の標準器または特別精密計測用)、0.5級は一般計測用のうち精密計測用、1.0級・3.0級は普通計測用・配電盤用、という区分だ。計器用変成器メーカーの大崎電気も、一般計器用として0.5級=精密計測用、1.0級=普通計測用と案内している。同社はさらに電力需給用について、経済産業省推奨基準として、契約最大電力500kW未満の電灯需要家等には1.0級、500kW以上10,000kW未満には0.5級を組み合わせるという対応表を示している。電力量計に使うCTが1.0級であることが多いのは、この区分に沿った結果でもある。
ここまでは、素直に「数値が小さいほど良い」という話に見える。しかし、この確度階級という物差しには、実は一つ大きな前提が隠れている。この物差しが保証しているのは、あくまで定格電流付近の誤差だけだ、という前提である。
精度の考え方が逆転する理由——確度階級が「保証していない」領域
定格電流の何倍もの電流が流れる短絡事故のような領域で、確度階級はそのまま通用するのだろうか。
通用しない。ここが、計器用CTと保護用CTの評価軸が入れ替わる分岐点になる。
そもそもJIS C 1731-1は、確度階級を「定格負担の下で、定格周波数の定格電流を通電したときの比誤差の限度値」と定義している。定格電流を流したときの誤差を表す指標であって、定格を大幅に超える事故電流の領域まで同じ精度が続くとは、規格のどこにも書かれていない。CTの鉄心は電流が大きくなるほど磁気飽和に近づき、比誤差はそこから拡大していく。東芝の計器用変成器カタログも、過電流定数域を越えて使用すると変流比誤差が急激に増加し、継電器が適切に動作しない原因になると注意している。
この「定格を超えた領域でどこまで正確でいられるか」を表す指標が、過電流定数だ。三菱電機FAのFAQでは、過電流定数を「定格周波数および任意の二次負担において、変流比誤差が-10%になるときの一次電流を定格一次電流で除した値」と定義している。富士電機テクニカと東芝のカタログも、表現の違いはあれ同じ定義を示している。過電流定数がn=10であれば、定格一次電流の10倍の電流までは、誤差が10%以内に収まっていることを意味する。逆にいえば、それを超えた電流域では、誤差がどこまで拡大するか保証されない。
JEEAの解説によれば、計器用CTの過電流定数は一般に小さめで、n=5〜10程度が多く用いられる。事故電流のような大きな電流域まで極力正しく計測したい特殊な場合には、n=20程度とする例もあるという。一方の保護用CTでは、一般にnは20程度が使われ、より高い精度が求められる用途ではn=40〜120という桁違いの数値を選定する例まであるとされる。JEEAはさらに、保護用CTがギャップ付きの鉄心を採用し、残留磁束を抑える設計を持つことにも触れている。定格電流付近の精度を追い込む計器用CTと、事故電流域まで飽和を遅らせる保護用CTでは、鉄心の作り方そのものから設計思想が分かれているということだ。
これが、精度階級だけを見てCTを選んではいけない理由である。「精度が高いCTを選べば安心」という発想は、定格電流付近の話としては正しい。だが保護用途で本当に問われているのは、確度階級が示す0.5級・1.0級といった数値の細かさではなく、確度階級が触れていない事故電流域での挙動——過電流定数という、まったく別の物差しのほうだ。JIS C 1731-1の附属書1は、この保護用の物差しを5P・10Pという記号で規定しており、たとえば5P10という表記は、定格一次電流の10倍までの電流において、誤差(コンポジット誤差)が5%以内に収まることを示す。0.5級のような一般計測用の確度階級とは別の体系で、保護用CTの性能が語られているわけだ。
負担(バーデン)——変流器にも「背負える重さ」の上限がある
もう一つ、精度階級と並んで見落とされやすいのが負担(バーデン)だ。CTの二次側には、電流計や電力量計、継電器、そしてそこまでの配線が接続される。これらすべてが二次回路の抵抗分として働き、定格二次電流が流れたときのボルトアンペア(VA)という単位で、CTが「背負っている重さ」を表したものが負担だ。
JIS C 1731-1は、確度階級ごとの定格負担の標準値を表6で定めている。この定格負担に対して、実際に接続する計器・継電器・配線の負担の合計が大きすぎれば、誤差は拡大する。ここまでは直感的に理解しやすい。
では実際の負担をどう決めるのか。大崎電気は、接続される計器の消費容量に接続電線の消費容量を加えた総消費容量以上の定格負担を選ぶよう案内し、接続線の断面積ごとの消費容量(VA/m)を表で示している。東芝のカタログも、定格負担は二次側に接続される計器・継電器などの消費VAで決まり、接続電線による消費負担も考慮しなければならないとしている。つまり「必要な負担を見積もり、それ以上の定格負担を選ぶ」というのが基本形だ。
ここで気をつけたいのが、「負担は軽ければ軽いほど悪い」という逆向きの思い込みだ。誤差の面では、負担が軽いほうがCTには有利に働く。東芝のカタログは、必要な過電流定数のCTが選定できない場合の対処として、変成比を大きくする、あるいは使用負担を小さくすることで継電器との過電流協調をとるという方法を挙げている。負担を軽くすることは、むしろ大電流域の余裕を稼ぐ手段として使われているわけだ。
ただし、確度階級そのものはJIS C 1731-1の定義上「定格負担の下で」の比誤差限度であり、比誤差・位相角の試験も定格負担と定格負担の25%という2点で行われる(同規格7.3.4)。階級の数値が検証されているのは、この定格負担の25%〜100%という範囲だと考えておくのが安全だ。CTの精度は、変流器単体の性能だけでなく、二次側に何をどれだけつなぐかという回路全体の設計と一体で決まる。
配線が長くなるほど電線の抵抗分がそのまま負担に上乗せされる点にも注意したい。盤の外まで配線を延ばすような更新工事では、既設の定格負担のCTのままで、電線を延長したぶんの負担増加を見落とすと、精度階級の数値だけを合わせても実際の誤差はその数値どおりにならない。
用途に合わないCTを選ぶとどうなるか
ここまでの話を、実際の不具合として並べ直しておく。
一つは、保護継電器の回路に、確度階級だけを基準に選んだ計器用CTを転用してしまうケースだ。定格電流付近の精度は確度階級どおりに保たれていても、事故電流のような大電流域での挙動は保証の外にある。過電流定数が管理されていないCTでは、事故電流域で誤差が急激に拡大し、継電器が本来動作すべき条件で動作しない、あるいは保護協調の設計とずれたタイミングで動作するおそれがある。事故が起きたときに保護が効かない、という一番避けたい形の不具合につながりかねない。
もう一つは逆に、計器回路に、確度階級としての精度が十分に管理されていないCTを使ってしまうケースだ。電力量計やアナログの電流計は、確度階級という物差しで定格電流付近の精度が保証されていることを前提に計器側の精度が組み立てられている。この前提を満たさないCTを計器回路に使えば、料金計算や監視の根拠になる指示値そのものに疑義が生じる。
負担のミスマッチも同じ構図をたどる。二次配線を延長したのに負担の見直しをしなかった、あるいは複数の計器を後から増設して負担が定格を超えていた、というような現場の変更が、精度階級の数値をそのまま裏切る誤差を生む。精度階級・過電流定数・負担は、どれか一つだけを確認して終わりにできる項目ではない。
選定時に確認しておきたい項目
- 用途区分:計器用か保護用か。両方を兼ねる複合機能のCTもあるため、カタログの用途表記を確認する
- 確度階級:一般計測用なら0.5級・1.0級・3.0級のどれに該当するか。用途に対して過不足がないか
- 過電流定数:保護用途であれば5P10・10P20のような表記を確認し、想定する事故電流の大きさに対して十分な倍数か
- 過電流強度:短絡電流が流れた際に熱的・機械的に損傷しないかという別の指標。JIS C 1731-1の表3は、定格過電流強度の標準値を定格一次電流の40倍・75倍・150倍・300倍(通電時間1秒間)と定めており、系統の短絡電流に見合う数値かを確認する
- 定格負担:二次側に接続する計器・継電器の消費VAに、接続電線の消費容量を加えた合計を見積もり、それ以上の定格負担の機種を選ぶ
- 変流比:既設設備の更新であれば、現物の型番・変流比との整合を優先する
FAQ
Q. 計器用CTと保護用CTは何が違うのですか?
A. 計器用CTは定格電流の範囲内で電流計・電力量計に正確な値を届けることを目的とし、確度階級(0.5級・1.0級など)で精度が管理されています。保護用CTは短絡事故のような定格を大きく超える大電流域で保護継電器を確実に動作させることを目的とし、過電流定数(5P10・10P10など)で大電流域の誤差の小ささが管理されています。同じ変流器という名前でも、精度が求められる電流の範囲がまったく違います。
Q. 0.5級と1級はどちらのほうが精度が高いのですか?
A. 数値が小さいほど精度が高いという決まりです。JIS C 1731-1では確度階級を0.1級・0.2級・0.5級・1.0級・3.0級の5階級に分けており、階級の数値は定格電流における誤差限度の目安に対応します。同規格の表5は主な用途も併記していて、0.1級・0.2級は標準用、0.5級は精密計測用、1.0級・3.0級は普通計測用・配電盤用とされています。
Q. 過電流定数(5P10など)とはどういう意味ですか?
A. 「変流比の誤差が一定の範囲に収まる一次電流と、定格一次電流との倍数」を示す数値です。5P10であれば、定格一次電流の10倍までの電流において、誤差が5%以内に収まることを表します。保護用CTのカタログで確認する項目で、値が大きいほど、より大きな事故電流域まで正確に変流できることを意味します。
Q. 計器用CTを保護継電器の回路に転用してはいけないのですか?
A. 推奨できません。計器用CTは定格電流付近の精度を確度階級として保証していますが、事故電流のような大電流域での誤差の大きさは基本的に保証の対象外です。過電流定数が管理されていないCTを保護回路に使うと、事故電流域で誤差が想定以上に拡大し、継電器が本来動作すべき条件で動作しない、あるいは想定とは違うタイミングで動作するおそれがあります。
Q. 負担(バーデン)とは何ですか?なぜ選定で確認する必要があるのですか?
A. 変流器の二次側に接続される計器・継電器・配線の抵抗分を合計した電気的な負荷のことで、VA(ボルトアンペア)という単位で表されます。大崎電気や東芝のカタログは、接続する計器・継電器の消費容量に接続電線の消費容量を加えた総消費容量以上の定格負担を選ぶよう案内しています。負担が定格を超えれば誤差は拡大しますが、逆に負担が軽いこと自体は誤差の面では不利になりません(東芝は、必要な過電流定数が得られない場合に使用負担を小さくして継電器との協調をとる方法を挙げています)。なお確度階級はJIS C 1731-1の定義上「定格負担の下で」の比誤差限度であり、比誤差・位相角の試験も定格負担と定格負担の25%の2点で行われます。
CTまわりの部材調達について
「受変電設備の更新に合わせて、保護用と計器用それぞれの精度区分に適合したCTを手配したい」「既設のCT型番から、確度階級・過電流定数・変流比が同等の後継品を確認してほしい」といったご相談を、電気工事店・設備管理担当者様からよくいただきます。
計器用変成器は型番ごとに変流比・確度階級・過電流定数・貫通穴径などの仕様が細かく分かれ、用途に合わない選定は電力量計の計量誤差や保護継電器の誤不動作という形で表面化します。当サービス「電材サーチ」では、各メーカーの計器用変成器から関連する電流計・継電器まで、仕様の確認からまとめての調達までご相談いただけます。
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