古い電気ケトルのプラグをコンセントに挿した瞬間、「バチッ」と音がしてブレーカーが落ちた。まだ電源スイッチも入れていないのに、だ。このケトルは、中のヒーター線が切れて、むき出しになった電線同士が触れ合ってしまっていた。
ヒーター線が無事なら、このケトルは100Vで約12A(消費電力にして1200W前後)が流れる。抵抗にすると約8Ωしかない、ごく普通のケトルだ。それなのに、なぜプラグを挿しただけの一瞬で、ブレーカーが反応するほどの電流が流れたのか。
見当がつかなくて当然だ。このトピックを読み終えるころには、電卓を使わなくてもその場で答えられるようになっている。
まず、3つの言葉を一行ずつ。電気は目に見えないので、水の流れに置き換えて覚えるとよい。
- 電圧(記号 、単位はボルト〔V〕):電気を押し出す力。水なら「水圧」にあたる。
- 電流(記号 、単位はアンペア〔A〕):電線を1秒あたりに流れる電気の量。水なら「1秒あたりに流れる水の量」にあたる。
- 抵抗(記号 、単位はオーム〔Ω〕):電気の流れにくさ。水なら「細くて流れにくいパイプ」にあたる。
水圧が高いほど水はたくさん流れ、パイプが細いほど流れにくい。電気でも同じで、電圧が高いほど電流は増え、抵抗が大きいほど電流は減る。
種明かしは、電圧 ・電流 ・抵抗 という3つの数字の関係にある。これがオームの法則だ。
3つの数字はどれか2つが分かれば、残り1つは自動的に決まる。式は3通りに変形できるが、覚えるのは最初の1つだけでいい。
- 電圧を求める:
- 電流を求める:
- 抵抗を求める:
「V=I×R」さえ頭に入れておけば、残り2つはその場で式を移項すれば出てくる。移項に自信がないうちは、下の三角形が使える。
例題
100Vの電源に20Ωの抵抗器を接続したとき、流れる電流は何Aか。
同じ3つの数字(100V・5A・20Ω)は、求める文字を入れ替えても使える。
- 電圧を求める:20Ωの抵抗に5Aが流れているとき、両端の電圧は
- 抵抗を求める:100Vで5Aが流れたなら、
解き方の手順(式の選び方・単位・検算)
- 分かっている数と、求めたい数を書き出す。 「100V、20Ω、電流は?」なら、、、求めるのは 。
- 求めたい文字を隠した三角形から、式を選ぶ。 を隠せば 。
- 単位をそろえてから代入する。 mA(ミリアンペア)は1000で割ってAに、kΩ(キロオーム)は1000倍してΩに直す。20mAは0.02A、2kΩは2000Ω。
- 答えを式に戻して検算する。 5Aと出たら、V に戻るかを確かめる。「電圧が同じなら、抵抗が大きいほど電流は小さい」という向きに合っているかも見る。
電線同士が直接触れてしまう「ショート」(短絡)は、まさにこの状態だ。本来ヒーターの中を通って抵抗を受けながら流れるはずの電流が、抵抗のほとんどない道(触れ合った銅線同士)を見つけてしまう。実際には配線にごくわずかな抵抗が残るため無限大にはならないが、普段の運転時とは比較にならない電流が一瞬で流れる。だからこそ火花が飛び、ブレーカーがそれを検知する。20A程度のブレーカーであれば、ショートを検知してから遮断するまでの時間はわずか0.01〜0.02秒ほどだ。まばたきよりも速い。
電卓なしで解くための、筆算のコツ
公式の受験案内(令和8年度上期)には、電卓(電子式卓上計算機)と計算尺は使用できないこと、そして学科試験問題の計算は四則計算(加減乗除)等の筆算で十分解答できる前提であることが書かれている(要約。原文は受験案内を参照)。令和9年度から学科は原則CBT方式になるので、受ける回の受験案内で電卓の扱いも確認しておくこと。手で計算する前提の問題だから、次のコツで十分に解ける。
- 小数は、整数にして掛けてから、小数点を戻す。 なら、 を出して、小数点を1つ戻して90。
- 割り算は、割る前に約分する。 なら、下の0を1つずつ消して 、8で割って 、さらに9で割って 。
- 「×3600」は、×36 をしてから ×100。 なら、 を出して、100倍して324000。
- 選択肢が離れている問題は、概算で絞れる。 過去5回の学科の問題用紙には、どれも「選択肢が数値の場合は最も近い値を選びなさい」と書かれている。ただし、電圧降下の問題のように選択肢が近い(99・100・101・102のような)問題もある。そのときは概算で選ばず、最後まで計算する。
- √2・√3・円周率は、問題用紙に数値が書いてある。 「√2=1.41、√3=1.73、π=3.14」と示されるので、覚えておく必要はない。
通しの例:接触抵抗0.4Ωの接続部に15Aが1時間流れたときの発熱量。電力 と電力量の考え方は、このあとの「電力の公式」「電力量とkWh」で学ぶ。ここでは手の動かし方だけ見ておけばよい。
- 〔W〕(4×225=900の小数点を戻す)
- 1時間は3600秒なので、〔J〕= 324〔kJ〕
この手順は、並列回路の合成抵抗・電力量とkWh・電線の抵抗のトピックでも使う。
接地記号は、電流には関係しない。基準点を決めているだけ
ここは、直列回路・並列回路のトピックを読んでから戻ってきてもよい。電位は「電気の高さ」(基準点からの電圧)、起電力は電源が出している電圧、電圧降下は電流が抵抗を通るときに下がる電圧()のことだ。
回路図に接地記号が付いていると、「そこから電流が逃げるのでは」と考えてしまう。 だが試験に出る回路では、接地点は電流の通り道にはならない。接地が1か所だけなら、 そこから出て戻る経路が無いからだ。
では何のために描かれているのか。電位の基準(0V)を決めるためだ。
「a-b間の電圧は」と2点を指定する問題で、接地記号は「aを0Vとして考えてよい」という 目印になっている。
- 電流を求める……接地は無視してよい。1本のループとして I = 全起電力 ÷ 全抵抗
- 基準点を0Vと置く……接地記号のある点を0Vにする
- 基準点から目的の点まで、たどりながら足し引きする……電源を通れば起電力を足し、 抵抗を通れば電圧降下(I×R)を引く
電流の計算と、電位の計算は別の作業だと分けておくのが要だ。 接地記号を見て電流計算を悩みはじめると、そこで止まる。 接地は電位の話にしか効かない。
測れない電流を、測れる2つの数字から言い当てる
電流を測るには、基本は回路に電流計を割り込ませる必要がある(クランプメーターなら回路を切らずに測れる)。いっぽう抵抗なら、コンセントから抜いた状態で測れる。つまりこの式は、電気を流す前に電流の大きさを言い当てるための道具だ。今日試すなら、使っていない電気器具をコンセントから抜き、テスタの抵抗レンジをプラグの刃に当ててみるといい。白熱電球なら、100V・60Wから逆算した約167Ω( という形で、電力の公式のトピックで学ぶ)よりずっと小さい値が出るはずだ。フィラメントは熱くなるほど抵抗が増えるので、冷えている間は何分の一かまで下がっている。電球が切れるのがたいていスイッチを入れた瞬間なのは、そのせいだ。
この式が最初に置かれているのは、計算力を試すためではない。 が小さくなるほど電流が跳ね上がるという一方向の事実を、体に入れさせるためだ。短絡も、緩んだ端子の異常発熱も、絶縁の劣化も、すべてこの式の上で起きている。現場で使う絶縁抵抗計にしても、電圧をかけて流れた微小な電流から抵抗を逆算する の装置にすぎない。裏返せば、電圧を上げれば同じ電流でより多くの電力を運べるということでもある。EV充電器やIHが200Vで作られるのはそのためで、これから増える設備ほど、この一本の式の上に立っている。
冒頭のケトルで何が起きていたのか、答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。