冒頭の場面・会話は、内容の理解を助けるための例示です。特定の現場・企業・案件を指すものではありません。
PR 本記事で紹介する商品リンクにはAmazonアソシエイト・プログラム等のアフィリエイトリンクが含まれます。詳細は広告についてをご覧ください。
「モーターの銘板通り、定格電流ぴったりに整定電流を合わせた」——教科書にも、選定の解説記事にも、まずそう書いてある。実際、合わせたその日は何事もなく動いた。ところが1週間後、同じ負荷、同じ設定のはずなのに、サーマルリレーが立て続けにトリップし始める。配線をたどり、絶縁抵抗を測り、負荷側のポンプまで分解点検しても異常は出てこない。合わせ方は教科書どおりだったはずなのに、何が起きているのか。
結論から言えば、「整定電流をモーター定格電流に合わせる」という基本は間違っていない。間違っているのは、その一手だけで完結すると思い込むことのほうだ。ダイヤルの数字が意味する動作特性、始動にかかる時間、盤内の温度、そして運転パターン——このうちどれか一つでも見落とすと、「合わせたのにトリップする」現場ができあがる。
本記事では、電磁開閉器・サーマルリレーの選び方で扱った「そもそも何を選ぶか」から一歩進み、「選んだサーマルリレーの整定電流を、実際にどう合わせ、なぜその合わせ方でトラブルが起きるのか」を解説する。
この記事でわかること
- 整定電流のダイヤルが「合わせた瞬間に切れる境界線」ではないという誤解の正体
- 定格電流に対して105%で不動作・120%で動作という整定電流の動作特性
- 始動時間で選ぶ「トリップクラス」(Class10・20・30)の考え方
- 周囲温度による整定電流の補正計算の具体例
- 連続運転・断続運転など運転パターンによって最適値が変わる理由
- 「合わせたのにトリップする」を切り分けるチェックリスト
ダイヤルの数字は「トリップ電流」そのものではない
多くの現場担当者は、整定電流のダイヤルを「そこを超えたら瞬時に切れる境界線」だと思っている。だが実際の設計はそうなっていない。
サーマルリレーは電流の大きさそのものではなく、内部のバイメタルに蓄積した熱で動作する。整定電流ちょうどの電流が流れ続けても、それだけではすぐには動作しない仕組みだ。日本電気技術者協会の解説は、電動機の過負荷保護に用いるサーマルリレーに求められる特性を、電動機定格電流の105%で不動作、120%では動作、そして始動(拘束)電流では2〜30秒の間で動作すること、と整理している。つまり105%と120%の間に、意図的な帯が設けられている。
つまり「モーター定格電流ぴったりにダイヤルを合わせる」という作業は、「そこがトリップの瞬間」を意味するのではなく、この105%〜120%という帯をモーターの定格電流の位置に据える作業だ。同解説は、RC目盛のサーマルリレーであれば「電動機の定格電流に等しいヒータ整定電流のサーマルリレーを選定すれば」この条件を実現できるとしており、三菱電機FAのFAQも「サーマルリレーはモータの全負荷電流に設定して使用します」と明記している。逆に言えば、定格を少し超えた程度の運転が長く続いて帯の上側(120%付近)に近づけば、トリップするのは設計どおりの挙動だ。ABBの技術資料も、整定電流の1.05倍では動作せず、1.2倍では2時間以内に動作する特性を示している。
では、始動の瞬間だけ流れる大電流は、この仕組みの中でどう扱われているのだろうか。
始動に時間がかかる設備では、合わせ方そのものが間違っている
モーターは始動の瞬間、定格電流の数倍という大電流を数秒から十数秒流す。整定電流をきっちり合わせていても、この始動電流でいちいちトリップしていたら、サーマルリレーは使い物にならない。そこで用意されているのが「トリップクラス」という特性だ。
IEC 60947-4-1(国内ではJIS C 8201-4-1が対応)は、整定電流の7.2倍の電流を流したときに何秒でトリップするかによってクラスを分けている。ABBの技術資料に示された値では、Class10なら4〜10秒、Class20なら6〜20秒、Class30なら9〜30秒という具合だ。数字が大きいクラスほど、「大電流の状態を長く許容してから切る」特性になる。なお北米NEMA系の製品では、整定値の600%(6倍)で「Class10は10秒以内」のように説明する例もあり(シュナイダーエレクトリックのFAQ)、カタログの数字を比べるときは基準の倍率をそろえる必要がある。
一般的なポンプやファンは始動が数秒で終わるため、標準的なClass10で足りる。ところが大型の送風機や粉砕機のように、羽根やロータの慣性が大きく、定格回転数に達するまで10秒、20秒とかかる設備にClass10のサーマルリレーを組み合わせると、モーターにとってはまだ正常な始動の途中なのに、サーマルリレーは「これは過負荷だ」と判断して切ってしまう。整定電流の数値自体は正しく合わせていても、クラスの選定が始動特性と噛み合っていなければ、頻発トリップという同じ症状が出る。日本電気技術者協会の解説も、ブロワ・ファンなど慣性の大きな負荷は始動時間が長く標準のサーマルリレーでは動作してしまうとして、飽和リアクトル付きサーマルリレーを使う例を挙げている(定格90kWのブロワで始動完了まで約10秒という計算例)。「整定電流を合わせる」ことと「サーマルリレーの動作特性を選ぶ」ことは、別の作業なのだ。
電流の合わせ方も、クラスの選定も合っている。それでも夏場だけトリップが増える、という現場がある。
制御盤の中の温度が、同じ数字の意味を変える
配線も負荷も変わっていないのに、季節によってトリップの頻度が変わることがある。疑うべきは制御盤内部の温度だ。
サーマルリレーはバイメタルの熱変形で動作する以上、周囲温度そのものがすでに下駄を履いた状態を作る。盤内の温度が高くなれば、同じ電流でもバイメタルはより早く反り返り、低ければより遅く反り返る。この影響を打ち消すために「周囲温度補償形」という機能を持つ品番があるが、補償形であっても補正の考え方自体は残る。
三菱電機のFAQは、サーマルリレーはモータの全負荷電流に設定して使うとしたうえで、周囲温度が20℃と大幅に異なる場合や、接続電線が標準電線サイズと異なる場合は設定値の補正が必要だとしている。補正の基本は、カタログの周囲温度補正率でモーター定格電流を割ることだ。たとえば補正率が0.97(説明のための仮の値)でモーターの定格電流が15Aなら、整定値は15A÷0.97で約15.5Aになる。「定格電流ぴったりの15A」にそのまま合わせてしまうと、補正前の想定より厳しめの設定になり、盤内が暑くなる時期にだけトリップが増える——この現象の説明が、ここにある。補正率の実際の値は型番・目盛位置ごとに違うため、必ずその型番のカタログで確認する。
もう一段先の話として、サーマルリレーの整定電流は、取り付ける場所そのものによっても意味が変わることがある。
もう一段深い理解——「どこに取り付けるか」でも整定電流は変わる
スターデルタ始動の回路で、デルタ結線の相の中にサーマルリレーを組み込んだ場合、そこを流れる電流はモーターの線電流ではなく相電流になる。三菱電機FAのFAQも、スターデルタ始動器でサーマルリレーをデルタ相内に設置する場合は、モータ全負荷電流値の1/√3倍の電流に設定できるヒータ呼びを選定し、電流つまみをモータ全負荷電流値の1/√3倍(約58%)に設定して使用するよう案内している。ヒータ呼び(機種の選定)と電流つまみ(整定値)の両方を読み替える必要がある、という点に注意したい。同様に、力率改善用の進相コンデンサより電源側にサーマルリレーを設置した場合は、コンデンサによって改善された後の電流値で整定しなければならない(コンデンサより負荷側なら、モーター定格電流のままでよい)。
計算の手間と読み違いを避けるなら、モーター定格電流でそのまま整定できる位置にサーマルリレーを設けるほうが分かりやすい。スターデルタ回路でも、サーマルリレーをMCCBの直下(線電流が流れる位置)に付ける構成なら、モーターの定格電流をそのまま設定すればよい(プラント電気計装エンジニアのメモ)。整定電流の合わせ方は、ダイヤルの数字だけでなく、そのダイヤルが「何の電流を見ているか」という回路上の位置まで含めて、初めて完成する。
定格電流・始動特性・周囲温度・取り付け位置、ここまで揃えれば十分だろうか。実はもう一つ、銘板の数字自体の前提を疑う必要がある。
モーター銘板の「定格電流」にも前提がある——連続運転か、断続運転か
モーター銘板に書かれた定格電流は、JIS C 4034-1が定める「使用形式」を前提に決められている。連続運転を想定したS1定格であれば、その電流を流し続けても熱的に安全という値になっているが、S3のような反復使用(三菱電機のFAQの説明では、実質的に一定な負荷の運転期間と電圧を印加しない停止期間を1周期として反復する使用)の場合、銘板の定格電流はあくまで「そのサイクルで運転すること」を前提にした数値だ。日本電気技術者協会の解説も、間欠運転や変動負荷運転では標準的なサーマルリレーだけでは十分でない場合があり、巻線温度を直接検出する埋込サーモスタット方式の併用が必要なこともあるとしている。
つまり、S1定格のモーターを想定より頻繁に止めたり動かしたりする使い方に変えた場合や、逆にS3定格のモーターを連続運転に近い使い方に変えた場合、銘板の定格電流をそのまま整定値の起点にしても、実際の発熱パターンとズレが生じる。周囲温度が高い設置環境と、連続運転に近い高負荷率の使い方が重なる現場ほど、この差が症状として表に出やすい。
始動特性・周囲温度・回路上の取り付け位置・運転パターン——ここまで挙げてきた4つの変数は、すべてモーター1台1台で条件が違う。カタログの目安表だけでは机上の計算しかできず、実際に何Aに合わせるべきかは、現物のモーター銘板と設置環境の情報を持ち合わせて初めて判断できる。整定電流の「正しい1点」に迷ったら、モーターの銘板写真と、制御盤の設置場所・始動方式・運転パターンをそろえて、サーマルリレーのメーカーに確認するのが確実だ。
そもそも過負荷保護が必要な電動機——電技解釈第153条
電気設備の技術基準の解釈第153条は、屋内に施設する電動機には、焼損するおそれがある過電流を生じた場合に自動的に阻止するか警報する装置を設けるよう求めている。サーマルリレー(電磁開閉器)はこの装置の代表例だ。例外は、運転中に取扱者が常時監視できる位置に施設する場合、構造上・負荷の性質上焼損する過電流が生じるおそれがない場合、単相の電動機で電源側の過電流遮断器の定格電流が15A(配線用遮断器なら20A)以下の場合、出力0.2kW以下の場合に限られる。三相の電動機を屋内で使うなら、原則としてサーマルリレーなどの過負荷保護を正しく整定して使う前提だと考えておきたい。
サーマルリレー整定電流の合わせ方チェックリスト
- モーター銘板の定格電流を確認する(kWしか分からない場合は概算表で見当をつける)
- 整定電流のダイヤルを定格電流に合わせる(105%で不動作、120%で動作という帯を理解した上で)
- 始動時間を確認し、トリップクラス(Class10・20・30)が始動特性と合っているか確認する
- 制御盤内の周囲温度を確認し、必要なら補正率で整定値を補正する(周囲温度補償形の品番かどうかも確認)
- スターデルタ回路・進相コンデンサがある場合、サーマルリレーの取り付け位置とそこを流れる電流の種類を確認する
- モーターの使用形式(S1連続・S3反復等)と、実際の運転パターン(連続運転か断続運転か、負荷率)が一致しているか確認する
- 調整後もトリップが続く場合は、電圧不平衡・欠相・接点の劣化など電気的な異常も点検する
サーマルリレーそのものの選定基準・富士電機と三菱電機の型番の読み方は電磁開閉器・サーマルリレーの選び方、始動突入電流でブレーカーが落ちる別のトラブルはモーター起動時のブレーカートリップ対策で解説している。
整定電流の最適値は、モーターの定格電流・始動特性・周囲温度・運転パターンの組み合わせで決まります。サーマルリレー・電磁開閉器の型番が決まっていれば、見積もり依頼フォームから問い合わせできます。
関連するおすすめガイド
- 電磁開閉器・サーマルリレーの選び方|モーターの「kW」「A」「V」の関係と富士電機・三菱電機の型番の読み方
- 【現場のやらかし】モーターを起動するたびにブレーカーが遮断!始動突入電流(インラッシュ)を考慮しない動作特性選定のミス
- ブレーカーの種類と選び方|容量計算・漏電ブレーカー・配線用遮断器の違い
関連するサーマルリレー・整定電流・合わせ方・設定の品種・型番をお探しですか?
電材サーチでは、メーカー横断で目的の型番を素早く見つけ、そのまま見積もりを依頼できます。