塗装ブースの改修工事で、電気工事店が普段どおりの防水形の押しボタン開閉器を持ち込んだところ、現場の安全担当者に「それは使えません、防爆じゃないと」と止められる。IP65相当の防水性能は確認済みだし、屋外用として何度も使ってきた実績のある製品だ。何が足りないのか、その場では誰もうまく説明できない。防水と防爆は違う——後になってそう聞かされても、では何がどう違うのか、という疑問はそのまま残る。
なぜ「普通の電気機器」ではだめなのか
電気機器には、多かれ少なかれ火花と熱がつきまとう。スイッチを開閉する瞬間に生じるアーク(火花)、モーターやコイルが発する熱、接点の劣化による局所的な高温——通常の環境ではただの「仕様の範囲内」で済む現象だ。ところが、可燃性ガス・蒸気・可燃性粉じんが空気中に一定濃度で存在する場所では、この火花や高温部がそのまま着火源になりうる。石油化学プラント、印刷・塗装工程の溶剤雰囲気、穀物や金属粉を扱う施設——こうした場所では、電気機器の「ふだんは問題にならない小さな発熱」が、爆発事故の引き金になる可能性を常に抱えている。
防爆構造とは、この着火源になりうる性質を、規格化された方法で抑え込んだ電気機器の構造の総称である。労働安全衛生規則第280条は、引火性の物の蒸気又は可燃性ガスが爆発の危険のある濃度に達するおそれのある箇所で電気機械器具を使うときは、防爆性能を有する防爆構造電気機械器具でなければ使用してはならないと定めている(可燃性の粉じんは第281条)。その具体的な構造要件を示すのが、厚生労働大臣が定める「電気機械器具防爆構造規格」(昭和44年労働省告示第16号)である。
危険場所の区分——「どこが、どれだけ危険か」を先に決める
防爆構造を選ぶ前に、まず現場がどの程度の危険度を持つ「危険場所」に該当するかを見極める必要がある。ここを飛ばして機器の型番だけを選ぼうとすると、後々の照合がずれる。
ガス蒸気危険場所は、可燃性ガス・蒸気が存在する頻度と持続時間によって、次のように区分される。
| 国内の呼称 | おおよその対応(国際整合) | 状態の目安 |
|---|---|---|
| 特別危険箇所 | Zone 0 | 通常時に連続し、長時間もしくは頻繁に爆発性雰囲気が生成される場所 |
| 第一類危険箇所 | Zone 1 | 通常の状態で爆発性雰囲気が存在・生成される可能性がある場所 |
| 第二類危険箇所 | Zone 2 | 通常時に生成される可能性は低く、生成されても短時間のみの場所(換気装置の故障時など) |
粉じんが問題になる現場では、これとは別に粉じん危険場所としてゾーン20/21/22の3区分が用いられる。カナデンの解説では、通常時に粉じんが空気中に長時間または頻繁に、もしくは連続して存在する場所がゾーン20、断続的に存在する場所がゾーン21、短時間のみ存在する場所がゾーン22とされる。ガス蒸気と粉じんでは着火のメカニズムも規格上の扱いも異なるため、混同せずに別系統として区分される。
この区分の決定には、可燃性物質の放出源の等級や換気の状態など、専門的な評価が必要になる。現場を一目見て「たぶんこのあたりだろう」と当たりをつけたくなる気持ちは分かるが、区分の判定は事業者側の調査・専門資格者による評価に基づくべき性質のものであり、電気工事店や商社が独自に確定させるべき領域ではない。区分が曖昧なまま機器を選ぶくらいなら、先に施設の安全担当者や専門機関に確認したほうが早い。
防爆構造の種類——「閉じ込める」か「そもそも火種を作らせない」か
危険場所の区分が決まったら、次はその区分に見合った防爆構造を選ぶ段階に入る。ここで多くの人がつまずくのが、「防爆=頑丈な金属の箱」という単純なイメージだ。実際にはそうではない構造も存在し、しかも設計思想の方向性がまったく逆を向いている。
耐圧防爆構造(記号d)は、まさにそのイメージどおりの構造である。容器内部で万一爆発性ガスに引火し爆発が起きても、容器がその圧力に耐え、外部の爆発性ガスへ引火・延焼させない。つまり「爆発は起きてもよい、ただし中に閉じ込める」という発想だ。全閉の頑丈な金属容器が基本形になるため、機器はどうしても重くなる。
これと対照的なのが本質安全防爆構造(記号ia/ib)と安全増防爆構造(記号e)である。構造規格の定義では、本質安全防爆構造は「発生する火花、アーク又は熱が、ガス又は蒸気に点火するおそれがないことが点火試験等により確認された構造」、安全増防爆構造は正常な運転中に火花・アークや高温を生じない部分について、絶縁性能や温度上昇・外部からの損傷に対する安全性を高めた構造だ。どちらも、そもそも着火源を作らせないという発想に立つ。本質安全防爆は回路のエネルギーを小さく抑える必要があるため、大きな電力を消費する機器には向かず、主に計装用のセンサーや小電力の制御回路に使われる。爆発を閉じ込める頑丈さは要らないため、ニチネツの解説では他の防爆構造に比べて軽量・小型とされている。同じ「防爆」という言葉でくくられていても、耐圧防爆と本質安全防爆は、火花を許容するかどうかという根本の設計思想で正反対の方向を向いている。
このほかにも、内圧防爆構造(記号f。清浄な空気や不燃性ガスで容器内を外部より高い圧力に保ち、爆発性ガスの侵入そのものを防ぐ)、油入防爆構造(記号o。火花を発する部分を油中に沈めて隔離する)、樹脂充てん防爆構造(記号ma/mb。発火源となりうる部分を樹脂で封止する)、非点火防爆構造(記号n。通常運転や特定の異常状態で着火能力を持たない、比較的危険度の低いZone 2向けの簡易な構造)、特殊防爆構造(記号s。上記のいずれにも当てはまらないが、試験・確認によって安全性が認められた構造)がある。危険場所の区分ごとに、使用が認められる構造の種類は異なる。構造規格第2条では、特別危険箇所に使えるのは本質安全防爆構造(ia)・樹脂充てん防爆構造(ma)またはこれらと同等以上の特殊防爆構造に限られ、第一類危険箇所では耐圧・内圧・安全増・油入・本質安全・樹脂充てんと同等以上の特殊防爆構造、第二類危険箇所ではこれに非点火防爆構造と特殊防爆構造が加わる。どこにでも同じ構造の機器を使い回せるわけではない。
Ex表記の読み方——銘板の記号は何を語っているか
防爆形の機器の銘板には、「Ex d IIB T4」のような表記が刻まれている。これは暗号ではなく、機器の性能を4つの要素に分解して示したものだ。
先頭の「Ex」は、国際規格(IEC)に整合した防爆指針に基づく表記であることを示す記号である。続くアルファベット(d、e、ia、p、o、m、nなど)が構造記号で、前段で見た防爆構造の種類そのものを表す。その次のローマ数字(IIA・IIB・IICなど)は機器グループと呼ばれ、対象となる可燃性ガスの最大安全すきまによって分類される。セイクンの解説ではIIAが0.9mm以上、IIBが0.5mm以上0.9mm未満、IICが0.5mm未満で、すきまが小さいガスほど炎が通り抜けやすく、要求は厳しくなる。IICには水素・アセチレンなどが該当する(ニチネツ)。最後の「T」に続く数字(T1〜T6)は温度等級で、電気機器の最高表面温度の上限を示す。T4は最高表面温度135℃である。
国内の構造規格に基づく表記は形が違う。たとえば「d2G4」は、耐圧防爆構造(d)・爆発等級2・発火度G4を表す。構造規格の発火度はG1〜G5で、G4は発火点135℃を超え200℃以下のガス・蒸気が対象だ。同じ現場に、2種類の表記の機器が並んでいることもある。
ここで一つ、見落としやすい点がある。国内の「電気機械器具防爆構造規格」(労働省告示第16号)が内圧防爆構造に割り当てている記号は「f」だが、IEC規格に基づく国際整合防爆指針では、内圧防爆の構造記号は「p」(px・py・pz)になる。TIISによると、構造規格第5条に基づいて国際整合防爆指針も検定の基準として運用されており、実質的に2つの規格体系がある。適用できる規格はいずれか一方だけだが、交付される型式検定合格証の様式と法令上の扱いは同じだ。どちらの規格に基づいて検定を受けた機器かによって、銘板上の記号の一部が変わる。電材を選ぶ側からすると、「fと書いてあるから内圧防爆ではない」と早合点するのは危険で、検定合格証や型式検定合格証番号まで含めて、どちらの規格体系の表記なのかを確認する必要がある。
電材選定での注意点——通常品との誤発注リスク
防爆形の製品は、同じメーカーの通常品と同じ製品カテゴリーに並んでいることがある。たとえばアズビルのリミットスイッチは、汎用形と、IEC防爆に適合した防爆形(Exde IIC T6)を同じカテゴリーで展開している。信号灯などの表示機器にも、防爆仕様の製品を用意しているメーカーがある。用途も設置場所も似ているため、型番を読み違えたまま「ほぼ同じだから大丈夫だろう」と発注すると、検定を受けていない通常品が危険場所に納入されてしまう事態になりかねない。
とりわけ既設設備の更新では、この照合を怠りやすい。古い防爆形機器が生産終了になり、同じメーカーの後継シリーズへ切り替える場合、外観や取付寸法は似ていても、対応する機器グループ(IIB対応からIIC対応へ、など)や温度等級が変わっていることがある。現物の銘板に刻まれたEx表記・型式検定合格証番号を、これから手配する製品の仕様と突き合わせずに発注すると、届いた製品がその現場の危険場所区分に適合しない、という事態が起こりうる。防水・防塵の等級(IP65等)と防爆性能はまったく別の評価軸である点も含め、現物確認を省略しないことが、この分野の発注ミスを避ける最大のポイントになる。
認定・検定制度——誰が「防爆である」ことを保証するのか
防爆構造の電気機械器具は、独自に「防爆仕様です」と名乗るだけでは危険場所に設置できない。公益社団法人産業安全技術協会(TIIS)などの検定機関による型式検定に合格し、防爆構造規格に基づく所定の表示(型式検定合格証番号など)が付されたものであることが、労働安全衛生法上の要件になる。現場で見かける防爆形機器の銘板に刻まれた検定合格証番号は、この検定を経た証だ。
なお、経済産業省が所管する「電気設備の技術基準の解釈」にも、可燃性ガスや爆燃性粉じんが存在する場所における電気設備の施設を制限する規定がある。たとえば第176条は、可燃性ガス等が漏れ又は滞留し電気設備が点火源となり爆発するおそれがある場所の屋内配線等を、金属管工事(薄鋼電線管以上の強度、管と附属品は5山以上ねじ合わせて接続)やケーブル工事などによることと定めている。これは労働安全衛生法系統の防爆構造規格とは異なる法体系(電気事業法系統)に基づくもので、両者は目的も適用範囲も別だが、いずれも「危険な場所には、それに見合った電気設備しか置けない」という考え方を共有している。個別の設備がどちらの規制の対象になるか、また具体的な適合性の判断は、所轄の労働基準監督署・検定機関・メーカーへの確認が前提になる。この記事はあくまで概要の整理であり、最終判断の根拠にはならない点をご承知いただきたい。
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