工場の三相200V回路に、3本の電熱ヒーターをY字形につないだ装置がある。テスターで電線どうしの間(線間)を測ると、R-S間もS-T間もT-R間も、確かに200Vある。
ところがヒーター1本の両端にテスターを当てると、115Vしか出ない。3本の電線はどの組み合わせでも200Vなのに、そこにつながるヒーターには115V。差し引き85Vは、どこへ消えたのか。
見当がつかなくて当然だ。このトピックを読み終えるころには、この115Vという半端に見える数字を、自分で計算して出せるようになっている。
三相交流とは、交流の基礎で見た波が、タイミングを120度(1周期の1/3)ずつずらして3つ束になったものだ。3本の電線(R・S・T)で送られ、工場の動力設備やビルの空調の標準になっている。
3つの負荷をこの3本にどうつなぐか。つなぎ方は2つしかない。
- Y結線(スター結線): 3つの負荷の片端を1点(中性点)で束ね、もう片端をR・S・Tへ。負荷1つ(1相)にかかるのは電線と中性点の間の相電圧で、線間電圧=√3×相電圧、線電流=相電流
- Δ結線(デルタ結線): 3つの負荷を輪にして、輪の角をR・S・Tへ。負荷は線間に直接ぶら下がるので線間電圧=相電圧、代わりに線電流=√3×相電流
√3(約1.73)はどこから来るのか。ここで思い出したいのが、配電方式で見た単相3線式だ。あちらは位相が真逆(180度差)の100Vが2つあったから、差を取るとちょうど2倍の200Vになった。三相では2つの相電圧のズレは180度ではなく120度。波の山と谷が完全には向かい合わないため、差は2倍まで届かず、ベクトルで合成するとちょうど√3倍になる。位相差が2倍と√3倍を分けている——電圧降下の式で2IRと√3IRが並んでいたのも、まったく同じ理屈だった。
「三相200V」の200Vは、どれか1本の電線の上に存在する電圧ではない。2本の線の電位の「差」としてだけ存在する。だから同じ200V電源でも、負荷をYにつなぐかΔにつなぐかで、負荷1つが受け取る電圧は115Vにも200Vにも変わる。電圧とは場所ではなく、2点の間にしかないものだ——この見方が身につくと、三相の計算問題は図を描いた時点でほぼ解けている。
断線すると何が起きるか
Y結線の負荷につながる3本のうち1本が断線すると、その瞬間から回路は三相ではなくなる。残った2つの負荷が、生きている2線間の200Vに直列でぶら下がるだけの単相回路になり、等しい抵抗なら200Vを半分ずつ、つまり各100Vになる。断線前の115Vから100Vへ——完全には止まらないのに調子が悪い、という厄介な故障の形だ。学科試験では「断線後の電圧はいくらか」という計算問題として繰り返し出題される。
Δ結線の負荷で、電源線が1本切れたとき
Δ結線の負荷でも、電源線が1本切れた瞬間に三相ではなくなる。やることは同じで、生きている2線の間に、負荷がどうつながっているかを描き直す。
Δ結線の3個の抵抗Rは、三角形の3辺にあたる。1つの頂点につながる電源線が切れたとする。切れた頂点につながる2個の抵抗は、その頂点を通って直列につながった1本の道(2R)になる。残る1個の抵抗は、生きている2線の間にじかにつながったままだ。つまり、生きている2線の間(線間電圧V)に、抵抗R1個の道と、抵抗2個直列(2R)の道が、並列でぶら下がる。
- 合成抵抗: R×2R÷(R+2R)=2R/3
- 消費電力: P=V²÷(2R/3)=3V²/(2R)
- 抵抗R1個の道の電力V²/Rと、2R の道の電力V²/(2R) を足してもよい(V²/R+V²/(2R)=3V²/(2R))
断線前の全消費電力は、3個の抵抗に線間電圧Vがそのままかかるので3V²/R。断線後の3V²/(2R) は、ちょうど半分になる。たとえば、線間電圧200V・抵抗20Ωなら、断線前は3×200²÷20=6000W、断線後は3×200²÷(2×20)=3000Wになる。
Y結線のときと同じ「単相に描き直す」手順だが、Y結線は残った2個の抵抗が直列になるだけなのに対し、Δ結線は直列と単独の2つの道の並列になる、というところが違う。
もうひとつ、三相ならではの性質がある。3本のうち2本を入れ替えると、3つの波の押し寄せる順番(相順)が逆になり、回転磁界の向きが反転して電動機は逆回転する。ポンプが逆に回る・ファンが風を吸わないといった施工後のトラブルはたいていこれで、現場では2本をつなぎ替えて直す。なお三相全体の電力は (: 線間電圧、: 線電流)で求められる。
電柱のてっぺんの3本組を見上げる
今日からできることがある。街で電柱を見上げて、いちばん高いところを走る電線を数えてみてほしい。3本が等間隔で並んでいるはずだ。あれが6600Vの三相高圧配電線で、発電所からここまで、電気はずっと三相のまま運ばれてきている。家庭用の単相100V/200Vは、電柱の変圧器でこの三相から取り出された「枝」にすぎない。世界の電力網の幹は三相でできていて、√3はその幹を流れる電気の文法だ。知ってから見上げる電柱は、昨日までとは違って見える。
Y・Δの使い分けは知識の飾りではない。同じモーターでも、巻線をYでつなげば1相あたりの電圧が1/√3に下がることを利用して、始動時だけYにして始動電流を抑え、回り始めたらΔに切り替える——という始動方式が実務には存在する。三相の理屈はエレベーター、業務用空調、工場のライン、そして急速充電器のような大電力設備を扱う入口であり、二種の先にある一種や電験の学習でも、この√3が最初の関門として何度でも現れる。ここで出会っておく価値がある。
冒頭の消えた85Vがどこに折りたたまれていたのか、答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。