冒頭の場面・会話は、内容の理解を助けるための例示です。特定の現場・企業・案件を指すものではありません。
「一次Δ・二次Y、高調波対策のため」――キュービクル更新の仕様書にそう指定が入っているのを見て、手が止まったことはないだろうか。Δ結線には中性点がない。接地もできず、単相負荷を素直に分岐する引き出し口もない。Y結線に比べれば、明らかに不自由な結線方式に見える。
それなのに、高調波が問題になる現場に限って、わざわざΔ結線が名指しで指定される。不便であるはずの結線が、なぜ高調波対策の主役に回るのか。
答えの手がかりは、性能表やカタログのどこにもない。巻線そのものを、どうつなぐかという結び方の中にある。
Δ結線とY結線――巻線をどうつなぐかの違い
三相変圧器は、3つの単相分の巻線を組み合わせて作られている。結線方式の違いとは、詰まるところ、この3つの巻線の端と端をどう結ぶかという一点に尽きる。
Y結線(スター結線)は、3つの巻線の一端をすべて1つの点に集め、残りの3つの端子をそれぞれ相として引き出す。集めた1点が中性点で、そこへ電線を継ぎ足せば中性線になり、大地へつなげば接地点になる。星形に3本の腕が伸びる形が、そのまま名前になっている。
Δ結線(デルタ結線)は、3つの巻線を頭としっぽで順につなぎ、輪のように閉じた1つの回路を作る。引き出せるのは、巻線同士のつなぎ目にあたる3つの頂点だけだ。中性点に相当する点は、この結線のどこにも存在しない。
「1点に開いているか、輪として閉じているか」――この違いだけで、この先に出てくるほぼすべての性質が決まる。
Y結線のメリット――中性点という取り出し口
Y結線の中性点は、まず実務上の便利さをもたらす。ダイヘンのFAQが示すとおり、Y結線の相電圧は線間電圧の1/√3なので、中性点を接地すれば各相の対地電圧も線間電圧の1/√3に抑えられる。線間200Vの三相回路であれば、対地電圧は約115Vで済む計算だ。機器の絶縁設計も線間電圧そのものより低いレベルで足り、コストは下がる。中性点接地方式についてのJEEAの解説が指摘する通り、直接接地方式では線路側端子から中性点にかけて絶縁の程度を段階的に下げる「段絶縁」も可能になり、系統全体の経済性が上がる。
中性点はまた、単相負荷を取り出す引き出し口としても働く。各相の導体と中性線のあいだから電圧を取れば、三相4線式では、線間電圧で三相負荷に、相電圧(線間電圧の1/√3)で単相負荷に、同じ変圧器から供給できる。
一次・二次の両方をY結線にすれば、千代田電機の整理にあるとおり両側で接地でき、保守・保護が容易になる――Y-Y結線には、そういう長所も確かにある。
Δ結線のメリット――閉じた輪だからこそ、高調波を外に出さない
中性点がないΔ結線には、これらの便利さが一つもない。接地できず、単相負荷も素直には取り出せない。だとすれば、Δ結線は単に不便なだけの、旧式の結線方式なのだろうか。
そうではない。むしろ、中性点がなく閉じているという同じ性質が、Y結線にはない役割を果たしている。
変圧器は、鉄心を磁化するためにわずかな励磁電流を流し続けている。鉄心の磁化特性は電流と磁束が比例しない非線形な関係にあり、磁束を素直な正弦波に保とうとすると、励磁電流のほうが歪む。この歪みの主成分が、周波数が3倍の第3次高調波だ。基本波で120°ずつずれた三相も、周波数が3倍になれば位相のずれは360°、つまりゼロになる。第3次高調波は、U相・V相・W相のどこでも同じ位相で重なり合う性質を持つ。
この「三相そろって同位相」という性質が、Δ結線では都合よく働く。Δ結線の3つの巻線は輪としてつながっているため、同位相の第3次高調波電流は、外部へ出ることなく、輪の内側だけをぐるぐる回る循環電流として流れ続けられる。千代田電機の整理が示す通り、Δ結線を持つ変圧器の誘導起電力に第3調波が含まれず歪みが少ないのは、この環流回路のおかげだ。中性点がなく、出口がないという構造が、そのまま「外に漏らさず巻線内で処理する」仕組みとして機能している。
Y-Y結線ではこうはいかない。中性点で1点に集まっているだけの構造では、三相そろって同位相の第3次高調波電流の逃げ場がない。行き場を失った分は、電流ではなく磁束や誘起電圧の歪みとして現れる。ダイヘンのFAQによると、単相変圧器3台のY-Y結線では各相の誘起電圧に50%程度の第3調波電圧が重なり、波高値は正弦波のときの150%程度になって巻線の絶縁をおびやかす。二次側の中性点を接地していれば、線路の対地静電容量を通じて第3調波電流が流れ、通信障害を起こす場合もある。JEEAの3巻線変圧器の解説によれば、275kV以下の送電用変圧器は中性点接地と並列運転のために一次・二次ともスター結線にしつつ、第3調波で系統電圧がひずむのを補うため、第3調波電流を還流させるデルタ結線の三次巻線を設けたスター・スター・デルタ結線にしている。
ただし、Y-Y結線がいつも使えないわけではない。同じダイヘンのFAQは、一般に使われる内鉄形三相3脚鉄心では第3調波の磁束が非常に小さくなり、前述の短所も避けられると説明している。
Δ結線の効用は、第3次高調波だけにとどまらない。株式会社ダイヘンのFAQは、三相4線式で一次側をY結線のままにした場合の別の落とし穴を説明している。二次側で単相負荷を偏って取ると、その負荷電流を打ち消すための一次側電流がU相だけでなくV相・W相にも流れ込み、一次側の各相の誘起電圧を不平衡にし、中性点そのものを移動させてしまう。一次側をΔ結線にすれば、一次・二次巻線のアンペアターンが輪の中で打ち消し合い、この不平衡は起きない。中性点がないという同じ構造が、ここでも「巻線内で帳尻を合わせる」役割を果たしている。
Δ-Δ・Y-Y・Δ-Y・Y-Δ――結線の組み合わせで用途が変わる
一次側と二次側それぞれにΔとYの2通りがある以上、組み合わせは4通りに絞られる。どれを選ぶかは、高調波を抑えたいか、中性点接地が要るか、その両方かで決まる。
Δ-Δ結線の長所は、電験教室・千代田電機いずれの整理でも、第3高調波の環流回路を持ち誘起起電力の歪みが少ないことが挙げられている。一次・二次間に位相変化がないことも長所で、日本電気技術者協会の解説でも、Δ-Δ結線とY-Y結線では一次側電圧と二次側電圧は同相になるとされている。3台の単相変圧器で構成する場合は、1台が故障してもV-V結線として運転を継続できる融通の利きやすさもある。ただし中性点が得られないため、千代田電機の整理のとおり、接地が必要な場合には適さない。
Y-Y結線は、JIS C 4304で三相50kVA以下の標準結線と定められているように、比較的小容量の変圧器で使われる。一次・二次とも接地できて保守・保護がしやすい半面、第3次高調波の環流回路を持たないため誘起起電力が歪みやすい(内鉄形三相3脚鉄心では、前述のとおりこの短所を避けられる)。50kVAを超える場合はY-Δ結線を標準とする、とダイヘンのFAQは案内している。
Δ-Y結線は昇圧用に多く使われる。電験教室・千代田電機の整理が示す通り、Δ結線側で第3次高調波を環流させて歪みを抑えつつ、二次側のY結線で中性点を接地できる。高電圧側になりやすい二次側をYで受け持つことで、絶縁の面でも有利になる。
Y-Δ結線は降圧用に多く使われる。受電端で高電圧側になりやすい一次側をYで受け持ち中性点接地の恩恵を得たうえで、二次側のΔ結線で第3次高調波を環流させる。二次側には中性点が得られないため、低圧側で単相負荷を分岐したい配電用途にはΔ-Y結線のほうが向く、という逆転が起きる点には注意がいる。
どちらの組み合わせでも、Δ側とY側の間には30°(電気角でπ/6ラジアン)の位相差が生じる。日本電気技術者協会の解説講座「三相変圧器の位相変位」は、Δ-Y結線では二次側電圧の位相が一次側より30°進み(位相変位−30°)、Y-Δ結線では30°遅れる(位相変位+30°)と整理している。単独運転なら支障はないが、変圧器を並列で増設する場合は、結線記号に付く時計表示(JIS接続記号のDy11・Yd1など)まで一致させないと、位相差から循環電流が流れてしまう。同解説の並行運転可否の表でも、位相変位が+30°と0°、−30°と0°、+30°と−30°という組み合わせは並行運転が不可能とされている。
中性点接地の考え方との関係
Y結線が生む中性点は、ただ存在するだけでは意味を持たない。どう接地するか、そもそも接地するのかどうかが、系統の性格を決める。
JEEAの中性点接地方式の解説によれば、中性点接地の目的は、1線地絡が起きたときに健全相の電圧が上昇するのを抑え、線路や機器の安全を確保しつつ、絶縁レベルを下げて系統全体の経済性を高めることにある。ただしすべての系統が中性点を直接接地しているわけではない。日本の6.6kV配電系統は非接地方式が採用されている。JEEAは、1線地絡時の異常電圧の割合は高いものの系統電圧が低いためその絶対値は小さいこと、この電圧階級では絶縁強度に余裕のあることが多いこと、市街地に施設されるため通信線への誘導障害防止や保安確保を優先することを理由に挙げている。
もう一つ、見落とされがちな接地がある。高圧を受電する変圧器の低圧側中性点に施すB種接地だ。JEEAの電気設備技術基準解説によれば、B種接地工事の目的は、高圧側と低圧側の電路が万一混触した際に、低圧側の絶縁破壊による災害を防ぐことにある。電気設備技術基準の解釈第24条は、B種接地工事を施す箇所として、まず低圧側の中性点を挙げている。Y結線の中性点がその接地点になる。中性点のないΔ結線を低圧側に使う場合は、同条が定める「低圧電路の使用電圧が300V以下の場合において、接地工事を低圧側の中性点に施し難いときは、低圧側の1端子」に施す方法が対象になる。どの端子に施すかは設計図書で確認する。
高調波を抑えたいならΔ、中性点接地の恩恵を受けたいならY――両方が必要な設備ほど、Δ-YかY-Δの組み合わせ、あるいは3巻線でY-Y-Δという構成に落ち着くのは、この二つの要求が単一の結線では両立しないからだ。
高調波対策の観点からの結線選定――実務でどう判断するか
ここまでの整理を、発注や選定の場面でそのまま使える形に戻すと、判断はおおむね次の二択に収まる。
系統への高調波流出を抑えたい場合は、どこかにΔ巻線を持たせる。Δ-Δ、Δ-Y、Y-Δのいずれかを選ぶか、Y-Y構成のまま安定巻線付きの3巻線変圧器にする。中性点接地や単相負荷の分岐が必須の場合は、その側にY巻線を持たせる。両方を満たしたいのであれば、高電圧側をY、低電圧側をΔ、あるいはその逆という非対称な組み合わせを選ぶことになる。
既設設備の更新でここを取り違えると起きるのが、「同容量・同電圧で発注したはずなのに、結線記号が違って中性点の有無が変わってしまった」という事故だ。単相負荷を分岐する予定だった二次側に中性点のないΔ結線の変圧器が届けば、配線をやり直すか変圧器自体を交換するかの二択を迫られる。逆に高調波対策として指定されたはずの箇所にY-Y結線が使われていれば、通信障害という形で後から問題が表面化しかねない。型番・容量に加えて、結線記号(Yd11・Dyn1など)まで含めて既設図面と照合することが、この手のやり直しを防ぐ最後の砦になる。
変圧器・結線方式まわりの部材調達について
更新用・増設用の変圧器を見積依頼するときは、既設品の銘板にある容量(kVA)、一次・二次電圧、周波数、結線記号(Dyn11・Yd1など)、百分率インピーダンスを添えると、並行運転や中性点の有無まで含めて照合しやすくなる。電設資材専門商社・松本電業株式会社(東京都台東区台東2-4-11)の見積フォームから依頼できる。
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