防火区画貫通処理とは、電線管などの管が耐火・準耐火構造の防火区画(壁・床)を貫通する箇所のすき間を、国土交通大臣認定または評定を取得した工法(耐火パテ・熱膨張耐火材・貫通スリーブなど)で不燃材料により埋め戻す措置です。 工法は配管の材質・外径、区画の種別ごとに求められる時間、壁床の構造の組合せで認定条件が決まるため、この3条件が一致する製品を選びます。
防火区画貫通処理の判断表
| 確認項目 | 内容 |
|---|---|
| 法的根拠 | 建築基準法施行令第112条第20項(すき間をモルタルその他の不燃材料で埋める)・第129条の2の4第1項第七号(貫通部と両側1m以内を不燃材料で造る/大臣が定める外径未満とする/大臣認定工法とする、のいずれかに適合) |
| 処理方法 | 耐火パテ(不燃材料認定)/熱膨張耐火材(火災の熱で5〜40倍に膨張)/耐火スリーブ・耐火ボックス等を使う認定工法/不燃材料の配管ならモルタル・ロックウール保温材の充填 |
| 選定基準 | 配管の材質・外径/区画の種別(面積区画等は1時間、共同住宅の界壁等は45分、その他は20分)/壁床の構造(コンクリート・乾式間仕切り・ALC等)の3条件が製品の認定範囲と一致すること |
| 指摘されやすい不備 | すき間処理そのものの未実施/両側1m以内が不燃材料でなく、大臣認定工法でもない貫通部(遵法性調査の事例) |
| 別枠の規制 | 消防法施行令第8条の区画(令8区画=開口部のない耐火構造の床・壁による区画)は配管貫通が原則禁止。例外は必要不可欠な給排水管に限られ、電気配線は認められない |
混同しやすい「ケーブル自体の耐火性能」は耐火ケーブル・耐熱ケーブル完全ガイドで解説しています。
なぜ「電線管を一本通す」だけで防火区画が壊れるのか
防火区画とは、建物の中に火災が起きたとき、燃え広がる範囲を一定の面積・一定の階段室・一定の用途ごとに閉じ込めるために設けられた、壁と床の耐火バリアである。1時間なり2時間なり、決められた時間だけ炎と熱を通さないという性能試験に合格した構造体として設計されている。
ところが、電気工事はこの壁と床に穴を開けることでしか成立しない。分電盤から先の回路を延ばすには、区画の向こう側まで電線管を通す以外に方法がないからだ。ここに、見落とされがちな構造的な矛盾がある。防火区画そのものは耐火試験に合格していても、そこに電線管を通すために開けた穴は、区画の性能評価の対象外だ。穴を開けた瞬間、その部分の耐火性能はゼロになる。パテ一つ詰めていない貫通口は、たとえ配管が固く固定されていても、防火区画という壁の中にぽっかり空いた「火が素通りする窓」でしかない。
配線が正しく通っていること、盤の結線が正しいこと——電気工事の品質は、この二つで評価されがちだ。しかし建築の法令が見ているのは、その配線が通り抜けた壁の側の性能である。電気屋の仕事が終わった場所で、建築の要求はまだ終わっていない。
建築基準法上の要求——貫通部の措置は「配線工事の一部」である
建築基準法施行令第112条第20項は、給水管・配電管その他の管が準耐火構造以上の防火区画を貫通する場合、そのすき間をモルタルその他の不燃材料で埋めなければならないと定めている。電線管は「配電管その他の管」に含まれるため、この規定の適用対象になる。あわせて第129条の2の4第1項第七号では、貫通する管の構造について、貫通部分及びその両側1メートル以内を不燃材料で造ること(イ)、国土交通大臣が定める外径未満とすること(ロ)、または大臣認定を受けたものとすること(ハ)のいずれかに適合するよう求めている。外径の数値は平成12年建設省告示第1422号に定められている。
ハの大臣認定では、区画の種類によって求められる時間が違う。条文は加熱開始後20分間を基本とし、面積区画などの準耐火構造の床・壁と防火壁・防火床は1時間、界壁・間仕切壁・隔壁は45分間としている。ケーブル防災設備協議会(CFAJ)の解説に沿って言い換えると、面積区画・高層面積区画・異種用途区画・防火壁の貫通は1時間、共同住宅の各戸の界壁や学校・病院などの間仕切壁は45分、それ以外の防火区画は20分である。
ここで一つ断っておきたいことがある。これらの項番号は施行令の改正で複数回変わっており、解説資料によって表記が食い違う。たとえばCFAJの法令Q&Aは「第112条第14項」「第129条の2の5」と旧番号で引用している。本稿の項番号は、2026年10月13日にe-Govの現行条文(令和7年12月1日施行版)で確認したものである。案件ごとの適用条文は、その時点の現行法令を確認し、所轄の特定行政庁・確認検査機関に照会したうえで確定してほしい。
もう一点、建築基準法とは別に消防法上の区画がかかる場合がある。消防法施行令第8条の「開口部のない耐火構造の床又は壁」による区画(令8区画)は、一つの建物を消防用設備の設置上は別の防火対象物とみなすための区画で、配管の貫通は原則として認められない。必要不可欠な配管が区画と同等とみなせる場合に限って例外的に認められ(消防予第53号通知、平成7年3月31日)、CFAJは、令8区画では電気配線・ガス配管は許されず給排水管のみが許されると解説している。特定共同住宅等の住戸間の区画(共住区画)には、別に平成17年消防庁告示第2号・第4号の規定がある。自分が扱っている壁が建築基準法上の防火区画なのか、それとも消防法上のより厳しい区画にも該当するのかは、着工前に図面と所轄消防への確認で切り分けておく必要がある。
処理方法の種類——耐火パテ・熱膨張耐火材・貫通スリーブ
貫通処理に使われる部材は、大きく分けて次の系統がある。いずれも国土交通大臣認定または評定を取得した工法・製品の範囲内で使うのが原則で、認定を受けていない材料を「似たようなものだから」と代用することはできない。
- 耐火パテ(不燃材料認定タイプ): 因幡電工の「耐火パテ 硬化型不燃タイプ」(KF-P)は、厚さ10〜552mmで国土交通大臣の不燃材料認定(NM-4575)を取得した硬化型のパテで、不燃性配管の防火区画貫通部の埋め戻しにも使えるとされている。一方で同製品は、冷媒配管など不燃性配管以外の貫通部の埋め戻し材としては使えないと明記している。「耐火パテ」という名前だけで、樹脂管やケーブルの貫通部に使えるとは限らない。
- 熱膨張耐火材(フィブロック等): 積水化学工業の「フィブロック」に代表される系統で、平常時は薄いシート・テープ状で設置でき、火災の熱を受けると5〜40倍に膨張して断熱層を形成する。積水化学工業の法令解説は、樹脂管等の貫通部は認定を取得した工法で施工する必要があるとしており、熱膨張耐火材はそうした認定工法の部材として使われる。
- 耐火スリーブ・耐火ボックスなどの部材: 未来工業の防火部材一覧には、パテエース・耐火スリーブ・耐火シート・耐火テープ・耐火ボックスなどが電材・管材・空調の用途別に並び、部材ごとに認定書・評定書と標準施工図が公開されている。部材は、認定書・標準施工図に示された組合せどおりに施工する前提で選ぶ。
- 不燃材料そのもので埋める工法: 不燃材料の配管が貫通する場合に、すき間をモルタルやロックウール保温材で充填する方法。第112条第20項の要求をそのまま満たす基本形で、樹脂管には別に認定工法が必要になる。
選定のポイント——配管径と区画の耐火時間で工法を割り切る
貫通処理材を選ぶとき、担当者がまず確認すべきなのは製品カタログの見た目の使いやすさではなく、次の三点だ。
- 貫通する管の材質・外径: 認定は「金属管でこの外径まで」「硬質塩化ビニル管でこの肉厚以上」というように、材質と外径・肉厚の組み合わせごとに条件が切られている。同じ耐火パテでも、対応する管の範囲を外れれば認定の効力は及ばない。
- 区画の種別と求められる時間: 貫通部の大臣認定は、面積区画などの1時間、界壁などの45分、それ以外の20分という区画種別ごとの時間に対して取得される。区画側の種別と、使う工法の認定内容が一致していることを確認する必要がある。
- 壁・床の構造(コンクリート・乾式間仕切り・ALC等): 認定は特定の壁・床構造を前提に取得されていることが多く、想定外の下地に同じ工法をそのまま流用してよいとは限らない。
この三つがそろって初めて「この製品を、この現場で使ってよい」という判断になる。逆に言えば、配管径だけ、あるいは区画の種別だけを見て製品を選ぶと、認定条件のどこかを踏み外していても気づけない。メーカーの施工要領書・大臣認定書の写しを取り寄せ、三条件それぞれを突き合わせるのが、遠回りに見えて一番早い選定の手順になる。
指摘されやすい不備——すき間処理の未実施と、認定外の施工
ビューローベリタスジャパンの技術監査コラムは、延べ15,000㎡・8階建ての事務所ビルの遵法性調査で、パイプスペース・ダクトスペースの防火区画壁(面積区画)を貫通する配管について、次の2点を指摘した事例を紹介している。同コラムは、貫通処理の不備を遵法性調査で比較的頻度の高い項目としている。
- 防火区画を貫通する配管の両側1メートル以内が不燃材料になっておらず、貫通部分も大臣認定を受けた工法で施工されていない
- 防火区画を貫通する部分のすき間処理が行われていない
この事例は給水管・排水管の貫通だが、電線管・ケーブルでも条文の組み立ては同じである。電気工事側で特に注意したいのは、竣工後の変更だ。設備更新や配線追加で穴を広げたり、既設のパテを一部はがして新しい配管を通したりすると、元の認定工法の条件から外れるおそれがある。竣工図に載らない「あとから通した一本」は、未処理のまま見落とされやすい。また因幡電工のKF-Pは、配管の支持・固定機能がなく、硬化後に負荷や振動が加わるとパテが脱落するおそれがあると注意書きしている。配管の支持・固定は別に確実に行う。
新設時の施工品質だけでなく、その後の増設・改修のたびに貫通処理が守られ続けているかという視点を持たないと、防火区画は年月とともに静かに劣化していく。
検査・是正の実務
消防検査や特定行政庁の完了検査、あるいは既存建物の遵法性調査で貫通処理の不備を指摘された場合、対応の流れは概ね次のようになる。
- 該当箇所の特定: 図面と現地を突き合わせ、未処理・不完全処理の貫通口をすべて洗い出す。竣工図に記載のない後施工箇所が漏れやすいため、目視での全数確認が基本になる。
- 認定工法の選定: 区画の種別・壁床構造・配管の材質外径に合った、大臣認定または評定を取得済みの工法を選ぶ。
- 是正施工と記録: 施工後は、使用した製品の認定書・施工写真を保管し、検査官・監査担当者に提示できる状態にしておく。因幡電工・未来工業などのメーカーは、工法表示ラベル(認定シール)や消防評定マークの請求を受け付けている。
是正そのものは技術的に難しい作業ではないことが多い。難しいのは、どの認定工法が自分たちの現場条件に合っているかを、カタログと図面から正しく突き合わせる部分である。ここで判断に迷う場合は、メーカーの技術窓口、または資材を手配する商社に、区画の種別・配管材質・壁床構造を伝えて確認するのが確実だ。
どう発注するか
貫通処理材の発注は、「区画の種別+配管の材質・外径+壁床の構造+数量」が揃えば進められる。
例: 「面積区画(1時間)・コンクリート壁・PF管28相当を10か所、認定工法で」
「共同住宅の界壁(45分)・乾式間仕切り・電線管22相当を5か所、認定スリーブ+パテで」
- 認定・評定の範囲内であることが絶対条件。似た製品での代用はできません
- 区画の種別を必ず伝えてください(面積区画か界壁かなどで求められる時間が変わり、使える工法が変わります)
- 増設・改修で穴を広げる場合は、既設の処理方法も含めてご相談ください
- 個別の適用条文・工法の可否は、最終的に所轄の特定行政庁・消防・確認検査機関の判断によります
防火区画貫通処理材の購入・見積りについて
防火区画貫通処理材の見積りは、電設資材専門商社・松本電業株式会社(東京都台東区台東2-4-11)の見積フォームから依頼できます。区画の種別・配管の材質と外径・壁床の構造・か所数を添えてください。
- Web: 見積もり依頼をする →
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